世界を救う序章の序
「私はぁ、エテルネスと話したんだぁ。ホントなんだぁ。」
神聖エテロネア帝国カティアルト公領内の自治都市テンド。
その中にある一軒の居酒屋。
「はいはい。レンは勇者だって。」
そこに、神と話した勇者を自称する頭のおかしな女が一人。
リェレン=クリスティ。
「ユージもカルラも信じてくれてるのに、でも、私勇者らしいことできてない。」
この人は酔うとこうなるのか?
前はうるさくなっていたが、今日は別の意味でうるさい。
「そんなことは…まぁ。」
さっきまでは慰めていたカルラでさえもう面倒くさそうだ。
まぁ実際に勇者らしいことはしてくれてない。
出会ってすぐに林をぶっ潰して、そのせいで僕らは一週間の農奴生活を送ったわけだ。
「うぁぁぁ~~!!」
わんわんわめいて机に突っ伏してしまった。
ー18歳だよな。この人。
一つ上の端麗な美女が泣きわめくのを見るのは、なんか、情けない。
「どうする?おいてく?」
以前までリェレンに激甘だったカルラが辛らつだ。
「あぁ~、お店に迷惑じゃない?」
おいていくのはかわいそうだが、その意見を真っ向から否定もできない。
そんくらい、めんどくさい。
「じゃ、持ってって。」
カルラは立ち上がり、勘定を済ませた。
顔をべちゃべちゃにぬらした少女を背負い、自分より少し背の低い少女と連れ添って、夜道を歩いた。
♦
翌朝、身なりだけ整えて1週間ぶりの風呂へ向かう。
農奴生活の間は体を拭くくらいしか出来なかった。
「ふぅ〜〜〜。」
西洋みたいな国だけれど、共同浴場には大きな湯船がある。
この前はここで嫌な噂を聞いたわけで、市民の間に流れる噂はここが一番聞きやすいのかもしれない。
期待しているわけではない。断じて。
「おい、聞いたか?」
来た…。
なんの噂だ?
目をつむりながら、全神経を耳に集中させる。
「ダンジョン発生だってよ。」
◆
カティアルト公領の首都、カティアロナ。
そこに、ダンジョンが発生した。
色々なつながりがあるのだろう。
この自治都市テンドにも調査依頼が来た。
問題はーー
「ランク4以上の冒険者に限る…。」
リェレンはその依頼書を見ながらつぶやいた。
依頼の報酬は一人当たり500ペリル。
そこに追加の保証金300ペリルの合計800ペリル。
普通に考えて受けるべき依頼だ。
しかし、僕はランク5。
この依頼を受けることはできない。
リェレンとカルラが依頼を受ける場合、僕は一人でお留守番になる。
パーティーの財政を考えれば、2人にこの依頼を受けてほしいが、一人ぼっちは寂しい。
「ユージが受けられないもんね。」
カルラはこの依頼を受けないつもりらしいが、
「う〜ん。」
リェレンは、やはり勇者を目指しているわけで。
自分の夢とパーティーの間で揺れているらしい。
「レン、受けなよ。カルラも。お金助かるから。」
完全に、僕のエゴだが、リェレンには真っ直ぐ勇者になってほしかった。
僕を無下にしていいとは言っていない。
それでも、彼女には彼女自身の理想を追ってほしい。
「いいの?」
リェレンは上目づかいで聞いてきた。
「問題ない。帰ってきてくれれば。」
2人がいないと、多分本当に寂しい。
今や2人は、それほどまでに僕のなかの大きな部分を占めていたらしい。
2人はしばらく顔を見合わせていたが、やがてリェレンが口を開けた。
「ユージ。1つだけ、約束してーー」
◆
「はい。依頼の達成を確認しました。報酬の150ぺリルです。」
「どうも。」
1人で依頼を受けるのは二週間ぶりくらいだ。
受けた依頼は、農作業の手伝い。
安定だ。
荘園の領主からもらったカブのパンはみんなで分け合った。
明後日くらいまではどうにかできそうだが、それ以降は外食になる。
お金はあるに越したことはない。
明日の仕事も今日のうちに決めておこう。
ーどれも難易度高いな。
大体の冒険者は首都のほうのダンジョン調査に行ってしまっているからその分の依頼は僕らランク5の初心者冒険者に回ってくる。
ダンジョン近辺の警備、海岸線の監視などなど…。
やりたくない。危なそうだし。難しそう。
ーお。これいいかも。
『教会の布教活動 報酬200ぺリル。』
前やらされた奉仕活動とは違うのか。
それにーー
いや、今はいい。
とりあえず、楽&そこそこの報酬に加えて、教会。
この依頼にしよう。
「はい、こちらが依頼の受諾証になります。明日の朝8時に街の中央にある教会に集合してください。達成証も忘れないでくださいね。」
「ありがとうございます。」
身分証みたいな大きさの受諾証。これがないと依頼を受けても達成証をもらえない。
つまり報酬ももらえない。
僕は受諾証を財布代わりの小袋に入れた。
~~~エテルネス教会カティアロナ大教会~~~
「此度のダンジョン発生は神がこちらに近づいた証。時期も考えて、テンドに治癒術師が発生したことは確実としていいだろう。」
「毎度毎度、治癒術師は急に発生するな。」
「そのたびにダンジョンが生じるのも、厄介な話だ。」
「とにかく、テンドの治癒術師は回収する。上からも次期通達が来る。」
「それよりも北東のヒラルトス公国はどうするんだ。」
「本教会の出方次第だ。南部からは何もできん。」
「ヒラルトスのためにも治癒術師は欲しい。だから回収するんだろう。」
「物事はすべて、エテルネスのもとに決められている。」
♦
神の御心か、はたまた人のいたずらか。
物語は動き始める。
始まりと終わりは、果たして何が決めるのかーー
これは、神と、人と、魔法の物語。




