自称勇者と幼馴染
頭のおかしな自称勇者の女の子。
リェレン=クリスティ。
何があったのかはわからないが、彼女は今、魔王を倒す勇者を自称して、旅をしている。
確かに、強い冒険者であることは間違いない。
魔物を触れずにグシャリとつぶしていたから。
しかしーー
「神エテルネスは林を一つつぶしたくらいでは怒らない。人の営みをただ見ているだけの神なんだ。」
「はいはい、わかったから早くほうきでそこ掃いて。」
彼女は少し、融通が利かない。
はっきり言ってしまえば、ただの馬鹿だ。
「私はただ猫を捕まえるために。そもそも、その依頼を斡旋したのはユージじゃん!!」
ほうきで僕を指してくる。
「選んだのは僕でも、林をつぶせなんて言ってない。そもそもなんでつぶそうなんて発想になるわけ??」
しかし、まぁ、僕はこの件に関与しているとは思えない。反省していただかなければ。
本来なら、教会の清掃なんてする必要なかったんだ。
神エテルネスの奇跡をこいつが壊したせいで…。
僕も僕で何言ってるのかわからなくなってきた。
「猫が隠れる場所をなくせば、飼い主は困らない。」
ー頭おかしい。
「あぁ~、なるほどぉ~。」
関わらんとこ。
「カルラ!!ユージが認めたぞ!!」
カルラ=フォンテーヌ。
リェレンとは幼馴染らしい。
そしてーー
「そうだね。私たちは二人ともレンの味方だよ~。」
自称勇者に馬鹿甘い。
たぶん、というか絶対。
リェレンが馬鹿になった原因の一端だ。
♦
馬鹿な二人はおいといて、教会の中に入る。
キリスト教の教会に近いようだ。
ーでっかい絵。
神エテルネス、だろうか。
僕もこの世界に来る直前に神様と話しているわけで。
一概にばかばかしいとは言えない。
片膝をついて手を組んで、目を閉じる。
正しい礼拝の姿勢はわからないが、まぁこんな感じで。
教会の関係者にアピールだ。
僕は熱心な教徒ですよ~。林をつぶした馬鹿とは関係ないですよ~。
『楽しそうで何より。』
目を開けて、顔を上げる。
転生前と、ダンジョンで聞いた、あの声と同じだった。
ーいや、まさかね。
♦
教会の外に出る。
カルラとリェレンはベンチに腰掛けて駄弁っていた。
常日頃から、二人の関係が気になっていた。
リェレンは何であんなことに。
カルラもカルラで、なんであそこまでリェレン狂いになってしまったのか。
二人に気付かれないように大回りして背中合わせのベンチに腰掛ける。
二人の会話を盗み聞きしてやる。
ー下衆だな、やめよう。
謎に盛り上がっていた気分は、一度冷静になるとなかなか戻ってこない。
ー戻ろ。
腰掛けてから10秒もしないでベンチから立ち上がる。
もう一度教会に戻って神様についていろいろ聞いてみよう。
そう思っていた。
「ユージ?」
背中合わせだった。
「なんでばれた。」
リェレンの目は、まっすぐこちらをとらえていた。
「え、気配。」
ーこいつ…。
自称勇者。
頭がおかしい。
そう言って簡単に否定することも、なかなかできない。
「さすが、勇者だね。」
ふふん。とリェレンは鼻を鳴らす。
「掃除は?終わったの?」
リェレンの隣に座るカルラに問う。
「うん。今は指示待ち。」
指示待ち。
終わりじゃないのか。
♦
「や~っと終わった~。」
「疲れた。」
朝から始まった奉仕活動。
教会の清掃に始まり、最後には募金活動。
神エテルネスからの赦しをもらうための活動なので、当然無報酬。
今月は残り7日。
「ごはん外で食べよう?今日は何ももらえなかったし。」
カルラはそう提案した。
「お金は?」
危惧すべきはそこだ。
市長には罰金として3人で1,500ぺリルを支払った。
林を一つつぶしてその罰金が7,500円。
パーティーとしての財布の残りはわからない。
「大丈夫。300ぺリル残ってる。一食ぐらい外で食べても大丈夫だよ。」
1,500円で7日間。
…不安だ。
♦
安い店を知っているという二人に連れられてやってきたのは、僕が初めての外食をしたあの店だった。
日中はおしゃれな雰囲気だったが、夜になると完全に居酒屋ムードだ。
店の扉を開けて適当な席に案内される。
「ここはね、焼き鳥がうまいんだよ。」
正面に座ったカルラがメニュー表を指さしながら言う。
ー焼き鳥!!
久しぶりの日本食を期待していた。
しかし固い。
焦げてる。
苦い。
周りの客はみんなしてこれとビールを飲んでいる。
合うのか?
「こちらビールです!!」
僕たちの座るテーブルにもビールが運ばれてきた。
ーいや、未成年なんだが。
「ユージはまだ駄目だよ。」
カルラとリェレンは木でできたコップを打ち合う。
「二人はいいのに?」
見たところ、僕と二人はたいして年齢は変わっていない。
「私たちは18歳だもん。」
カルラは答える。
ー1つ上だったんかい…。
日々の奇行のせいでまったくそんな感じはしない。
お酒は二十歳を過ぎてから。
この世界では、お酒は18歳を過ぎてから、らしい。
自称勇者とその幼馴染は、おっさんたち顔負けの飲みっぷりを披露していた。
ーその時、店の扉が開いた。
「ユージか?」
聞き覚えのある声がした。
入口の方を見る。
「ルクルさん!!」
最初のダンジョンの案内人。ルクルさんと、リーンさんがそこに立っていた。
ー無事だったのか。
というよりも、僕の治癒魔法(?)の力だろう。
「ユージ…。生きてたのか。」
ルクルさんはまるで父親のように笑った。
「そうだ。ユージ、遅れて悪かった。あの依頼ん時の保証金だ。」
思い出したようにルクルさんは金の入った小袋を差し出した。
「保証金?」
「そうだ。万一の事態のために一人最低200ぺリルは保証されてんだ。」
ー200ぺリル!!
テーブルのほうへ振り向く。
「ビールお代わり!!」
自称勇者とその幼馴染。
いずれ世界を救う鍵となる二人の過去は、まだわからない。
けれど、本当に。
ー勇者らしくない。
夜はまだまだ続いていった。
♦
結局、昨夜一回の夕食で280ぺリルを使ってしまった。
とにかく、上限ぎりぎりまで稼がないと。
「リェレンさんのパーティーには、一週間の無給が市長のほうから言い渡されています。」
林をつぶした大バカ者は、虚空どこか一点をぼ~っと眺めていた。




