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チョーゴーキン――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る  作者: eggy


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51 整理した

『これはノベルだと、密かに王太子に情報がもたらされることになっている。内容は、第三王子の治療薬について。薬草を所持している者がいて極秘に譲渡するのが可能だから、周囲には内密に所定の場所に赴いてほしい、というんだ』

『王太子ほどの身分の人が、気安く乗れる話じゃないね』

『そうなんだよ。でもそこそこ信用のおける貴族経由の情報で、弟の治療法に行き詰まっているタイミングだったから、王太子はかすかな希望に賭けてその話に乗った、というストーリーになっている。それがあるから僕は、この時期に絶対王都から出ないで、と兄に頼んでいたんだ。でも十日近く前、王太子と周囲の数名の兵が行方をくらました。エトヴィンから二度の薬草採取に失敗した、あとは決死の覚悟で森の奥に進んで探す、という報告が入ったところでね。ノベルの通りに薬草譲渡の話が入ったということが十分考えられるんだけど、行く先はノベルでもはっきり書かれていなかったので捜索のしようがないんだ』

『なるほど』


 地面龍アースドラゴンに殺された近衛兵らしい者たちの話は、エトヴィンから入っていないらしい。

 あたしとしても、まだ詳細の分かっていない情報でこの王子を悩ませるのは避けたい気がする。


『とにかく現状は、そういうことなんだ』

『ノベルの破滅ストーリーに、細かい点は異なりながらも大筋は沿って動いているということになるのかな。第三王子は罹患原因はやや違っていても奇病を発症して、まだ治療は果たしていない。こちらも経緯は変わりながらも、隣国に一地域を奪われるということが起きている。その結果、あちらの王女が輿入れというストーリー通りの予定が実現した。王太子の行方不明も、ストーリー通り。冷害被害はある程度防いだにもかかわらず、今度は魔物による被害で小麦が壊滅しそうで、その何とか侯爵による中立派貴族懐柔が実現しそうだ、と』

『そういうことになるね』

『この中でも破滅ストーリーに絶対欠かせないのは、隣国王女の訪問と、第三王子の火魔法爆発、ということになるのかな。あとの点は、その経過で第二王子の王位簒奪を補助する条件というだけで、なくても強引に進めることは可能かもしれない』

『そう――だね』

『とにかくその辺が、細部は異なりながらも大筋ストーリー通りに進んでいる、と。特に第三王子の治療については、現在進行中なわけだけど。これは、ノベルではどういう結果になっているの』

『今の現実みたいにややこしくないんだ。エトヴィンが一度で採取に成功して薬草を持ち帰る途中、王都のすぐ手前で大雨と川の氾濫に巻き込まれて、すべてを失う。その結果、王女の訪問までに治療が間に合わない、という感じ』

『それで、王女が国王夫妻と顔合わせをする場面で、魔法爆発を起こす? これもなかなかできすぎの話って感じだけど』

『ノベルの設定では、黒夢病について隣国の方が研究が進んでいることになっていてね。第三王子の罹患については、当然情報を掴んでいる。その上で、病状が進んだ患者に例の黒い花の花粉を少量でも吸わせると、高確率で魔法爆発を起こすことが分かっているんだ。だから王女はあらかじめその花粉を用意していて、国王夫妻と王子に近づいたところでそれを王子に投げつける』

『うわ。なるほど、たとえばハンカチみたいなのに花粉を包んだものなら、国王に会う前に武器を持たないか検査したとしても、通過してしまうよね』

『うん。実際に今度王女が訪問する際でも、そこまで徹底して身体検査をするのは失礼に当たるってことで、できないと思う』

『ふうん。現実に発症が確認されたのは、去年の末頃って言ったね』

『うん。僕もノベル通りなのかは半信半疑だったんだけど、庭で黒い花に近づくことは避け続けていたから罹患は回避できていると思っていたんだ。それが年末頃に症状が現れ始めて、愕然としてしまったよ』

『そういうことか』

『隣国の侵攻は実現してしまったけれど、その他はいろいろ手を打って回避の方向だと思っていたからね。それが僕の発症から始まって、小麦収穫の危機、王太子の行方不明、とかなり強引なくらいノベルストーリーに寄せる流れになってきた』

『それに加えて、薬草採取の失敗が続いた、と』

『そう。今が『春の三の月』で、地球の言い方だと六月だよね。あの中ツ森に冬場に入ることは無理だから、エトヴィンたちは可能になる『春の一の月』から採取にかかる準備を進めていたんだ。僕からは大雨に遭わないように注意して、と言っておいたんだけど。最初は彼らも『そこまで運が悪いことはないでしょう』と楽観していたみたい。それが最初の採取の直後に狙ったみたいな大雨に見舞われて、認識を新たにしたみたいなんだ』

『その後もここまでしつこく妨害を巧まれたみたいに困難が続くなんて、最初は思いもしなかったろうね』

『だよね』

『それでもとにかくもまだ、すべてその破滅ストーリー通りになるとは言えないわけだ。薬草はここまで来たら不運な喪失も考えられないし、王太子も小麦もまだ最悪の事態を結論できない』

『そうなんだけどねえ。この薬草運搬途中の数々の災難だけを見ても、シナリオ強制力みたいなのを連想してしまう。他の点でも、まったく楽観できない気がするんだ。たとえば王女訪問の際に僕が国王夫妻の近くにいなければ最悪は避けられる気がするけど、これまでの経緯からすると何か強引にでもそんな状況になってしまうんじゃないか』

『うーん、何とも、だね。それでも王太子と小麦の件はすぐに対処もできそうにない。でも第三王子の発作さえ防げればかなりストーリーから外れることになるんだから、まずはそこ、治療薬の完成にエトヴィンに頑張ってもらうことだね』

『そうだね』

『あたしとしちゃその、この世界がノベルの通りだというのは信じざるを得なくなってきてるけど、シナリオ強制力の方はまだ確定じゃない、何とかしようがあるって思うよ』

『だといいんだけどね』

『ノベルの中かどうかなんて、どうでもいい。受け入れがたい運命には逆らおうっていう意思が大事っていうの、どんな世界のどんな人生でも同じじゃないのかな』

『だね』

『希望を持って、エトヴィンからの朗報を待つことにしようよ』

『うん』


 そうした一応の結論で、会話は穏やかな話題に移行する。

 第三王子のこれまでの人生について簡単に聞き、あたしがこの世界に落下してからのあらまし――を話そうとしてエトヴィンたちとの出会いまで進んだところで、離れたところから声がかかった。側仕えのオーラフだ。


「殿下、間もなく夕食の時間です。お起きになりますか」

「あ、うん。起きるよ」


 かけられた布を側仕えに捲られ、目元を擦りながら上体を起こしている。

 ふわう、と小さな欠伸を漏らし。


『この会話も、しばらくは中断した方がいいね』

『そうだね』


 素直に承諾し、食堂に行くらしい主従の背を見送る。

 残されたあたしは、明らかな人目がなくても動くのは自制し、ただ周囲を見回すだけに努める。

 陽は落ちてきた頃合いみたいだけど、受信範囲に睡眠中の人がいるとは思えない。第三王子以外とは当面会話不可能と思うべきだろう。


――つまるところ――何もすることがない。


 仕方なく、さっきまでの会話から得られた情報を頭の中で整理し直す、そんな作業で時を過ごした。

 後で聞いたところ第三王子はこの時間、国王や二人の妃と夕食をとり、しばらく歓談する日課になっているらしい。

 けっこう遅くなって部屋に戻り、王子は寝室に入っていった。王宮でも長時間無駄に照明を使うことはあまりしない、この時刻頃に就寝するのがふつうらしい。

 そちらがとこに入った頃合いに、会話を繋げた。


『夢の中でも会話はできるし、就寝を妨げることはないみたいなんだけどね。それでもそちらは病人だし明日に備えて体力を保つべきということだから、大事をとってこれでやめておくことにするね』

『うん、分かった』

『ゆっくり、お休みなさい』

『うん、お休みなさい』



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