雪降りの峠、春遠からじ3
雪降りの峠、春遠からじ3
しみ渡りの出来る朝は子供達が通学路を通らず、雪の原を長靴のまま自由に歩き回りわざと遠回りして登校するのです。学校が春休みになった地域の少年団行事の一つに「チョコメシ」と言って山に入り男の子だけで炊飯をするのです。林の奥にある谷川のほとりに行って、代々先輩達が残し置いてくれた石を積み上げただけのカマドを探すのです。見つけたカマドでまず行うのが、油分の多い杉の葉を高く積み上げてマッチで火をつけ燃え上がらせることなのです。青白いのろしを春の青い空に立ち昇らせて、遠くや近くの林で同じように「チョコメシ」を行っている違う集落の子供たちにごちそうをつくる準備が出来た合図をするのです。
川から雪解け水をくんできた鍋をカマドの上にのせるのです。材料の肉や野菜は子供たちが持ちよって大好物のカレーライスを作って食べるだけなのですが、子供たちには普段本物の豚肉の入ったカレーライスはめったには食べられない大変なごちそうなのです。この行事を行うことで子供たちが自然に学ぶことは、子供たちどうしへ思いやる気持ちと心の連帯感からマッチの小さな炎から林のなかに落ちている枯れ枝で火を燃やす知恵を身につけて調理炊飯を経験するのです。
子供たちは広くて白い平原で、しみ渡りをして遊ぶことは楽しいのですが危険もたくさんあるのです。雪の原の下にうまって見えない川は、雪のない時期はなんの変哲もない小さな川でも雪の中二~三メーター下の外気にまったく触れていない雪は、積みかさなったおもみで圧力をかけられながら零度を保っているのです。春になると地面に近い雪が地熱で融かされて、川は水かさを増していくのです。雪が徐々にとけだして流れる川は、雪の原の下を空洞となって流れているのです。雪の上からでは被いつくす雪の厚さで流れる水の音は消されてしまい、まったく危険は予測ができないのです。
地形を良く知らない低学年の子供たちが突然に遊ぶ姿が見えなくなった時は、川に落ちて雪の上にはい上がれないことを想像するのです。雪のなかの川は空洞が雪の上の近くまでに大きく広ろがり、うすくなった雪面を踏み外して落ちる子供は自らがセキとなって流れる水を止めてしまうのです。流れる水の量が少ない川でも、セキとめられてしまい満杯になった水はいっ気に子供もろとも下流へと押し流してしまうのです。助けに向かう大人たちは、雪の空洞となっている川のどの辺を掘りあけて助けるかを雪の原の上で知恵を絞りながら懸命に救助活動をするのです。また、自然の危険はそればかりではなく、山に遊びに行き谷川のふちを歩いていて突然に雪ぴが崩れて崖を転がり落ちる事故もあるのです。遊びにしても仕事にしても大自然は時に厳しく里山の人々の命さえも危ぶまれる脅威を持って教えるのです。