【第1話】 ビル遺跡の表層で拾ったもの
俺の名前はレン。十七歳。ランクFの底辺冒険者だ。
この世界には剣も魔法も魔物も普通にある、典型的な異世界。
俺が生まれた村の近くにだけ、理由も経緯も誰も知らない「ビル遺跡」と呼ばれる巨大な人工物群が突如として現れたのが数百年前らしい。
灰色の高層ビルが何十棟も林立し、ガラスは割れ、鉄骨は錆び、コンクリートは苔むしている。
中は迷宮化していて魔物が出る。
だから冒険者ギルドが管理し、発掘許可証を持った者だけが中に入れる。
俺は今日も、一番安全な表層――地上から10階くらいまでのエリアを一人でうろついていた。
理由は単純。お金がない。
両親は魔物の襲撃で死に、村に残った借金を返すために冒険者になったものの、
戦闘スキルはからっきし。魔法も使えない。体力も並以下。
だから表層でゴミあさりしかできない。
「はあ……今日もゴブリン変種の糞ばっかりかよ」
9階の崩れたオフィスフロアで、俺はため息をついた。
床に転がってるのは、空き缶みたいな金属片と、割れたモニターの破片だけ。
たまに使える魔石が落ちてればラッキーなんだが、今日は何もない。
立ち上がろうとした時、足元で何か光った。
「……ん?」
埃をかぶったデスクの下から、小さな長方形の板みたいなものが覗いている。
慎重に手を伸ばして引き抜く。
黒いガラス面。裏側にリンゴみたいなマーク。
手に持つとずっしりと重い。角が丸く、側面にボタンが一つ。
――スマホだ。
俺は一瞬で理解した。
転生者じゃないけど、村に昔流れ着いた「旧世界の知識を持つ者」の話は何度も聞いたことがある。
彼らが語る「スマートフォン」という道具。写真を撮ったり、ゲームをしたり、遠くの人と話せたりする、夢のような機械。
もちろん、この世界じゃただのガラクタだ。
電力がないから動かない。
でも、俺は知っている。
魔石を組み合わせれば、旧世界の機械を動かせる奴がいるって。
「もしこれが……動いたら」
胸が高鳴った。
ポケットから小さな風魔石を取り出す。
ランクFの俺でも買える、安物の魔石だ。
スマホの充電口らしき穴に魔石を押し当て、微弱な魔力を流してみる。
――ピコッ。
画面が一瞬だけ光った気がした。
「マジか……!」
慌てて魔石を固定するため、布でぐるぐる巻きにしてポケットに押し込んだ。
まだ完全に動いてるかはわからない。でも、反応した。間違いない。
その瞬間、廊下の奥から低い唸り声。
振り返ると、巨大ネズミ変種が三匹、牙を剥いてこっちを見ていた。
「ちっ……最悪のタイミングだ!」
俺はスマホを胸に抱え、来た道を全力で駆け出した。
表層とはいえ、油断すれば死ぬ。
階段を駆け下り、崩れた窓から外へ飛び降りる。
着地の衝撃で膝を打ったが、構っていられない。
街――ビル遺跡の外縁に作られた冒険者街「ネオ・スラム」まで走り続けた。
息を切らして宿屋の自室に戻り、扉に鍵をかける。
ベッドに座り、震える手でスマホを取り出した。
魔石が微弱に光っている。
画面をタッチしてみる。
――カチッ。
画面が明るくなった。
ロック画面。
上部に電池マークが表示され、ゆっくりだが充電されているのがわかる。
指でスワイプ。
ホーム画面が出てきた。
アイコンがずらりと並んでいる。
ゲーム、カメラ、マップ、音楽……そして、謎のアプリが一つ。
画面中央に大きく表示されたアイコン。
『異世界対応ガチャアプリ Ver.1.0』
……は?
俺は思わず声を漏らした。
アプリを開くと、派手な演出と共に文字が浮かぶ。
【ようこそ、新たな管理者様。
旧世界の技術と魔石の融合を確認。
本アプリは異世界環境に最適化されました。
初回無料ガチャを10連回せます。】
マジかよ……。
指が震えた。
これが本物なら。
これが本物なら、俺の人生――変わるかもしれない。
深呼吸して、画面の「ガチャを回す」ボタンをタップした。
――キラーン!
光が溢れ、部屋中が白く染まった。
第1話 終わり
(次回、第2話 「無料10連で出たもの」)




