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早春賦

早春賦


瞳から感じられる里山の早春の風景は青い色からはじまるのです。野山に積もった雪の原がまぶしい太陽に照らされて青く輝きだすと、南から春の風が吹いて過ごしやすい一日が多くなってくるのです。真冬の鉛色の低く垂れこむ雪雲のために山の全容を見られる日が少なかったのですが、春になって晴れ間が多くなると眺められる日が多くなるのです。


昔からの言い伝えであって農作業の指標とする雪形の現れるのを人々は山ひだに探すのです。自然が織りなす雪形の変化で季節の作業判断とするのです。動物の型であれ文字に見えたりする雪形がはっきりと見えだした里山は冬からいっぺんに春がやってきて、青く輝いた雪の原から緑の野原に時間をかけながら変化するのです。芽吹きの始まった雑木林は、残雪の白い大地と芽吹きの柔らかい薄緑色と北国の青い空とのコントラストが美しい春の光景なのです。


漂う空気、流れる風の匂いで春を感じるのは、校庭で風に揺られて古木に咲く桜の匂いなのです。優しい花の色合いも淡く繊細な芳香はわずかなのですが、暖かな風にのって漂いだすと香りに心地良さを感じ心がウキウキしだしてすがすがしい気持ちになるのです。春の強い日差しを浴びて溶けた雪解け水が土に浸みて大地がほほ笑むかのようにカゲロウになって南風にはこばれてくる土の匂い泥の匂い芽吹きの匂いは、植物の命がそこから始まる力強い匂いを感じる春の感動とうれしさが一番心に残る四季の始まりの匂いなのです。


静かな静かな里山で耳に聞こえる命の目覚めの春は、どうやら音からもやって来るのです。遠くや近くから風に運ばれて聞こえる小鳥のさえずりと、雪の原に線を引いたように流れる小川のさらさらと流れる雪解け水の音は自然が奏でる合唱なのです。子供たちが、暖かい日差しの中で遊ぶ元気な声が戻った里山は「眠っていた大地から目覚め始めた大地」へと大自然が劇的に動きの変化を始めるのです。家々では繁殖期を迎えた猫の鳴き声が盛んに聞こえるようになるのも春のしるしなのです。晩春になって木々の葉が風に吹かれて、さわさわと揺れる音は春だけ特有の柔らかい葉同士が擦れるやさしい音なのです。


外気を肌で感じるのは、冬の冷たかった時を過ぎてふわっと軽やかで暖かい感じがする夢心地のような空気の柔らかさなのです。子供達は重い綿入りはんてんを脱ぎ棄て薄着になって、胸元から春の空気をいっぱい抱き込んで山や川に遊びに行くのです。大人たちは暖かい日だまりの中で田んぼのやがて始まる春耕に備え農機具の準備に精を出すのです。


里山の自然に暮らす人々の多くは、里山を利用して農業で生計を立てて暮らして居るのです。雪の消えた日本の源風景である里山は、砂ぼこり舞う曲がりくねった街道脇に草生した石積みの川に流れる生活用水が落ちる小さな滝つぼや、コケむした石橋の横には生活の全ての洗い物をする水ために清い水がよどんでいるのです。家々の裏側には田園や畑と山林が延々と広がっていて、そこから聞こえてくるのは木々の間を抜ける風の音や鳥の鳴き声の自然の音だけなのです。一日の時間を知らせるのは、季節で変わる日の傾き加減と高さでほぼ正確に知るのです。ゆったりとした里山の風景、ゆっくりと時が止まったように一日が過ぎて行くのです。



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