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チョーゴーキン――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る  作者: eggy


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44/54

44 襲撃された

 中央付近に高い尖塔、全体として三階建てくらいだろうか。

 周囲を圧倒する威容からして、おそらくあれが王宮だろう。

 ミーマを引いたカルステンは、迷いなくそちらを目指して進んでいる。

 残り、一キロメートルは切っただろうか。


――いよいよ、ゴールは近い。


 改めて、心中感慨を噛みしめる。

 しかし、そちらばかり見て周囲への警戒を忘れちゃいけない。

 見回すと。

 大通りの歩行者は変わらず、引きも切らず続いている。

 遠巻きの様子は相変わらずだけど、混み合いが増してきた分、周囲との距離も近づいたか。

 次第に街の人たちは、こちらのミーマの前を空けるだけ、という動きになっている。

 そんな観察をしていて、ふと不審に気がついた。

 中年近い、いかにも平民といった装いの男。

 ちら、とカルステンを窺い。

 視線が逸れているのを確かめたように、自分も横を向いたまま近づいてくる。

 懐に入れていた右手が、取り出された。

 あたしは、カルステンの背をつついた。


「え? ああ」


 即意味を悟ったらしく、カルステンはミーマの綱を放した。

 目にも留まらずその懐に差し入れられた、男の手を握り止める。


「あ!」

「貴様、何をするか!」


 間髪を容れずその腕を捻り、男の身体を地面に組み伏せていた。

 その手に、財布らしき布袋が握られている。


――おお、見事。


 絵に描いたような、掏摸の現行犯逮捕だ。

 わあ、と喚声を上げて周囲の人波が後ずさる。


「貴様、誰に頼まれた?」

「勘弁してくれえ! ほんの出来心でさあ」


 俯せに押さえられて、すっかり泣き顔で観念の様子だ。

 抵抗も諦め、全身の力を抜いているように見える。

 しかし。


――高貴ななりをしているわけでもない見るからに鍛えた兵士に対して、出来心を起こすかよ。


 あり得ない、よなあ。

 カルステンも周囲の野次馬たちも、見るからに呆れた表情だ。

 そうしていると。

 群衆を押しのけて、腰に剣を帯びた男が二人、駆け寄ってきた。


「王都警備隊の者だ!」

「いったい何の騒ぎか!」


 王都警備隊――先日エトヴィンの説明の中に、出てきた名称だ。おそらくこの王都の中で、警察のような存在なんだろう。


「私は、王宮に仕えるラングハンス伯爵家ご子息エトヴィン様の護衛、カルステンという。今、この懐を狙った掏摸を取り押さえたところだ」

「そうか」


 警備隊員というこの二人にも、携えていた証書を見せてすぐに納得されたようだ。

 掏摸の手から財布を取り返し、カルステンは二人に引き渡した。


「私は任務のため、王宮に急行しなければならない。必要があれば、そちらに問い合わせてもらいたい」

「承知した」

「それとこの掏摸、何者かの依頼を受けている可能性がある。そこをしっかり取り調べてもらいたい。おそらくすぐに、王宮から問い合わせが行く」

「了解だ」


 必要事項だけを告げてミーマの綱を握り直し、足速に歩き出す。

 カルステンとしては、また前回と同様の事態が起きた、もう一刻の猶予も持てないという思いだろう。


――同じ企画者によるものだとしたら、またしても町中での掏摸行為、芸がないと思えないでもないけど。


 とにかくもっと金持ちそうな通行人を尻目にこんな鍛えた兵士姿を狙うなど、狙いが限られていたとしか思えない。

 これで、薬草を狙ったらしい掏摸は、三度目だったか。

 実行犯について、一度目は自焼死、二度目は逃亡、という結果だったはずだ。

 それに比べ、今回は無傷で捕縛できた。警備隊で裏も考慮した取り調べが行われる。結果、何かが判明するという期待は持てるかもしれないよね。


――しかしともかくも、最優先は王宮への無事到着。


 言わずともカルステンはそれだけを念頭にしているようで、ほとんど思い詰めたような形相で速歩を運んでいる。

 ちらり覗き見えた王宮の尖塔を睨みつけるような目つきに、周囲への配慮のほどが案じられてあたしは潜望鏡を回し続けた。

 それでも不安と裏腹に、大きく豪華な門が眼前に迫ってくる。

 尖塔を中心とした巨大な建築物は、さらにその周囲を高い石塀に囲まれていた。当然ながら、門の両側に武装した衛兵が立っている。


「ご苦労様です」

「ご苦労様」


 顔を見せるだけで、カルステンは門の通過を許された。

 入ってすぐに立っていた職員に、ミーマの綱を委ねる。

 門外の衛兵だけでなくいろいろと役目があるのか、武器を装備した者しない者、数名が立っていたり庭先を歩いていたりしている。

 両手を自由にしたカルステンは、そのまま足速に奥へと向かう。

 あたしはそっと、初めて入る宮中の佇まいを興味深く見回す。

 次の瞬間。


――わ!


 視界が、真っ赤に包まれた。

 布の背負い袋に火がつき、燃え上がった、らしい。


「何だ?」

「どうした?」

「早く、火を消せ!」


 周囲から叫び声が近づき。

 背負い袋が下ろされたらしく、地に落ちる衝撃。

 バサバサと、何か布らしきもので叩かれる感触。

 ややあって、バシャーー、と水が浴びせかけられたようだ。

 布で覆われたままのようで視界は遮られているけど、何とか消火は果たされたか。

 即座に、カルステンが大きな声を上げた。


「その男、すぐに拘束して取り調べろ! 背後関係も詳しく、ゆめゆめ手を抜くな!」

「おお!」

「私はエトヴィン様のもとへ急ぐ。結果はそちらへ知らせてくれ!」

「了解した」


 どうも火を点けた犯人がその場にいて、捕縛されているらしい。火魔法による犯行だろうか。

 その後すぐ、あたしは袋ごと抱え上げられたようだ。


「貴様いったい、どういうつもりだ!」

「衛兵が王宮の勤め人に害をなすなど」

「分かんねえ――いったい何だか――分かんねえんだよお」


 周囲に、喧噪が続くが。

 そのまま、荷を抱えたカルステンは駆け出したらしい。

 王宮内で許される行動なのか分からないが、とにかく急ぐことしか頭にないのだろう。


――今の引火で、中に被害はないはずだけど。


 あたしはそっと、薬草を五枚取り出してみた。暗くて分かりにくいけど、損害は負っていないようだ。

 一息、安堵する。

 荒々しい足音が、続く。

 その後少しそれが和らいだのは、屋内に入って絨毯などの上を進んでいるのかもしれない。

 ややしばらく、左右、上下、さまざまな揺れが続き。

 やがて、その足が止まった。

 ドンドン、と忙しない戸を叩くらしい音。


「エトヴィン様、カルステンです」

「おお、入れ」


 さらにまだ慌ただしく、戸が開き閉じ。

 乱暴なほどの手つきで運ばれて、あたしは何かの上に載せられた。



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