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里山の子供たちの遊び「初夏」6

里山の子供たちの遊び「初夏」6


「馬乗り」は、まずジャンケンをして馬に乗る順番をきめるのです、最初に勝った子供が馬に乗り役で、二番目が板塀か樹木などを背にして立ち、三番目は二番目の股の間に腰を折って首を突っ込み最初の馬になるのです。四番目以下も、次々と前の子供のお尻の股に頭を突っ込んで馬になるのです。最初にジャンケンで勝った子供は、背中が繋がっている一番前の子供の背中を目指して、馬が最後の四~五メーター後方から助走をつけて勢いよく背中を両手で蹴って前に跳ぶのです。勢い余ってバランスを崩して落ちないようにつかまって前向きに立っている二番目の子供とジャンケンをするのです。立っている子供が勝つと乗り役になって、負けた一番目は最後尾の馬につながるのです。三番目は順位があがって立ちあがり、ジャンケンをする役になるのです。こうして、ジャンケンの勝ち負けで次々と役を交代しながら続けるのです。あとから参加する子供が順番につながると、子供たちの背中の馬が大蛇のように長くなるのです。


初夏の匂いが里山じゅうにあふれていて、穏やかで力があって苦しいほどの草の匂いがする季節になると、子供たちは上級生と下級生がそろって山に行き手ごろな柳の木を切ってくるのです。その柳の枝を平たく小刀で削ずって、大小二本の脇差を作るのです。その脇差を腰にさして、頭には手ぬぐいで鉢巻をして「やあやあ、われこそは新撰組の近藤勇なり」とか「土方歳三なり、皆の者、束になってかかってこい」などと威張って名乗りをあげながら大立ちまわりを演じるのです。小学校四、五年生は上級生に言われて斬られ役になるのです。小さな子供たちはバタバタと斬られてしばらくは死んだふりをして、さらに起き上がっては立ち向かうのです。柳の枝の切れ端と針金で作って敵の刃を防御する十手を持っている子供もいるのです。紫の風呂敷を頭にかぶり覆面姿となった上級生の鞍馬天狗が、柳の枝の刀を頭上でふりかざし竹ボウキにまたがって砂ぼこりを巻きたてながら、「パカパカ」と馬のヒヅメの音を自分の口で言いながらさっそうと登場するのです。「東山三十六峰、草木も眠るウシ三つ時、それをゆるがす剣ギのひびき」と口上を言って、向かう相手は割りばしの手裏剣を頭につけた荒木又右衛門なのです。上級生どうしが「ヤァッ、トォッ」と勇ましい掛け声をかける戦いとなって終るのです。棒きれを一本持つと子供たちの瞳は輝き、たちまち格好のいいヒーローになりきるのです。子供たちは空想力と感性を豊かに「チャンバラごっこ」で大自然の野山や神社境内を駆け回り、夕焼けの何処かしこも赤く染まるまで遊ぶのです。


子供たちが何人かが広場に集まると、「かくれんぼ」とはちょっと違った遊びをするのです。まずジャンケンで鬼を決めたら、あらかじめ用意をしてきた空き缶を決められた一定の場所に切り口を下にして置くのです。その缶を鬼以外の子供の一人がなるべく遠い所へとぶように蹴り、鬼が缶を拾いにいっている間に四方八方へ逃げて隠れるのです。鬼は拾ってきた缶を元の場所に置き、隠れた子供たちを捜し回るのです。見つけたら素早く缶の所へ戻り、「○○ちゃん ポン」といって片足で缶を踏むのです。姿を見つけられて缶を踏まれた子供は鬼に捕まったことになるのですが、見つけられても鬼が缶を踏む前に鬼より早く走っていって缶を蹴って「缶をけった」と言ったらセーフなのです。その時は鬼に捕まっていた子供も再び逃げて隠れることが出来るのです。全員が捕まるまで終わらない、戦略を要する知的な「缶けりごっこ」という遊びなのです。


里山に流れる川に雪解け水が少なくなる初夏になって、全てを溶かしそうな熟れた熱気が漂う日に子供たちは川遊びをするのです。近所の大工さんから四角い板の箱にガラスを入れた「スイメン」を造ってもらい、ガラスのはまっている溝にロオソクを溶かし込んで、隙間から水がはいり込まないようにするのです。ヤス「モリ」は竹の丸箸の太い方に木綿針を五~六本を糸で括り付けただけの小さなヤスを使うのです。清い川の流れをスイメンでのぞくと水中は太陽の光が、流れの文様を屈折した影が川底を揺らめき、ステンドグラスを覗くような異次元の世界に入り込んだ感じがするのです。そんな泡立つ流れの中の石をそっと取り除くと、小さな「カジカ」が潜んでいるのを木綿針ヤスで突くのです。まれに流れが深くなる「ドブ」で大きなイワナに遭遇することがあって、果敢にも木綿針のヤスで挑戦するのですが、見事に針を折られて逃げられてしまうのです。小さなカジカを何匹も連ねて竹串に刺したものを、囲炉裏のオキ火で塩焼きにして骨ごと香ばしく食べるのです。大漁の時は初夏のお日様で干して保存食にするのです。


 里山に一軒しかない文房具やでは、「少年サンデー」や「少年マガジン」などの少年雑誌が発売されるのです。発売日を楽しみにして買った子供が読み終わると、買えなかった子供たちが次々と借りてきて回し読みをするのです。世の中では守屋浩の「僕は泣いちっち」やペギー葉山が歌う「南国土佐を後にして」の歌謡曲がはやり、テレビでは「少年ジェット」や「ポパイ」が人気番組となって「岩戸景気」へと時代は突き進むのです。



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