「人をだますキツネ」と信じて疑わなかった頃1
「人をだますキツネ」と信じて疑わなかった頃1
猟師は野生動物の中でも、キツネを獲っても肉が硬くまずいので食べることはしないのです。しかし、毛皮としての価値が高いので貴重な獲物として捕獲するのです。キツネは他の動物と違い縄張り意識が強くて行動範囲が広いためなのか、利口で危険を事前に察知する能力が抜きんでているのか、猟師は猟場ではキツネに遭遇する機会の少ない動物なのです。
しかも、狩猟に出てキツネの姿や足跡を見かけてしまうと、その猟場一帯の獲物を一匹も見つけることが出来ない不猟の一日が終わってしまうのです。また、まれにキツネが獲られた時は、口やかましい里人たちのなかには、キツネを射止めた猟師に近いうちに不吉なことが起こるとウワサをされるのです。おそらく想像なのですが、里人たちが苦労をして植林した苗木の芽や皮を食い荒らす野ウサギや、里人が収穫した穀物を食べる野ネズミをキツネが餌として駆除してくれて、森の木や畑の作物を守ってくれるキツネを神聖視しているためなのかもしれないのです。
そんなキツネでも何日も餌にあり付けず飢えの恐怖に駆られた日は、一晩に数十キロ離れた海岸まで行き、荒れた海で波に打ち上げられた小魚類を食べ空腹を満たして、また山の住処に帰ってくると言われているのです。想像できない行動力と神出鬼没さは正体の知れない動物なのです。
野生動物の中で悪賢いキツネは、昔から人をだますと言われているのです。これからキツネにまつわる何話は本当にあった話なのか、それとも作り話なのか、里の人たちが話してくれた不思議な話なのです。