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無一文の自称勇者

 「……金が、無い??」


市長宅から、リェレンとカルラと一緒に冒険者ギルドでパーティー登録を済ませた。


一応僕はギルドの管理下の''冒険者''ということになっている。


"治癒術師"であることは隠す必要がある。


教会も国も欲しがる能力らしい。


ーまぁ、そんなことはどうでもよくて。


「金がないって、なんで??」


魔物をつぶしたリェレンの力。


あれがあれば大金の依頼も受けられるはずだ。


「私たち、しょっちゅう月の報酬上限超えちゃってて、そのたびに没収と依頼受諾が禁止されるからね。」


カルラが答える。


「えぇと、ランク5ですか?」


『うん。』


二人が同じタイミングで頷く。


ーなんでそんな当たり前みたいな反応なんだよ。


タイミングが重なって喜んでいる女子二人…。


ーこれが、勇者か?


 ♦


金が無い。


当然、宿もない。


「ここでいつも夜を…。」


二人に連れられてやってきたのは都市の端の方にある公園の林の中。


「魔王領付近には林が多いので。今のうちから慣れないと。」


どや顔でリェレンが答える。


常識人だと思っていたカルラは、リェレンには反対しないらしい。


うんうん。とうなずいている。


「明日は昼頃から依頼を探しに行こう。朝のうちは町の散策。」


リェレンはそういって防具を脱ぎ始めた。


地面に直で寝てるのか…?


カルラはそのまま横になった。


木の根っこを枕代わりにしているらしい。


さすがに同じ根っこを使うわけにもいかないから僕は隣の木の下に寝転がり、持ってきた毛布をかぶる。


ー星がきれいだ。


左を見る。


もしかして、この星のためにここを選んだんだろうか。


寝転ぶ少女と、装備の手入れをする少女。


ー明日から、だ。


何もかも明日からでいい。


お金も、魔王のことも、教会も、神様も、ダンジョンも。


僕は目を閉じて、気づけば眠りに落ちていた。


 ♦


「ウッ」


響いた小さな濁った声で目を覚ます。


ーなにごと?


体を起こし、二人が眠っているはずの方を見る。


リェレンのかかと落としが、カルラの腹にクリーンヒットしていた。


「カルラ、大丈夫?」


彼女の眼はぱっちり開いていたが、反応はしばらく帰ってこなかった。


「これで、いつも通りなんだよね。」


真上を見上げたまま、彼女は返した。


ー腹出てるし。


「おはようございます。」


目を覚ましたみっともない自称勇者はカルラに任せて顔を洗いに川まで歩く。


歩いて数分。


寝ぼけ眼で町を歩く人間なんて、当然僕しかいないわけだが、寝起きの判断力はその辺の管理能力を奪ってしまう。


顔を洗ってからもう一度考える。


ーリェレンとカルラは、女子なわけだ。


年齢を聞いたわけではないが、僕とそう離れていない。


ーなるほど。


これはなかなか、楽しい日々になるかもしれない。


 ♦


「どこ行ってたの?」


拠点、林に戻ると、カルラとリェレンが座っていた。


「顔を洗いに。あと寝癖を。」


二人の髪はもうきれいになっていた。


川に行かずとも近くに水源があったのか?


「私、水魔法使えるんだけど。」


手を前に出して水玉を出しながらカルラは言う。


ーまじか。


「そうだったんだ。」


明日からは頼もう。


二人はしばらく見合った後、リェレンが立ち上がって言った。


「ギルドへ行きましょう。」


 ♦


都市の中心地まで歩いて一時間弱。


冒険者ギルドの依頼掲示板の前。


「これにします。」


「いや、ダメだって。」


自称勇者と転生治癒術師による、譲れない戦いが勃発していた。


「なんで。」


「この依頼の報酬2,000ぺリル。今月の報酬上限までの残りは?」


「500くらい。」


ーこの自称勇者、馬鹿なのか?


「なんで上限オーバーするような依頼にするの?」


「魔物を倒すのが、勇者の役目だから。」


ーなるほど。彼女なりの騎士道が、報酬上限オーバー常習化の犯人ですか。


「じゃぁ、ここにある依頼で、魔物討伐以外は誰がやるんですか?」


「それは、冒険者が。」


「勇者の役目って、僕が思うに人類全部を救うことなんだよね。」


「だから、魔王を。」


「ここに依頼を持ってくる人は、その以来の報酬に限らず、みんな困ってる。それを見捨てるというのは、なかなか。」


手ごろな依頼を手に取る。


こっちのほうが楽だ。


報酬も300ぺリル。


「何より、報酬の上限を超えてしまうと旅の効率が落ちる。その間にも魔王は力をつける。」


依頼書を彼女の目に掲げ、言う。


「…?!」


ーちょっとやりすぎたかな。


さっきからカルラは黙ったまんまだ。


「ユージ。」


リェレンの肩は震えている。


ずんずんこちらに歩み寄り僕の肩をガッとつかむ。


「いや、あの…。」


言い訳しようにも、悪いことしたわけじゃないし…。


もし嫌われたりしていたらなら、その時は、謝るのみ。


危険な任務もこなして見せよう。


「すごい!私そこまで考えてなかった。」


……。


カルラは少し笑って肩をすくめる。


ーなるほど。


この自称勇者は、どうやら強くて真っすぐなだけらしい。

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