竹林の姫、誕生
伊勢国一志郡八太──
木造家に仕える家老、田上光教、通称・玄蕃は、妻のお華の方と領内の竹林を散策していた。夜風が心地よく、空には満月が輝いている。
「おまえ様、竹林の夜は、格別でございますね」
お華の方が微笑むと、玄蕃も満面の笑みを浮かべた。
「そうじゃな。お華とこうして静かに散策するのは、心安らぐものじゃ。そして、おぬしを見ておると三人目の子も欲しくなるのぉ」
「もう、恥ずかしい、、、」
二人が戯れ合っていると、突如として月から竹林へ一筋の光が轟音とともに伸びた。
玄蕃は思わず、ひっくり返した声をあげた。
「なっ、何事じゃ!お華、竹林へ様子を見に行こうぞ!」
二人が竹林に駆けつけると、眩い光を放つ一本の竹が現れた。月明かりが、その竹の輝きを一層際立たせている。まるで、竹の中から光が漏れ出ているようだ。
「あれは、、、何じゃ!?」
光教は、驚きを隠せない。お華の方も、その神秘的な光景に目を奪われた。
「おまえ様、あれはきっと、神が我らに授けた黄金かもしれませぬ!どうか、お切りくださいませ!」
お華の方の言葉に、光教は腰に差した刀を抜いた。
「よし!いざ!」
光教は、光る竹に刀を振り下ろした。刀が竹を切り裂いた瞬間、眩い光が弾け、その中から、一人の少女が姿を現した。
「は、、、?」
あまりのことに、光教とお華の方は言葉を失う。
その少女は、あまりにも美しく、二人は瞬きすることも忘れてしまうほどだった。
一方の龍巳は、わけがわからないまま光に包まれていた。突如として真っ暗になったと思えば、いきなり目の前を鋭い刃が走った。
驚き、思わず目を瞑った。
次に目を開けた時、彼の目の前に、刀を構えた武士の姿が見えた。
(うわっ、刀!?しかもめっちゃ巨人!!マジかよ、いきなり絶体絶命かよ!?)
本能的な恐怖に、龍巳は意識を失った。
*****
次に意識を取り戻したとき、龍巳は布団の上で寝かされていた。ゆっくりと身を起こし、周囲を見回す。見慣れない和風の部屋だ。
「ここ、どこだよ?」
体を起こそうとして、違和感を覚える。手足がやけに小さく、全体的に華奢だ。部屋の隅に置かれた手鏡を手に取り、顔を覗き込む。
そこには、女性のような美しい顔立ちをした、見覚えのない少女が映っていた。
「うそ、、、だろ、、、?」
慌てて自分の股を触ってみる。
「う、うわあああああ!ない!俺の“ドラゴンボール”がない!マジかよ、俺、女になってんの!?俺のベストフレンドがついてないー!」
龍巳は、あまりの事態に絶叫した。その声に、隣の部屋で眠っていたお華の方が目を覚まし、龍巳の元へ駆け寄ってきた。
「まあ、どうしたのじゃ?怖い夢でも見たのか?」
龍巳は、目の前の豊満な体を持つ女性に、前世の男としての本能で、思わずナンパの言葉を口にした。
「お、おねーさん……。やばいっすね、マジで。もしかして、モデルさんっすか?いや、女優さん?もー、完璧すぎて、どこかの姫かと……」
龍巳の言葉に、お華の方は思わず照れたように顔を赤らめる。
「まあ、そんな、、、。もでる?とかじょゆう?は何のことか分からぬが、わらわは、ただの女じゃ」
お華の方の“女”という言葉を聞いて、龍巳は我に戻る。
「あー!こんな美人を前にしても、俺にはもう最愛の友達である“ドラゴン”も“ドラゴンボール”もないんだったー!」
その時、龍巳とお華の方の騒ぎを聞きつけ、玄蕃が部屋に入ってきた。
「お華、どうしたのじゃ!……ん?お前、目が覚めたのか!」
玄蕃は、目を丸くして龍巳を見つめる。
「よくぞいらした、月の姫よ!まさか竹取物語は本当であったとは、、、」
「は?いやいや、俺は月の姫じゃなくて、宮本龍巳っていう、料理系Tiktokerで、、、」
龍巳がそう言いかけると、玄蕃は、その言葉を遮った。
「何を言うか!どう見てもそなたは姫ではないか!」
玄蕃にそう言われて、龍巳は唸った。
(あのロリっ子龍神王め!転移させるとは聞いていたけど、姫にさせられるなんて言ってなかったぞ!今度会ったら、文句言ってやる!)
龍巳の様子を他所に、お華の方が玄蕃に話しかけた。
「月の姫はこの世に降り立って混乱しているのでしょう。おまえ様、竹取物語みたいに私たちの娘として育てましょうぞ!」
「お華、それはよいのぅ!わしも娘が欲しかったんじゃ」
龍巳は自分を娘にするという話を聞いて、声を上げた。
「ちょっと待ってくれよ。俺はあんたたちのこと知らないぜ?あっ、そうだ!」
龍巳は咄嗟に龍神王から授けられた鑑定スキルを思い出した。
(鑑定スキルを使えば、二人のことがわかるな。しかし、どうやって使うんだ?)
龍巳が玄蕃を見ると、玄蕃の頭の上に小さな四角い箱のようなものが見えた。そこに目を向けると、玄蕃のスキルが表示された。
【田上光教(通称、玄蕃)】
統率: S
政治: A
魅力: A
武力: A
評価: 北畠家随一の弁舌家であり、奇跡的な交友範囲を持つ。豪快な武人として知られる一方、領民を思いやる政治手腕も兼ね備える。
(うお、すげぇ!まるでゲームのステータスみたいだ。しかも、めっちゃハイスペックじゃん!)
次に、龍巳はお華の方を見て、同じように鑑定を試してみた。
【お華の方(田上玄蕃の妻)】
統率: B
政治: A
魅力: S
武力: D
評価: 優れた商才と慈愛に満ちた心を持つ。その美貌とカリスマで、多くの家臣や領民から慕われている。
バストはFカップ。
(うわ、この人もすげぇ!というか、魅力値、Sランクってカンストしてるじゃん!バスト、、、やばいな)
鑑定スキルが本物だと確信した龍巳は、興奮を隠せない。それと同時にこの二人と一緒であれば、戦国の世でも安心そうだと感じた。
龍巳は一回深呼吸をしてから玄蕃とお華の方に言った。
「俺、二人の娘になります!これからよろしくお願いします!」
龍巳の言葉に玄蕃とお華の方は、満面の笑みとなった。
「お華よ、この子の名をどうしようかのぉ。娘としてちゃんとした名をつけねばならぬ」
玄蕃がそう言うと、お華の方がはっと手を叩いた。
「おまえ様、もう決まってますよ。この子の名は『輝夜姫』じゃ」
お華の方の言葉に玄蕃も手を叩く。
「それしかないな!決まりじゃ!そなたは今日から輝夜と名乗るのじゃ!」
玄蕃の言葉に龍巳は少し困る表情を浮かべた。
「いや、だから俺は男なんだって、、、」
その夜──
輝夜こと龍巳はぼんやりと月を眺めていた。
その様子を玄蕃とお華の方が陰から見ていた。
「おまえ様、やはり月の姫ゆえ、月が恋しいのでしょう」
お華の方は思わず、輝夜の様子を見て涙を浮かべた。
「お華の言う通りじゃな。わしらの娘としてその寂しさを紛らわせてやらねばの、、、」
玄蕃もそう言って、娘として迎えた輝夜を幸せにすることを強く誓うのであった。
一方、輝夜こと龍巳はというと、、、
(あー、あの月ぐらい大きな俺の“ドラゴンボール”はいつ俺のもとに帰ってきてくれるんだろう、、、)
そんなことを思いながら、嘆息するのであった。
かくして龍巳は、戦国時代の姫、輝夜姫として生きることとなった。
この時は、彼(彼女?)が持つ「創造」と「鑑定」のスキルが、この乱世に革命をもたらすことになるとは、誰も知る由もなかった。




