第7話:影の恩返し ―街を包む青い守護―
その夜、街は数十年ぶりの猛吹雪に襲われました。
猛烈な風が窓を叩き、街の生命線である魔導発電所が落雷によって停止。一瞬にして、街は凍てつくような闇に包まれました。
かつてノクトを介抱してくれたパン屋の店主も、図書室の老婦人も、そして病室の子供たちも、あまりの寒さに震えています。何より恐ろしいのは、この闇に乗じて影の世界から滲み出し、人々の体温(希望)を食らう「凍てつく霧」の出現でした。
-影渡りの真価-
ノクトは立ち上がりました。
今の彼には、単に荷物を届ける以上のことができます。
「みんなからもらった温もりを、今度は僕が配る番だ」
ノクトは街の中央にある時計塔へと駆け登り、かつてないほど深く、力強く**「影渡り」**を発動しました。しかし、今度は自分自身が影に潜るためではありません。
「影渡り・反転」
ノクトは、街全体を覆う広大な「影」を一つの巨大な路として繋ぎ合わせました。そして、自分の心の中にある「パン屋の暖炉の温かさ」や「人々の優しい言葉」という光の記憶を、その影の路を通して街中に逆流させたのです。
-闇を温める青い燐光-
家々の隅にある暗い影から、ノクトの魔力によって変換された青く温かな光が溢れ出しました。人々の希望を食らおうとしていた「凍てつく霧」は、感謝の念が混じったその光に触れ、春の雪解けのように消えていきます。
街の影が一本の糸のように繋がり、ノクトの鼓動に合わせて、静かに、優しく拍動しました。
吹雪の中でも、街の人々は不思議な安らぎを感じていました。影の中から伝わってくる、どこか懐かしい、黒猫の毛並みのような温もり。
「……ああ、ノクトが守ってくれているんだね」
誰かが呟いたその言葉は、影の路を通ってノクトの耳に届きました。
-夜明けの贈り物-
翌朝、吹雪が去った街には、誰一人として凍えたり病に伏したりする者はいませんでした。
それどころか、全ての家の玄関先には、ノクトが夜通し影を渡って届けた「小さな松ぼっくり」や「輝く石」が置かれていました。
それは、言葉を持たないノクトからの、精一杯の「ありがとう」の印。
ノクトは時計塔のてっぺんで、昇る朝日を浴びていました。
力を使い果たし、足元はおぼつかないけれど、その表情は晴れやかです。アルスの鞄は、人々の想いで満たされ、以前よりもずっと軽く感じられました。




