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治癒魔法

 ー来る。


それは、木々をなぎ倒し、意志があるかもわからない動きで、ここまでやってきた。


「二人とも下がれ!」


ルクルさんが大声で叫ぶ。


一目散に背を向けて駆け出す。


ー!!


リーンさんがへたり込んでいた。


ー腰を抜かしたのか?!この緊急時に?!


「立って!逃げますよ!」


腕をつかんで引っ張る。


彼女は弱々しく立ち上がり、走り出した。


最悪なことに、奴に出口をふさがれてしまっていた。


奴を倒さない限り、ここからは出られない。


僕ではルクルさんとその怪物、どちらが優勢なのか分からなかった。


わかったところで、出来る事があるわけでもない。


「この星ーし、ーよ、我がーーえ、そのー与えよ。」


隣で、リーンさんが震える声で何かを呟いていた。


「ファイヤーボール」


彼女がそう唱えた途端、火の玉が姿を現した。


ーあれに当てる気か?


的だけはすこぶる大きい。


もしこれが当たれば、きっとーー。


その玉は、怪物に当たることはなかった。


魔法に気づいた怪物が、ルクルさんを弾き飛ばし、こちらに向かって突進してきた。


腰を抜かしたリーンさんは火の玉を飛ばすことなく、気絶。


ーヤバい。ヤバいヤバいヤバい!


リーンさんを抱えて駆け出す。


そいつの腕は僕らに当たることはなかった。


奇跡的に、僕は攻撃を避けれた。


ただ、奇跡が起きただけ。


視界の端に映るルクルさんはグッタリしている。


もしかしたら死んでいるかも知れない。


ー危険度マックス。


ルクルさんの言葉を思い出す。


その怪物は、自分の足元を見ないらしかった。


気づかれた瞬間、すぐに殺される。


汗が噴き出て止まらない。


タコと、馬と、花と、蜂と、人と…。


全てを混ぜ合わせたような化け物。


ー祈れ。


頭のなかによぎる、その言葉。


ー助けて…。


目が合った。


ー助けて。


一瞬、その目は笑ったように見えた。


あまりの恐怖に、僕は地面にへたり込んだ。


ー終わった。


すべて、終わった。


力がはいらなかった。


しかしー


怪物は、僕に興味を示さなかった。


そのまま林の奥へ、消えて行った。


 ◆


何分、経っただろう。


やっと息が落ち着いてきた。


ールクルさん!


忘れていた。


この人がいなければ、僕らは一瞬で死んでいた。


「ルクルさん!」


まだ完全には力がはいらない足で、もたつきながら駆け寄る。


息はまだある。


背中から頭にかけて強打したのか…?


無理に動かさないほうがいいのか?


どうすれば…。


ー『治癒魔法ですね???』


そうだ…。


ー治癒魔法。


それは、魔法のなかでの例外中の例外。


神と直接やりとりする。


「神様!いるんでしょ?!」


僕は叫ぶ。


そうだ。


さっきからずっと、僕の頭のなかに話しかけてきていたはずだ。


ー返事はない。


「神様!治癒魔法の才能をくれたじゃんか!助けてよ!このままだと、ルクルさんが死んじゃう!」


ルクルさんに手をかざす。


漫画みたいには行かない。


ー助けてくれよ…。


涙が勝手に溢れてきた。


ーこの人を、助けてよ…。


『治癒魔法は神の奇跡!心に強く祈るのです。自分は治癒術師(ヒーラー)であると。神の奇跡は、それを可能とするのです!』


噴水広場前での、教会による授業。


僕は、治癒術師なんかじゃない。


そんなものになるつもりはない。


でもー


僕は、この人を救いたい。


だからー


「神様!」


初めてだった。


何かに、本気で縋るのは。


縋るくらいなら、努力する。


そっちのほうが堅実で、現実的で、有効だから。


強く閉じていた目を開ける。


ーまた、あの場所にいた。


宇宙のような、果てない闇。


そのなかに、点々と光る星。


『万物の根源は、熱であると、知っているかい?』


「神様?!」


その姿はない。


『神の奇跡。それは単に傷を治すとか、君の願いを叶えることじゃない。』


神様は淡々と続けた。


『それ以上の奇跡が、すぐそばにあることを、忘れるな。』


『考えろ。君には娘を託している。』


現実へ引き戻されたその刹那。


こちらに駆けてくるリーンさんの姿が見えた。


そして、僕はそのまま、気を失った。


 ◆


ーベッドだ。


それとー


「知らない天井だ。」


…身体を起こす。


記憶が曖昧だ。


何があった?


ダンジョンに入って、ヤバいのが来て、ヤバくなって…。


「イサゴ・ユージですね。」


聞き慣れない女性の声。


「はじめまして。勇者リェレンと申します。」


ーー出会いはいつも、突然である。

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