里山の子供たちの遊び「早春」2
里山の子供たちの遊び「早春」2
地にも空にものどかに春の光りが動きだした田んぼの雪が消えて土が乾き埋まらない硬さになると、子供たちはどこの家の田んぼであろうとも関係なく金バケツと竹編みのザルとクワを手にしてドジョウ獲りやタニシ「ツブ」拾いをするのです。用水路から一枚一枚の田んぼに水を引き入れる取り入れ口「ミナクチ」に小さな水たまりができている所がドジョウ獲りの狙い場所なのです。ドジョウは水の冷たさを避けてその周りの土に潜り込んでいるのです。この土をクワで掘り上げてザルに入れ水で流しながら土を溶かしてドジョウだけになったものを拾うようにして獲るのです。大漁の時は、土と水の冷たさで動きの鈍いドジョウはひとすくいで五、六本ザルの中で簡単に獲れるのです。
田んぼの土の上をはい回って幾化学模様の跡をつけるタニシを拾って、井戸から汲み上げた水に数日間浸けておくのです。泥をはかせたタニシやドジョウを里山の人はさまざまな料理に加工して食べるのです。タニシは春のネギと一緒に酢みそ和えやみそで煮込むのが定番なのです。同じく泥をはかせたドジョウは、素焼きにしてから長い時間しょうゆと砂糖で煮込んで甘露煮にして食べた後の残りはたいせつな保存食にするのです。農家にとってはぜいたくで大変に貴重な菜種油を使って、ドジョウの骨までカリカリになるようにカラ揚げにして香ばしく食べるのです。現代でも好きな人の多い柳川鍋は、ドジョウを丸ごと水から煮崩れないように静かに煮あげてみそをいれ、最後に笹ガキごぼうを入れたみそ汁仕立てにするのです。カルシウムやビタミンDが豊富で滋養と強壮のあるドジョウは、冬にたまった疲れを取ってくれてこれから始まる農作業に備えての体力がつく栄養補給なのです。
ドジョウもタニシも田んぼからの恵みで、里山の家族全員の貴重なタンパク源なのです。少しでも空腹をいやすことが最大の関心事である里山の家族に、大自然は自然とともに生きる人々を飢えから守るようにバランスよく食の恩恵を授けるのです。日本の原風景である田んぼの生命力あふれる土には、有機肥料だけが唯一の肥料で化学肥料や農薬などは勿論なくて蛍やイナゴにトンボとカエルなどの小さな生物がいっぱいいるのです。
春うららの畑には、菜種をとる菜の花が黄色いじゅうたんを引きつめたように、見渡す限りうねって咲いているその脇の農家の広い庭の黒土が踏み固められて草も生えない地面では、暖かい日差しを浴びながら数人の男の子がパッチで遊ぶのです。パッチには大小の丸型と、まれに長方形のものがあって表には牛若丸 自雷也 忠臣蔵などの武者絵など美しくごく彩色刷りされているのです。なかでも自分の気に入った武者絵のパッチを宝のように大事にするのです。勝負は子供たちの全員がパッチを一枚地面におき、魅力のある欲しい相手のパッチの近くに自分のパッチをたたきつけて起こる風で裏返しにするのです。ひっくり返れば自分の勝ちでそれをもらうことができるのです。
みんなそれぞれに知恵をしぼり、すぐに裏返しにならないようにロオソクを溶かして塗ったのやら油をしみ込ませて、パッチを重くして簡単にひっくり返らないように工夫して勝ち取る枚数を増やすのが楽しみなのです。雪が溶けて土が乾くのを待ちこがれていた子供たちは、薄暗くなるまでパッチ遊びに夢中になって春の訪れのよろこびを味わうのです。




