すれ違って
「リェレンさんのパーティーには、一週間の無給が市長のほうから言い渡されています。」
ーは?
二日酔いにうなされる女子2人を連れて、いつも通り依頼を受けようとしたところ、受付嬢に通達された。
原因は明らか。
僕の右斜め後ろに立つ、自称勇者の少女ーー
リェレン=クリスティ。
猫探しの依頼を受けた彼女が、市内の林を1つ丸ごとつぶしてしまったこと。
しかし、彼女はそんな事気にもとめていない様子で、虚空をぼ〜っと眺めていた。
そして、リェレンがそんな女の子になってしまった原因。
彼女の隣に立つもう1人の少女ーー
カルラ=フォンテーヌ。
理由はわからないが、彼女はリェレンに激甘い。
林を潰したことも、勇者を自称していることも、ニコニコ笑顔で許している。むしろ誇らしそうにさえしている。
ーこのパーティー、マジで大丈夫なのか?
天井とも梁ともつかぬ上空一点を見つめて、僕はため息をついた。
◆
「借金?!」
「断固反対!」
今月の持ち金は残り220ペリル。
日本円にして1,100円。
3人パーティーの僕らが1週間生き延びるにはあまりに心もとない。
冒険者用の借金制度が、ギルドの案内板に貼ってあった。
教会の奉仕活動と一緒で朝から晩まで働けば、寝食を提供するという制度。
都市から外れた諸侯の領地で行われている。
1週間限定農奴生活。
それを2人に提案したところ、激しく反対された。
しかし、僕とてこれ以上金無し生活を続ける気はない。
「じゃあ聞くけど、なんで、1週間無給になったの?」
流石に自覚はあったのか、リェレンはきまり悪い顔をした。
「わかってる?このままだと一生金が貯まらず魔王領に行くことも、ましてやこの街から出ることさえ叶わない。お金の管理は、僕がする。2人に任せてはおけない。」
そこまで言うと、2人は俯いてしまった。
ー言い過ぎたか?
別に無理に農奴生活させる気があるわけではない。
嫌なら、嫌でいい。
普通の寝床があったほうが、今より幾分マシだと思ったんだが。
「わかったよ。その制度、使おう。」
リェレンの声は少し震えていた。
やっぱり言い過ぎてしまったみたいだ。
しかし、今更やめようなんて言うのは、もっと雰囲気を悪くしかねない。
「…わかりました。申請してきます。」
こんなことで、不和を生むつもりはなかったのに…。
ギルドの受付との会話中も、2人のことが気になって仕方がなかった。
胸の奥がじんじん蝕まれるような感じがした。
◆
翌日。
荷物をまとめて壁の外に出て、歩いて2時間弱。
冒険者用の荘園へ到着した。
領主の名はデラロソ=カティアルト。
カティアルト家というのはこの国でも有数の大貴族だそうだ。
ここの領主は現当主の甥っ子にあたる。
この荘園は未だ現金化の流れを汲んでいない。
だからこそ、冒険者を使うことが可能になるのだ。
農奴の自由化につれて苦しくなっていく荘園経営を、そうやって保ち続けているのだから賢い当主だ。
挨拶など、一端の冒険者に叶うはずもなく、作業用地へ案内された。
今の季節はカブの栽培のお手伝い。
生産高を増やすというよりも、ギルドとの関係強化がこの制度の狙いなんだろう。
既にカブは成っていて、それを収穫しつつ、小麦の様子を見るのが仕事。
◆
農作業は安全かつそこそこの給料だからもう既に何度かお世話になっている。
ー今夜はカブの料理でも出るのかな?
地面に大きく顔を出している個体を引き抜きながら考える。
向こうのやつより大ぶりだ。
土壌の影響だろうか。
あれから、2人とは会話が続かなくなった。
ーいつ追い出されてもおかしくないな。
このパーティーを組んでからまだ数日だと言うのに、そう考えるだけでとても寂しくなった。
ーそう言えば、みんな元気にしてるかな。
ふと、もといた世界のことが思い浮かんだ。
「寂しいなぁ。」
冬の曇り空は低く、どこまでも続いていた。
◆
その日の晩に出された料理はカブのパンにカブのスープだった。
ー西部戦線か。
あてがわれたのは倉庫にも見える小さな小屋。
薄い布団が3枚。
円卓を囲んで床に座って食べる。
西洋らしくない。
普段なら、会話が途絶えることはない、はずなのに。
やっぱり2人して、黙ったままだった。
◆
季節は冬。
小さな小屋に薄い布団ではあまりに寒く、寝付くに寝付けなかった。
体を起こす。
少し運動したほうがいいのか。
2人を起こさないように腕立てや腹筋を始める。
鍛える理由なんてどこにもないが、一人になっても、大丈夫なようにしないといけない。
「何してるの?」
リェレンを挟んで向こう側。
カルラは体を起こした。
「ごめん。うるさかった?」
ー色々と、うるさかった?
「ううん。」
カルラは立ち上がり、僕の正面に腰を下ろした。
暗がりのせいで、表情はよく見えなかった。
「ユージ。」
落ち着いた声で、彼女は言った。
「ありがとう。レンを本気で支えてくれて。」
「え…。」
「私は、レンのこと応援しかしてなかった。君のおかげで気づいたよ。レンも、多分怒ってない。君みたく真っ直ぐ支えてくれるのがいなかったからびっくりしちゃったんだよ。」
彼女の顔を、見ることができなかった。
「私、寝るね?」
カルラはまた、布団の方へ戻っていった。
僕はずっと、体育座りの格好のまま。
ーありがとう。
さっきまでの筋トレのせいなのか、鼓動はうるさいくらい、早くなっていた。




