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里山の子供たちの遊び「春」3

里山の子供たちの遊び「春」3


春がすみで遠くの家々がぼやけて見える、砂利や砕石を敷き詰めた街道にはほとんど車が通らないのです。その穴だらけの街道に子供たちが集まって、空き缶の上に足を乗せて歩く空き缶ぽっくり「缶下駄」を履いて遊ぶのには最適なのです。本来は木履(ぼくり)と言う下駄の一種なのですが、空き缶に乗って「ぽっくりぽっくり」と音を出しながら歩くことが語源になっているそうなのです。


空き缶の最上部にくぎで穴を開けて反対側にも同じく穴を開けたら、丈夫なタコ糸を通して端を結び二個作れば完成なのです。サバ缶のような低い空き缶ぽっくりより桃缶などの高さが高い空き缶ぽっくりの方が優越感と操る難度を自慢できるのです。普段より目線の位置が高いと、見える世界が変わり少し大人に成った気分になるのです。空き缶ぽっくりを履いて歩く速さを数人で競争をしあい、乾いたデコボコの街道を歩いて缶の鳴る音を楽しみ、わざわざ泥の中や水たまりを歩いて遊ぶのです。何気なく缶ぽっくりを履いて歩くのは簡単に見えるのですが、交互に浮ける片足の裏に空き缶をピタッと付けるのは熟練の技を要するのです。単純な遊び道具なのですが、遊びながら子供たちの足腰を鍛えてバランス感覚と機敏さを身につけるのに効果的なのです。 


街道沿いに並んで建つ家の開けはなられた窓から聞こえてくるラジオの音は、島倉千代子が歌う「この世の花」や春日八郎の「別れの一本杉」が流れているのです。感受性の高い子供たちは歌詞の意味もわからずに大人の歌を自然と知らず知らずのうちに覚えてしまい大声で歌うのです。その頃の日本人はまだ完全に敗戦のショックから立ち直っておらず、戦勝国のアメリカや同盟国に対する負い目が人々の心の内でくすぶっているのです。テレビの普及し始めた都会の人たちのうっ憤を晴らしてりゅう飲を下げ壮快な気分にさせてくれたのが、プロのレスラー力道山の「カラテチョップ」なのです。リングの上で力道山は相手の攻撃を受けてもガマンにガマンをかさねたあげく、突然に「カラテチョップ」の大技を駆使して悪をこらしめ倒すのです。体を硬直させながらテレビ放送を見ている人々の気持ちは、外国人レスラーの怪物や悪玉の退治をする気持ちが盛り上がって日本中に「プロレスブーム」となるのです。その結果が自然と子供たちにプロレス遊びが流行りだして、都会の中学生が遊び相手の顔や胸を殴って死亡させた悲しいニュースを、テレビの無い里山の子供たちはラジオ放送を聞いて話題にするのです。


街道を使う他の遊びに、「タガ回し」があるのです。「タガ」は木オケ「タル」の胴の一枚一枚の木材がバラバラにならないように、締め付ける為の細い竹を編んだ輪なのです。壊れて使えなくなったオケから「タガ」を外して、細い木の棒で倒れないように支えながら押して回転させながら遊ぶのです。ただ転がすだけではおもしろくないので、数人の子供たちがどこまでタガを倒さないで行けるかを競争するのです。なかには自転車のリムを持ってきて転がす「リム回し」もあるのです。子供たちが石ころだらけの不安定な街道で履いている履物は、ゴム草履や歯のすり減った下駄が大半なのです。少し裕福な家の子供は、運動靴の形をしているゴムでできた短靴「パグツ」を素足のまま履いてかいた汗でグチュグチュと音をたてながら遊び回るのです。


春独特の生温かい風が桜のにおいを含んで彷徨っている里山は、さまざまな作業をする為に農家の前は広場になっているのです。そんな格好の遊び場に男の子たちが何人か集まってコマ回しをするのです。コマの細い心棒を中心に手のひらを合わせ前後にすり合わせて回す方法や、指で心棒を滑らせて回転させる方法に、コマと胴の下の心棒にヒモを巻きつけ引っ張ってほどける力で回転させる方法が有るのです。遊び方は相手のコマにぶつけて倒すと勝ちになるルールと、長く回した方が勝ちになるルールが有るのです。年上の子供は地面で回すことでは飽きも足らずヒモを引いて空中にコマを投げ上げて、回っているコマを手のひらで受けたまま鬼ごっこをするのです。妙技はコマを空中に投げ回した瞬間にヒモの片方を肩にかけて、ヒモの中央でコマを受け止め綱渡りをさせながら得意満面に曲芸を披露するのです。大きなコマになると、うなりを発して回転するものもあってなかなか勇壮なのです。

 

ビー玉遊びは、かげろうの揺らめくデコボコした黒い土に小さな穴をいくつか掘り一番手前の穴の前に線を引いて、そこから穴を目指しビー玉を指ではじき順番に穴に入れて遊ぶのです。最後の穴に早く入れた子供が勝ちなのです。ビー玉の遊び方にはもう一つ有るのです、地面に島の形を書いて持ち寄ったビー玉を書いた島の中に置くのです。順番に自分の持っている親玉を島の中にあるビー玉をめがけて投げ入れてはじき出すのですが、たくさんはじき出しても自分の親玉が島に残ったら負けなのです。ビー玉には大きいのと小さいのとさまざまなものがあって、真ん丸の中心に向かっていろんな色が帯状になっているのを転がすと色が混ざりあい不思議な奇麗さなのです。


週の何曜日かの午後になると、紙芝居のおじさんが農家の広い庭にやって来るのです。街道沿いを拍子木の音をカチカチと鳴らしながら子供たちを集めて回り、紙芝居の道具を設置する背面が家の壁で「ただ見」のできない場所を選んで商売をするのです。お金を払うと水アメを割りばしに巻いたものがもらえて紙芝居を見られるのです。子供たちは水あめを舐めながら半円状に立って並び、紙芝居の始まるのを楽しみに待つのです。おじさんは「少年タイガー」や「黄金バット」など連続ものを二幕やってくれてドラなどの鳴り物入りと声色を使って演じるのです。紙芝居は自転車のうしろに組立式の画用紙大の絵が入る舞台を積み、下の引き出しからはお菓子を出して売る駄菓子販売の子供を集めるためなのです。子供たちにとってお菓子は食べられるし、昔話やマンガは聞けるし一石二鳥なのです。小学校低学年を対象にした商売なのですが子供たちはただ単純に物語の世界にどっぷりつかり、面白い場面では笑ったり、悲しい場面や怖い場面では泣いたりしながら紙芝居を楽しむのです。



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