狙われる野ウサギ 1
狙われる野ウサギ 1
野ウサギは雪のない季節は茶色の夏毛で覆われていて、ヤブの中や穴に潜み保護色で外敵から身を守るのです。晩秋になって山頂が白くなると夏毛がだんだんと白い冬毛へと抜け変わり、雪と同じ色になるのです。ポイントとして大きな耳の先端の一部が茶色く残るのが特徴なのです。
柴木や雑草が雪に被われて体を隠す場所がなくなった野ウサギは、空中から獲物を狙う鋭い目の良さと急降下急旋回できる翼を武器に持って襲ってくるトビ タカ ハヤブサなど猛きん類の格好の餌食なのです。
また、雪の上では俊足と匂いに敏感なキツネやテンが飢えて本能をむき出しにしながら、絶えず野うさぎを狙う肉食動物なのです。
空中や地上から狙われる野ウサギなのですが、襲ってくる動物よりもいち早く危険を感じ取る大きな耳と俊敏に逃げる足の速さと、深い雪でも埋もれない大きな後ろ足をうまく使って逃げ切るのです。普段の昼間は空中から襲われないように、沢の斜面にできた雪ぴの下や森の木の下で雪と同色の毛を最大限に使って空中からの脅威がなくなる夜まで眠るのです。
草食動物である野ウサギは夜に行動を起こし、好物の草が雪に埋もれてない冬は木の皮木の芽ササの葉などをかじって食べるのです。雪の原に生きる動物の中では、人間や猛きん類と肉食動物から狙われる一番のかわいそうな動物かもしれないのです。しかし、里山の人たちがだいじに育てる植林した苗木の柔らかい芽を食い荒らす有害な動物でもあるのです。
「うさぎ追いしかの山」の童謡にあるように、里人が猟銃を使わず野ウサギを捕獲する方法も野ウサギの習性をたくみに使った獲り方で行うのです。風が吹かず静かに雪の降る日の野ウサギは、降る雪が体に積り埋もれるのを嫌ってしげる枝葉が傘となってくれる針葉樹の森の木の根元で眠るのです。天候が変わって風が吹きだし針葉樹を揺すり枝葉にたまっていた雪が落ちだして野ウサギの安眠を妨げると、川の沢の斜面の風の当たらない場所に移動するのです。沢に移動した野ウサギは急斜面の途中にある雪のない穴となっている木の根元や、雪ぴの下「ザザ穴」の中に耳だけを穴から出して外の気配を警戒しながら昼間に眠るのです。
その寝ている野ウサギ「ネウサギ」を狙って里山のにわか狩人は、夜の風の吹き方と雪の降り方の状況判断をしてどの方角の沢や森に行ったら大猟になるかを考えるのです。「カンジキ」を着けて深い雪を踏み分け沢の猟場に着いたにわか狩人は、「ザザ穴」の一つ一つに目をこらして雪を踏みつけて「ギュッギュッ」ときしむ音をさせないよう注意しながら静かに沢の上流へと進むのです。
野ウサギは寝ていても警戒心が強く空中から襲撃して来る猛きん類の羽音や、雪の原から静かに近づいて襲って来る肉食動物の足音を聞き分けるために、耳だけを雪の穴から出してレーダーのアンテナように絶えず動かしているのです。動く耳の先が帯状に薄く茶色になっているので雪の白さとの違いで、里山のにわか狩人にとって絶好の「ネウサギ」を発見する目印になるのです。
右左と不規則に動く耳を遠くから見つけたにわか狩人はかねて用意して来た三十センチ余りの木の棒をリュックから取り出し、静かにゆっくり沢を降りて動く耳に近づきながらにわか狩人に向けられた耳が瞬間止まるのを狙って、木の棒を野ウサギの頭上をこえる高さに投げるのです。野ウサギは棒の投げる音が、空中から襲ってきた猛きん類の羽音と勘違いして穴の奥に身を隠すのです。そのあいだににわか狩人は三歩四歩と穴に近づき、暫らくするとまた耳を出して動かし始めたら木の棒を投げて穴に近づき、同じ動作を数回繰返して最後は穴までたどり着き穴の中でわしづかみにして野ウサギを生け捕りにするのです。
猟銃で撃たれた野ウサギは散弾によって毛皮に無数の穴が開いてしまうのです。原始的な狩猟方法なのですが、ワナや生け捕りで獲った野ウサギのほうが毛皮の損傷がなくて、売買するのに業者に喜ばれたのです。しかも、肉のなかに散弾が食い込んでなく調理するのに玉を取り出す手間も省けて、里山の人たちにも一番喜ばれるごちそうなのです。