プロローグ
同窓会の話が動き出したのは、五年ぶりに送られてきた一通のDMがきっかけだった。
久しぶり! 実は同窓会の幹事、引き受けちゃって。来年やろうと思ってるんだけど、力貸してくれる?
送り主は美咲。高校時代。いちばん仲が良かった女友達からであった。既読をつけるのに三日かかってしまい、返事を打つのにさらに二日かかってしまった。
【いいよ、やろっか】
そう送った夜、私は自分の部屋を見回す。見覚えのない参考書が本棚に並び、使っていたはずの水色のペンケースがなぜか記憶にない黒いものに変わっていた。
気のせいか?
美咲の返信はいつも早い。
わ、ありがとう! そういえば文化祭の出し物覚えてる? お化け屋敷やったよね、あれ楽しかったなぁ
お化け屋敷。そんなものをやった覚えはなかった。私たちの出し物は喫茶店だったはずだ。だが既読をつけてしばらくする、とふいに記憶がまとわりついてくる。エプロンの匂い、コーヒー豆を挽く音、美咲の笑い声——まるで最初からそうだったかのように。
【うん、楽しかったよね】
私はそう打っていた。打ってから、指先が冷たくなった。
思い出せない過去のほうがなぜか鮮明になっていく。美咲が何かを言うたび私の中の「あった」が静かに書き換わっていく気がした。
同窓会まで、あと三か月。
美咲は今日も幹事らしく張り切って名簿に私の名前を書き加えている。
まだ、誰も気づいていない。私の名前だけが他のみんなよりずっと遅れて、
そこに加わったことに。




