第4話:影渡り(シャドウ・レイル) ―闇を路に変えて―
それは、大雪の夜のことでした。
街の全ての道は深い雪に埋もれ、街灯の火も凍りついて消えています。ノクトはアルスの鞄を背負い、膝まで雪に浸かりながら必死に進んでいました。
託されたのは、麓の病院で手術を待つ幼い少年の元へ、遠く離れた父から届いた「お守り」の小瓶。
「……動けない、これじゃあ間に合わない……!」
体温を奪われ、次第に意識が遠のく中、ノクトは雪の上に落ちた自分の黒い影を見つめました。月光に照らされたその影は、白銀の世界で唯一、夜の色を保っています。
-境界を越える力-
その時、ノクトの脳裏にアルスの声が響きました。
『ノクト、影は闇じゃない。それはどこへでも繋がることができる、特別な路なんだ』
胸のボタンが青く激しく発光した瞬間、ノクトの体がふわりと沈みました。雪の上ではなく、自分自身の影の中へ。
それは「影渡り」という、伝説の配達員だけが使えたと言われる固有能力の開花でした。
ノクトの体が影と一体化し、三次元の制約を失います。建物や雪の壁をすり抜け、影から影へと、まるで水面を滑るように超高速で移動できるようになったのです。
ノクトが通った後の影には、青い燐光の足跡が残り、一瞬だけ夜明けの光がその場所を照らしました。
-闇を紡ぎ、光を届ける-
ノクトは影の奔流の中を駆け抜けました。物理的な距離を無視し、建物の影を飛び石のように伝って、彼は数秒で数キロ先の病院へとたどり着いたのです。
病室の窓辺、絶望に沈んでいた少年の影から、ふわりと黒猫が現れました。
ノクトは雪一つついていない温かな体で、少年の手に「お守り」を置きました。
「……猫さん、どこから来たの?」
少年の驚きの声を聞きながら、ノクトは再び窓の影に溶け込み、夜の闇へと消えていきました。
-配達員の「真の姿」-
翌朝、街にはノクトが影を渡った際に残した「青い足跡」が、雪の上に不思議な幾何学模様として残っていました。
ノクトは自分の能力を確信しました。
それは、どれほど深い絶望(闇)の中にあっても、そこに少しの光(月や星)さえあれば、どこへでも希望を届けに行けるという力。
影を紡ぐ黒猫は、今や物理的な法則さえも超えた、文字通りの**「夜明けの使者」**へと進化したのです。




