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やりたいこと

 「リェレン=クリスティだな。」


その老人の笑みは不気味だった。


「私に何か。」


「一つ、聞きたいことがある。」


「なんだ。」


「教会騎士団に興味はないか?」


ー教会騎士団

その名の通り、教会直属の騎士団。


税金で運営される帝国の騎士団が外に対しての国防を担うのに対して、教会騎士団は中の治安維持に務めている。


「…ないな。」


私は北へ進む。


それが神の啓示だ。


それに、私自身みんなで北へ進みたい。


「そうか。ではこうしよう。」


不気味な笑みは崩さないまま、男は人差し指を立てた。


「イサゴ=ユージ。彼もいっしょに。」


やっぱり教会は嗅ぎつけてきたか。


「なおのことノーだ。」


語気を強める。


ユージは、自由にしないといけない。


今この場で、私だけで決めるわけにはいかない。


ユージが教会騎士に入りたいと言ったなら…。


想像するだけで、少し心が苦しくなる。


それでも、彼は私にとって大切な人だ。


「まぁいい。今日のところは退こう。ただ、この誘いを断ったのは悪手だ。」


「何をする気だ?」


「知らんわ。上役の仕事だからな。夜遅いから早く帰りなさい。」


男は慈愛に満ちた声に変って言った。


早いところ、ユージと合流しよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ユージ!!」


リェレンが病室に駆け込んできた。


カルラとはすれ違ったのか?


「大丈夫なのか?魔法を使ったって…。」


ベッド脇の椅子に腰掛ける。


初めて会った時と同じような体勢だが、随分と感じ方は変わった。


「大丈夫。頭痛いけど。」


彼女は少し俯いて、顔を上げて聞いてきた。


「教会騎士団に…興味は?」


…なにそれ。


「いや、特に。」


彼女は驚いたように丸く大きな瞳でこちらを見ていた。


「レンは教会騎士?になるの?」


それだったら僕もなろう。


カルラもきっとなるんだろう。


一蓮托生。


僕は2人と一緒にいたい。


「ハハッ!」


彼女は前屈みになっていた姿勢を直して、笑いながら答えた。


「ならないよ。私は、勇者だから。」


 ◆


「ホントにびっくりしたんだからね!教会に行ってもいないし!」


数分遅れて帰ってきたカルラはリェレンを見つけるとすぐに駆け寄り声を上げた。


「ごめん、小一時間くらい、迷ってて…。」


勇者の少女は手を合わせて恥ずかしそうに答えた。


「迷子になったら家壊しかねないから怖いんだよレンは。」


「そんな事しない!」


「林潰してたじゃん。」


「それは猫が!」


ベット脇で繰り広げられるマシンガントーク。


これが、僕の大好きな空気だ。


2人のいない時間は、僕にとっては1日程度だったが、それでも。


「2人とも。」


『なに?』


2人は声をそろえてこちらを見た。


「おかえり。」


病室のベットでいうセリフではない。


でも、この言葉が、僕にとってはしっくりくる。


2人は少し顔を見合わせて、笑った。


「ただいま。」


「ユージも、おかえりだね。」


教会騎士団に興味はない。


この世界で、僕がしたいこと。


痛いのも、怖いのも嫌だった。


治癒魔法も面倒だと思っていた。


今、目の前で笑う2人。


この2人と、一緒にいたい。


この2人に、見合う人間になりたい。


だからーー


治癒魔法を、この世界を、ちゃんと知ろう。


そうやって、2人と並べる人間になるんだ。


 ◆


何日かぶりの、教会。


修道士たちのこちらを見る目がおかしいのは、今は無視でいい。


立膝をつく。


ー神様。


『ん?』


ー魔法って、何?


『その完全な答えは、まだ教えられない。』


ーどうして?


『世界は人間が回すものだ。』


よくわからないが、まぁいい。


ーじゃあ、ヒントを。


『精霊は確かに存在していて、人間も確かにそれを使役している。1つだけ、人間は分かっていない。』


ー何を。


『前に言ったとおりだ。奇跡は、身の回りに溢れている。』


奇跡…。


『お前たちは何だ?なにに囲まれて生きている?精霊は、世界だ。そしてーー』


神様はそこで止めて、


『目を開けな。』


そう言った。


神様のその言葉で、勝手に目が開いた。


「イサゴ=ユージ。」


振り返っ先には、あの司祭がいた。


「あぁ、お久しぶりです。」


できれば会いたくなかったが。


「今日は、お前個人に用はない。お前の所属するパーティーに、教会から命令だ。」


司祭は懐から紙を取り出した。


「お断りは?」


「できん。教会だぞ。」


差し出された紙を受け取る。


ただひと言。


『北上』


とだけ書かれていた。


「これが神の啓示だ。」


「帰って検討します。」


「あぁ。検討しろ。こちらとしてもお前への対応は検討中だ。」


彼はこの公領所属の司祭だったはず。


公領から出ればいい、という単純な話でもないか。


ー北上。


まぁ、この命令があろうとなかろうとどうせそうしていたわけで。


北部に何があるのか、そこを知るところからだ。


それくらいは、神様に聞かなくてもいいだろう。


司祭を残して、教会から出た。


刺さるほどまぶしい朝日が僕を見ていた。

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