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積み上げる知識

 北上。


それが僕らに与えられた任務であり、僕らの目的。


だとして、協会からの命令にホイホイ従う形になるのは不安だ。


北に何があるのかを調べに、僕は図書館へやって来た。


ちなみにリェレンとカルラはまだダンジョンへ潜りに行った。


あと少しで僕もランクアップなので、そうなればついて行ける。


それまでに色々知っておかないと。


『世界大全』


という分厚い本を手に取る。


ここは神聖エテロネア帝国カティアルト公領。


世界の南端にほぼ等しい。


ここから北にあるもの。


東にヒラルトス大公国。西にエデアランド帝国。


細々した国はあるが大きな勢力はその2つだろう。


そして、北方の魔王領。


だが、領境線は点線であやふやになっていた。


国内に目を向ける。


帝国の都エテロニース、教会本部もそこにある。 


エテロニースを経由しないルートで行こうと思うと、山脈を越えて連邦との境にあたる海岸線を行かなくてはならない。


連邦とは宗教上の問題や商業上の問題で仲が悪いらしい。


海岸線は安全とは言えない。


あの2人なら危険な場所も平気だとは思うが、ルート選びに関してはちゃんと相談しよう。


続いて魔法についての本を探す。


『魔法大全』


この本も大全。


分厚い。


精霊は世界、と神様は言った。


やはり魔法というのは精霊を使役する能力らしい。


精霊を使役ということは、つまり世界の使役なのか?


それらしい記述はない。


世界を使役したとして、僕の頭痛と関係があるとは思えない。


治癒魔法に関してはサンプルが少ないからか、神の奇跡そのものという記述しかない。


魔法に関しては、また神様に聞けばいいだろうか。


『魔法大全』を棚に戻すついでに、面白そうな本を見つけた。


『消えた北方〜デルトランド消滅〜』


小説かと思い手に取った。


しかし、そこにあった記述は魔王が世界を消した、という内容だった。


だから先程の世界地図でも魔王領は点線だったのか。


『世界の調査はまだ進んでいない。

噂程度だが、消えた、海になった、原初に戻った。

様々である。

教会と国の調査を待つのみである。』


その本はこの記述で終わった。


教会が僕のような地癒術師を欲する理由ーー


推論にはなるが、国防と魔王問題なのだろう。


前までは信仰心とか権威しか思い浮かばなかったからこれでも成果はあった。


 ◆


図書館をあとにして昨日退院ついでに選んだ依頼に向かう。


内容は魔法研究の手伝い。


難しそうだが、危険はない。


それに報酬は700ペリルとお高め。


今週末にはランクアップして報酬の下限が3,000ペリルに上がる。


1週間働けなかったことを考えると良いペースか。


民間の研究所なので怪しいところかもしれないと警戒はしていたが、そんな必要はなかった。


デカい。


6階建て。

左右にも100メートル以上はありそうだ。


住所はここで間違いない。


正面の大きな入り口をくぐると、受付がある。


ギルドの依頼書を見せると、4階の角の部屋へ案内された。


どうやらここは大学らしい。


コの字型の校舎にはいくつもの研究室と講堂がある。


扉を開ける。


「失礼します。ギルドの依頼を受諾してまいりました。イサゴ=ユージです。」


正面の机に座ったひょろひょろで色白の眼鏡男はこちらを見て言った。


「イサゴさん。信仰は?」


それが研究に関係あるのか?


「…してません。」


信じますよ。と小さくつぶやいて男は1枚の紙を差し出した。


「これに目を通してください。」


その紙には大きく『仮説:神は存在しない』と記されていた。


魔法研究というから科学関係かと思っていたが、民俗学とか宗教学関係だったらしい。


研究室の男はキリシテルという名前らしい。


キリシテルから手渡された資料では、精霊は神の使いではなく世界の構成要素として踏まえられている。

魔法=精霊の使役ということは教会の見解と共通しているが、ダンジョンは構成要素がなくなったことによる世界の穴という解釈だった。


ーすごいな。


神様が言っていた通りだとすると精霊=世界というのはあっている。


しかしー


「スケールがデカいですね。」


「まぁ、神様がいないものとして無理やり考えるとそうなるんです。証明する方法はない。ただ理論で詰めた結果です。」


キリシテルはそう言い切った。


待てよ…。


神がいないならこの見解になる。

しかし神が言った内容とこの見解は酷似している。


ーどういうことだ?


「その理論とは?」


多分、研究の手伝いというのは彼の理論への横槍を入れることだろう。

理詰めしかできないならそうやって完璧を目指す他ない。


キリシテルは笑顔を見せて語り始めた。


「神がいて人が出来るのではなく、人がいて神が出来るとします。」


ニワトリと卵…。


「私には、神はいない。けれど魔法を使える。あなたもそうでしょう?」


これがさっきの質問の意図か。


神を信じている人の魔法と、神を信じない人の魔法。


その違いも価値があるのではないか?


「僕は信仰していないだけで、神はいると思いますよ。」


キリシテルはハッとしたような顔を見せ、少し考えた。


「あなたは…。」


「この研究、面白いです。」


彼の言葉を遮る。

多分、彼の心配はこの研究を教会に知られることだ。


でも、僕は彼の研究の肩を持つ。


単純な好みだ。


「イサゴさん!!」


「あいにくと、僕は魔法は使えない。だからとことん、教えてください。魔法について。」


「もちろんです!」


神が先か、人が先か。


多分その答えはーー


いや、それは僕とは関係ない。


けれど、積み上げる知識は必ず役に立つ。


 ◆


ためになる話を聞いて、お金をもらって帰る。


公園内の雑木林。いつもの僕らの拠点。


そこに、人影が2つ。


「ユージ!」


「遅いよ〜?」


大切な、2人。


知識も、力も、全部この2人のために使う。


痛みも、恐怖も、すべて請け負って、進むんだ。

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