神の娘
冒険者に対する報酬の上限ーー
それは、冒険者ギルドが冒険者に対して強い力を持ち続けるための策。
それを、この自称勇者リェレンとカルラの二人組はしょっちゅう破る。
そんな二人の仲間になった僕が選んだ、簡単で、かつ上限額を守る依頼。
「猫探し?」
ー飼い猫のぺスがおとといからいなくなった。
見つけてきてほしい。
報酬は100ぺリル。
安いパンなら5個は買える額だ。
この依頼は今月の上限額までの残りが一番少ないリェレンに渡す。
「そう。ぴったりだよ。猫だって生き物。勇者なら助けるよな?」
彼女は少し黙ってから受付まで歩いて行った。
勇者なら、って言えば大概のことは聞いてくれるのか。
「ユージ。」
カルラが僕の肩をつんつんしてきた。
「どうしたの?」
「レンはさ、ああやって真っすぐな子だから。嫌わないであげてね。」
二人の関係は幼馴染だと聞いている。
けれど、ここまでカルラがリェレンに甘い理由がわからない。
まぁ、二人の間でもいろいろあったんだろう。
「嫌わない。」
それだけは、断言できる。
真っすぐな人を、嫌ったり馬鹿にしたり。
そんな人間にはなりたくないし、何より、まっすぐな人間に、僕がなりたい。
「ありがとう!ユージ!」
カルラの満面の笑顔は、初めて見たかもしれない。
「ユージ。承認受けたから早速行ってくる。ぺス探し。」
ーぺスって、犬みたいな名前。
「行ってらっしゃい。」
早く行きたくてたまらない感じが全身からにじみ出ている彼女を送り出す。
「ユージ。」
次から次へと…。
「何?」
依頼書を持ったカルラは言った。
「今月の上限までの残りは?」
♦
「どうも、どうも。今日はお世話になります。どうにもこの畑は老骨には少々広すぎましてね。」
都市の端っこにある一つの畑。
一面に小麦が実っている。
カルラが持ってきた依頼は、この小麦の刈り取りの手伝い。
報酬は150ぺリル。
カルラの報酬上限もリェレンと同じ残り500ぺリルらしい。
「ランクアップには、とりあえず一か月間の勤続が必要でしょ?今まではレンと一緒だったけど、レンにも一人で任務をこなす時間は必要だと思うし。勇者なんだもん。」
農場主にもらった鎌で刈り取りしながらカルラは言う。
「そうですね。」
この作業は案外難しい。
根元から刈らないとだめなのだとか。
「ユージはさ、神様って信じてる?」
鎌を振る手が止まる。
一応この国では、名前は忘れてしまったが、宗教の信仰が義務付けられていたはず。
「もちろん。」
まぁ、神様にはあったことがあるわけだから、宗教には関係なく信じるのだけれど。
「そっか。治癒魔法だもんね。」
カルラの手は止まらず、小麦を刈っている
「治癒魔法を使った時のことは、覚えてないよ?」
あの時は、とにかく必死だった。
「まぁ、魔法はどうでもよくて。」
カルラは今度は手を止めてこちらを見てつづけた。
「レンは、神様の娘だって言ったら、信じる?」
ー私の娘を頼んだ。
神様は確かそう言った。
それに、ダンジョンや病室でのあの魔法。
まるで空間を捻じ曲げたかのような圧倒的な力。
「…勇者ってことは、信じる、かな。」
リェレンについて、僕が言えること。
彼女は強くて、まっすぐな人だ。
だから、神の娘かどうかはおいておいて、たぶん、勇者なんだろう。
「これで、三人目。」
カルラは微笑んでいった。
「何が?」
「レンを勇者って認めた人。」
ー花みたいだ。
カルラの笑顔は、夕日に映えて、花が咲くみたいに、キレイだった。
♦
「依頼の達成を確認しました。こちらがお二人の報酬合わせて300ぺリルになります。」
昼頃から夕方まで6時間くらい働いてやっと1500円。
一人当たり750円。
なかなか世知辛い。
「レンはまだかな。」
「猫探しは何日かかかるんじゃない?」
地道に聞き込みを続けて、それでも見つかるかどうかわからない依頼だ。
でも、あのバカっぷりを隠すにはちょうどいいだろう。
「じゃぁ、私はお風呂行くけど、ユージは?」
「行く。」
♦
「あぁ~~~。」
ー癒される。
一日の疲れが吹き飛ぶような気持ちいい温度の湯船につかると、思わず声が出た。
街のど真ん中にある共同浴場。
洗濯も貸し出しのタオルもあってたったの5ぺリル。
家に風呂がある人も少ないんだろう。
連日人でごった返しているが、まぁしょうがない。
今日は特に腰がきつい。
ゆっくりしていこう。
「おい、聞いたか?」
広い湯船で隣に座る二人組の会話が耳に入ってくる。
「何を?」
「頭のおかしな自称勇者が西区の林丸ごとつぶしちまったらしいぞ。」
「自称勇者ってなんだよ。てか、林をつぶしたって…」
会話はまだ続いていたが、それが耳に入ってくることはなかった。
ーまさかね。
♦
翌日。
2日ぶりの市長邸宅。
「リェレンさん。壁付近に発生したダンジョンの調査の時は、大変ありがとうございました。けれどもね。街の自然を壊して神エテルネスの奇跡を犯すような真似はいくら何でも看過できません。お仲間のお二人にもね……」
延々と続く説教。
「すいません。」
「ごめんなさい。」
カルラと僕が頭を下げる。
「申し訳ない。」
思いっきり不服そうな顔をした自称勇者は、遅れて頭を下げる。
ーなんでそんな不満そうなんだよ?!林つぶしたんだろ?!
結局、僕らは教会に行って奉仕活動を行うことを命じられた。
「はぁ。」
そりゃため息だって漏れる。
ー不安しかない。
「神エテルネスはこんなことじゃ怒らないのに…。」
いまだに不服そうなおかしな女をつれて教会へ向かう。
変なことしないでくれよ。マジで。




