里山の晩秋の風景2
里山の晩秋の風景2
うっそうとした杉林のこずえが、われが一番天に近く高いのだと自己主張しながら、「ごぉ~ごぉ~」と音をたてながら南風の強弱にあおられて同じ方向に大きくに小さくに揺れているのです。それが突然に動きを止めて静かになると、風向きが変わり徐々に空一面に重そうな鉛色の雲が低く垂れこめて冷たい北風に変わるのです。
何日間冷え込んだ田んぼや畑の地表は、晩秋の長雨にたたかれて緩んだ豊かな土が泥状化となって、里人たちが最後の収穫の慌ただしさの痕跡を足跡のくぼみとして残し、地表は凸凹状に凍てついているのです。
その数々のくぼみに、北風で運ばれてきた大小にさまざまな枯葉が置き土産となって折り重なり、やっと落ち着ける場所が出来たかのように吹きだまりながら、降ってくる雪の下になるのを待っているのです。近くの地表に霜柱が、地面が断層のズレの様に細い氷が規則正しく一本一本が柱状節理のように地表を持ち上げ白く冷たく光っているのです。
里山で自然界の音以外何も聞こえて来ない静けさの中で、肌を刺す冷たい風に乗って遠くから蒸気機関車のさびしげな汽笛の音が低く余韻を残し「ポォーポォ」と聴こえ、重い車両を支えてきしむ車輪とレールが辛そうな悲鳴の様に「ゴトンゴトン」「キキィー」と聴こえるのです。
里山の人たちは四季を通して自然界の中で見るもの、聞く物、肌で感じる物の変化で動物的な感で天候予測をするのです。晩秋の西空の遠くから途切れ途切れに聞こえる遠雷の音が、夏の威勢の良い響きを何処かに隠してしまったように鳴り出すと、里山の人たちは雪下ろしと称して雪の降る事を予感するのです。遠雷の音を聴き分けて、今度に降る雪は根雪となるのだと雪国生活者が本能的に予測する知恵が脳裏に染み付いているのです。なかでも、長く里山で過ごした古老は、若い頃に山仕事でけがをした膝がうずき出すと、今度に降る雪は消える事がなく春迄降り続くからと予測して冬支度をせかせるのです。