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第2話 ――小鳥とスパイの距離

 暖炉の火がはぜる音がする。

 書きかけの手紙の前で、レンは首をひねった。


 ――“報告することがない”。


 それが正直なところだった。

 この館に来て三日。だが、ルイーゼの動きは予測不可能だった。


「おはよう、レン」


 少女は、食堂の奥から手を振る。

 足元には灰色の小鳥。今日は肩にもとまっている。


「朝ごはん、いっしょにどう? ハンナがパンを焼いたの」


 レンは、彼女に対する任務の意識を再確認しながらも、席に着いた。


「毎日、小鳥と遊んでいるようだな」


「うん、好きなの。……話しかけると、返してくれるのよ」


「鳴き声で?」


「言葉で」


 ……沈黙。


「冗談だと思った?」


 ルイーゼは笑った。けれど、冗談とは思えなかった。


 彼女の瞳の奥にある“何か”が、レンにはどうにも引っかかる。


 予言の姫。

 それがただの伝説ではないとしたら。

 この北の小鳥たちと心を通わせることも――まさか、神託と同じ“力”なのか?


「……君はここに、どれくらい?」


「覚えてない。気がついたら、ここにいたの」


「君を閉じ込めたのは誰だ?」


「閉じ込めたなんて、誰も言ってないわ」


 また、ふわりと笑う。

 まるで、自分が“そう見えている”ことに気づいているように。


「外には出ないのか?」


「冬は出られないわ。雪が深くて。春が来るまで、ここは閉ざされるの」


「では、春が来たら?」


「……その頃には、私はたぶん――“溶けている”から」


 パンをちぎる手が止まった。

 言葉の意味を、レンは計りかねた。


 溶ける? 比喩なのか、それとも――。


「春になると、この館ごと、消えてしまうのよ」


 ルイーゼの声は、穏やかで、どこか寂しげだった。


「だから、私は冬の間だけ生きている。そういう存在なの」


 冗談にしては、笑いがなかった。


 レンは言葉を失う。


 少女の瞳に映る“覚悟”のようなものが、なぜか胸にひっかかった。


 ――報告書には書けないことばかりが、増えていく。



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