27 拾得された
小学生だった六年間、ほとんど不登校、引き籠もりと呼んでまちがいのない生活を送ってきたわけだけど、そういう呼称から想像されるものと異なり颯人は結構社交性があって話し好きの子どもだ。
離れた地区の放課後児童クラブに通っている分には、遊び相手もできていたらしい。
子供向け読み物からSF、ミステリなどに読書範囲は広がり、高学年になってからはライトノベルにも純文学系にも触手を伸ばしている。そうした読書経験の多さからだろう、小学生と思えない一般常識を身につけているし、大人と話しても話題に不自由しない。
あたしとは会うたびに、レポート記事執筆用の突撃体験について話を聞きたがる。
中でもSFについてはかなりのめり込んで、クラシックな名作小説を読み漁り、映画のDVDをレンタル鑑賞したりしている。あたしもいくつかは一緒に鑑賞させてもらった。
まあその結果が今のあたしのこの姿に結実している、らしいんだけどね。
――喜ぶべきやら憤るべきやら。
こんな情けない姿に落ちぶれるほど、あたし前世だか何だかで罪深い生き方をしたかい? と、神様やら何やらに膝詰め問い糾したい気はなくもないけどさ。
今この現状から考えると、最悪というわけでもない気はするんだ。
――あたしは、颯人かもしれない少年に、会いに行く。
この六年間、ひどいというばかりじゃないけどふつうに考えて世間的に恵まれない境遇で、過ごしてきた。
いろいろ楽観できようもないところだけど、これから新しい学校で心機一転の生活を送る予定だった。
元の世界でどうなっているか正確には知らないけど、おそらくあの自動車事故でそれがすべて霧消してしまったんだろう。
颯人の希望の未来を返せ! と、声を大にして天に要求したいところだ。
それが無理なら、もしあの子がこの世界に生まれ変わっているなら、今度こそ明るい未来に向けて生きさせてやりたい。
あたしはそれに手を貸し、見届けるために、王都に向けてひた走る。
その王都への旅程において、今のあたしの姿、ある意味悪くないところもあるんじゃないかと思うんだ。
もし人間の身だとしても、この世界での旅路、ほぼ徒歩以外の方法はないという。だから現地点から王都まで推定二十日あまりの徒歩行脚、この点ではこの超合金装甲車仕様でも人の速歩程度の速度でほぼ変わらない。むしろ疲れ知らずに二十時間程度進み続けられるという条件は、生身人間より有利なくらいだ。
またこの超合金の最大の利点は、何にも傷つけられない頑丈さを有しているところだ。つけ加えれば、容易に草叢や地中に隠れることもできる。
魔獣やら盗賊やらが頻繁に出没するらしいこの世界の街道で、おそらく生身の人間より遥かに安全が保障される。
最大の難点は、人と会話ができないところだろう。こないだのように分かれ道に突き当たっただけで、進路に迷う羽目になる。
とにかくもこうした有利不利の点をわきまえて、ひたすら前進するしかない。
――決めたんだ。もう迷う余地なんてない。
そんなことを心に再確認しながら、あたしはこの夜の充電を続けた。
決め事にしている0時出発に余裕のある充電終了すると、これまでもしてきたことだけどいくつか魔法の練習、その消費分を再充電、という形で時間を潰す。
そうして時刻を確認して、出発。
真っ暗な街道を、とにかくひた走る。
北に進むにつれ、やっぱり人の行き交いが増えてくるようだった。
時には、牛のような動物に引かせた荷車に大量の荷物を載せた、行商らしい集団と出会ったりする。
当然人目につかないよう、あたしは道脇の草叢に身を隠す。
何度かそんな隠れんぼをして、午過ぎ。
街道を見通して、人の姿が去ったことを確認し。
さあ動き出そう、と気合いを込めようとした、とき。
ガサリ。
背後に、何かの気配がした。
慌てて、身を縮める。潜望鏡も格納し、何の変哲も、見せないように。
こうすると、視界は前方の百八十度弱程度に制限されるんだけど。
ぬっと、いきなりその正面に顔を出したものがあった。
何とも小さい、女の子だ。あまり小綺麗と言えないピンクがかった色の髪、粗末なワンピース。三歳かそこらといったところか。
じっとあたしを見つめ、見回し、全身検分する。
そっと小さな手を伸ばし、あたしの上面を撫でる。
不審に見えないように動きを殺している、と。
死角になった背後から、声がかかった。
「どうした、ハイダ? 何か見つけたんか」
「うん」
背後のはまだ甲高い、子どもの声らしい。張りの強さからして、男の子だろうか。
ハイダと呼ばれた正面の女の子は、何処かたどたどしい発声だ。
「何だ、それ?」
「……カメしゃん?」
――いや、亀じゃないし。
見た目、そんなふうに思われるのか?
亀にキャタピラはついていないと思うぞ。
――などと、反論していても仕方ない。
さあ、どうする。逃げ出すか、隠れるか。
思っていると、いきなりあたしの身体は宙に浮いていた。
「何か知らんけど、玩具にすんなら、持って帰ろうぜ」
「あい」
視界がぶれる。
つまりは、背後の男の子に持ち上げられたということらしい。
揺れながらちらり見えたところでは、六歳かそこらに見える藍色の髪の少年だ。推定約三キログラムのあたしの身体、女の子には重すぎそうだけどこちらの男の子には楽勝のようだ。
軽々というわけでもないだろうけど、よいしょ、と事もなげに腋に抱え込む。
「帰ろうぜ。あまり長いこと外に出てるんじゃないって、おばちゃんに言われてるんだろ。こいつで家ん中で遊べばいい」
「あい」
男の子は颯爽と歩き出し、ハイダなる女の子はとことこ怪しげな足どりでついてくる。
行く先は街道から見て左奥、そちらに家があるんだろうか。
最初は兄妹かと思ったけど、親は違うのか。近所の友だちということなのかもしれない。
しかし、とにかくも。
――困ったな。
あたしにとっていちばんの弱み、抱え上げられてしまってなすすべがない。
やるとしたら風刃で斬りつけるか、水鉄砲で目を狙うか、だけど。どちらにしても、子どもに対しての攻撃は躊躇われる。
しかしこのまま家に連れ込まれたら、脱出に手間取るかもしれない。先を急ぐ身として、何とも避けたいところだ。
ここで逃げ出すにしても、自走できるところを見せてしまうとますます興味を持たれて玩具扱いに執着されそうだ。
――とりあえずは大人しくして、隙を見て逃げるしかないか。
子ども二人の歩みは、すぐそこそこ広い道に出た。街道から逸れてくる脇道のようだ。
間もなく前方に近づいてきた集落は、村のようではあるけどそこそこの規模に見える。
こないだのアヒレス村に比べて、数倍はあるか。
街道からの近さを見ても、旅人の宿泊休憩などに使われているのかもしれない。
集落の中に少し入り、食堂か何からしい店構えっぽい建物の正面脇出入り口に、二人は入っていく。
店らしい土間の方に人の動く気配がある。そちらへ行かず、奥の板敷の部屋に入って少年はあたしを床に下ろした。
「ここでいいか?」
「うん」




