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5 鑑定した

 そもそもこんな姿で人の前に出て、まともに相手してもらえるとは思えない。戦車装甲車とか模型とか知らない文化だとしたら、魔物か化け物か、と攻撃される羽目になっても不思議ない。

 しかし一方でこんな森の中、あの三人の他に人間と出逢える可能性は限りなく小さい気がする。

 これが夢として醒めるのでないとしたら、そしてあたしがこの先何らかの行動を続ける気になるとしたら、人間を見ることができる状況は残していた方がよさそうだ。

 としたら、彼らに見つからないように、しかし見失わないように、という距離感を保つべきか。

 向こうでは、三人の会話が続いている。あの獣の死因の検討や後始末の相談、といったところか。


――それにしても、あの獣はどんなものなんだろう。あの三人は何者なんだろう。人間、ということでまちがいないよね?


 そんなことを思っていると。

 突然、視界に妙なものが生まれた。

 青髪ローブの男の横に、まるで映画の字幕か何かみたいに。


【人間。男】


 という文字が。紛れもなく、漢字で。


――へ?


 心中思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。実際に音声にならないのが、幸いだ。


――これは何だ、異世界もの定番の、『鑑定』ってやつか?


 いわゆる魔法とかスキルみたいな類いの『鑑定』としては、情報がかなりショボいけど。とにかくも、最低限の疑問には答えてくれている。

 傍の他の二人に目を移すと、同様に字幕が浮かんだ。


【人間。男】

【人間。男】


 まあ、驚きはない。

 しかしそうするとこっちはどうだ、と獣の死骸らしきものを注視する。


大王熊だいおうぐまと呼ばれる魔獣。この森の中の動物では最強。今は絶命】


 うん本当に、最小限ながら必要な情報が得られるみたいだ。

 ラノベに頻出とは言え「魔獣」という見慣れない単語があるけど、意味の調べようがない。ラノベによくある設定準拠でいいんだろうか。たぶんふつうの動物より強いとか凶暴だとかということなんだろうとおもう。

 ついでに試しに、周囲の木や草にも試してみると。

 それぞれ見たこともない種類名が出た後、【雑草、毒ではないが食用に適さない】などという説明がつく。

 おそらくのところほぼ何の役にも立たないので、ふだんはこんな字幕が浮かばない設定になっているんだろう。

 とにかくもまあ、やろうと思えば最小限の情報が得られるということらしい。

 何というか、夢の中の設定にしては不思議仕様なのに妙に現実的、という感じがしてしまう。

 相変わらず、夢なのか現実異世界なのか、決定打に乏しいというか。

 ここまで分かったところでも、方針は変わらない。あの男たちとは適度な距離を保つべき、と思う。


――しばらくは、様子見かな。


 潜望鏡を下ろし、あたしは向こうの音声で気配を探りながら一度落ち着くことにした。

 まだ、夢は醒めない。

 万々々々が一の場合への検討を進めておくべきか、と思う。

 もしこのままが続くとしたら、あたしはどう行動すべきか。

 考えるうち。

 不意に、視界の隅に光るものが現れた。

 何やら人工的なバーというか、ゲージというか、青い小さな長方形。それがいきなり長さを縮め、赤く点滅を始める。

 それは何とも、現実に見えているものではなくただ何処かから視界に加えられているという感覚で。

 いかにも非現実的な物体というか何というか、なのだけど。

 見覚えというか、似たようなものの心当たりが、ある。

 スマホとかに必ずある、充電残量を示すメーターだ。

 赤の点滅と言えば疑いの余地なく、残量低下、充電を行ってください、のお知らせだろう。

 何というか一気に、背筋に冷たいものが走る。


――え、この模型の身体、電動だった? 充電しなきゃ、そこでお陀仏?


 他に考えようもない。

 慌てて周囲を見回す、けれど。


――アホか、こんな森の中にコンセントがあるわけないじゃんか!


 さっきは「このまま朽ちてもいい」なんて考えもしたけど。現実に動けなくなるかもしれない危機を感じると、あたふたしてしまう。

 生物ではなくなっているはずだけど意識は生物の名残を留めている、本能のようなものか。

 言い訳しておくと、この先行動するにしてもしないにしても、現時点ではどちらも選択できる可能性を残しておきたい。


――しかし――でもでも――電源?


 ずりずりと数メートルほど、右往左往。

 そんなことしていても、事態が好転するとは思えないんだけど。

 それでもわずかながら移動しているうち。


――え?


 ゲージの様子が、変わった。

 点滅が止まり、一面赤の乾電池を模したみたいな長方形に。中央に「+」の印が見える。

 つまり――あたしのスマホとは形が違うけど、もちろんメーカーや機種で異なるだろうけど、おそらくのところ充電開始の報せだ。


――充電できる? こんなところで?


 もしかすると、電気ではないのかもしれない。

 現状、この模型の筐体が接しているのは地面だけだ。

 この模型の動力の元、燃料みたいなものは電気でなく何か、空気中か地中から取り入れられるもの、なのかもしれない。

 そう思いながら、充電(?)が始まったことにわずかに安堵。

 しかしよく見ると、充電ゲージの赤は何となく色が薄く感じる。試しにちょっとだけ横に移動してみると、わずかに色が濃くなる。

 こうなると、スマホなどを使用している際の本能みたいなものが湧いてくる。おそらく誰もが経験あるだろう、電波が弱い場所で移動しながら少しでも強い場所を探す、あれだ。

 今色が濃くなった方角への移動を、じりじりと続ける。ゲージの赤は少しずつ濃さを増し、ある地点を過ぎるとまた薄くなり始めた。今の地点がピークらしい。

 相変わらず池のほとり、さっきまでに比べると高い木の根元に近いか、という場所だ。とにかくもしばらく、ここに落ち着くことにする。


――充電――電じゃないかもしれないけど、いいことにする――は、どれくらい時間かかるのかね。


 明らかに、やってみなければ分からない。一~二時間程度か。一晩以上か。

 考えて、そもそもここでの時間の単位や測り方、分からないことに気づいた。

 もうとにかく、いい加減であれ何であれ、やってみるしかない。

 思いながら意識を向けると、赤いゲージの横に小さな数字が見えていた。「20」と読める。

 当然、20パーセントの意味だろう。


――そうでなきゃ、グレてやるぞ。


 残り80パーセントに、どれだけの時間がかかるか。測定できたら、100パーセント充電の時間も推定できそうだけど。

 そう思ったところで、少し下の方に別な数字が現れた。「15:42」とある。

 もしかして、時刻か?

 そう期待しても、いいのだろうか。

 ところで時刻だとして、この世界でも地球と同じなのか。便宜上、地球の時刻で表示しているのか、分からないところだ。

 まあしかしとにかくも地球での時刻表示に準拠しているのなら、ここで大事な充電時間目安算出に役立つことはまちがいない。

 15時40分現在で充電20パーセント、と記憶しておく。



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