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チョーゴーキン――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る  作者: eggy


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15/54

15 解説した

「水魔法を、こんなふうに飛ばせるのですか」

「信じられない」

「しかし、事実だ」


 向かいの森に近づいて、木の幹に向けて射撃してみた。

 結果、表面の皮が削れる程度の効果があったようだ。

 またおよそ二十メートル先見当なら、かなりの命中率を見込めることが分かった。


「確かにこれは、目に命中すれば悶絶させられそうだな」

「そうですね」

「他の部分なら分かりませんが、目ならたいていの魔獣などに効果がありそうです」


 観察して、そう三人は頷き合っている。

 あたしもマジックハンドを伸ばし、頷き返した。

 さらに森の中を進み、日が落ちる頃になって野営地を探した。

 前夜と同じように川の近くで、焚き火を点けることにする。

 三人の男は食事をし、暮れ落ちた中で睡眠をとる。前日と同様、緑髪のヘルビヒが見張り番に座った。

 残り二人が寝静まったのを見計らい。

 気を落ち着けて、あたしは精神統一を試みた。

 やがてぼんやりと、薄闇に包まれる。

 離れて座っているのは橙髪――カルステンだ。狙った相手の夢に入れるか試してみたんだけど、成功のようだ。


『ちょっと、失礼していいかな』

『え――誰だ?』

『今朝エトヴィンさんから紹介された、ハルという』

『え、え――ああ、昨夜エトヴィン様と夢の中で会話したという――』

『そう。ここはあんたの夢の中のようだな。申し訳ないが、エトヴィンさん以外でも可能なのか試させてもらった』

『そう――なのか』

『今後も基本的に会話はエトヴィンさんとしていきたいと思うが、あんたにも挨拶させてもらう。これからもよろしく』

『あ、ああ――こちらこそ。それに、昨日はあの大王熊を倒してくれたし、今日は黒毛狼相手に助けてもらった。感謝する』

『助け合いは、お互い様だ。よろしく頼みたい』

『ああ、よろしく』

『では、失礼する』


 念じると、カルステンの夢から出ることができた。

 続けてまた念じ、エトヴィンの夢の中に入る。


『失礼する』

『おおハル殿、待っていました』

『待たせて済まなかったが、今カルステンさんの夢の中にお邪魔して、挨拶してきた』

『おお、そうなのですか』

『私の能力というのか魔法の一種なのか、とにかくどうも、近くで眠っている人の夢の中に自在に入れるようだ』

『そうなのですね』

『もう一人の起きているヘルビヒさんとは試してみても会話できないから、やはり眠っているのが必須条件なんだな』

『なるほど。不思議な現象ですが、条件は分かってきたことになりますね』


 うんうんと、頷いている様子。

 しかしすぐに、エトヴィンは表情を変えて身を乗り出してきた。あたしのこの能力の件より、興味待ちきれない話題があるらしい。


『それよりそれよりハル殿、あれはいったい何なのですか。昼間の、水魔法を撃ち出したあの仕掛けは!』

『えーと、あのような形をした武器は、この世界にない?』

『ありませんね』

『火薬というものは』

『聞いたことがありません』


――そこからかあ……。


 とにかくも仕方なく、基本の前提条件から話し出す。

 自分が生きていた世界には、銃という武器があった。実際に手に取って使ったことはないが、使用されるところを見た経験はある。

 高度な技術が使われていて自分には細かい説明ができないが、小さな金属の弾丸などを遠くに飛ばし、かなりの殺傷力を持つ。

 今この身体に装備されているのは、前にも話したように空想物語に出てくるものの模型で、実用はできない。ただ空想が入っている分物語の中ではさらに威力があり、命中率も高いことになっていた。

 今回はそれをイメージして魔法を使用したので、ふつうより威力も命中率も高められたのではないか。


『なるほど。そこへ繋がる原理はまだ解明の余地がありそうですが、とにかく魔法の使用にイメージが重要だという一つの証明ですね』

『そうなりそうだね』

『これは今後初心者に魔法を教える際にも、参考になりそうです。イメージの持ち方次第で、従来とは違った魔法発現の可能性もあるかもしれません。もちろんハル殿と我々で持っている常識の差がある、というのは大きいのでしょうが』

『そちらの役に立つのなら、喜ばしいな』

『他にもそのような、我々が思いつかないような発想はないものでしょうか』

『うーん、そもそもこちらの魔法の実際について、まだよく知らないしなあ』


 もしかすると知らないからこそ今回のようなイメージを持てたのかもしれず、下手に詳細に知らない方がいいのかもしれないとも思う。

 しかしまあこうして身につけた水鉄砲魔法については、知識が変わって使えなくなることもないだろう、と思っておく。

 他の魔法についても曲がりなりにも使えているのだから、知識を増やすことで別な進展があるかもしれないよね。


『魔法というのはそもそも、体内に蓄えた魔素を使って自然界にあるものを操る、と考えられているんだね?』

『そうです。水魔法なら水を、風魔法なら空気を、という具合に適性によって特化したものを操れるわけです』

『疑問なんだが。風魔法が空気を操る、というのは分かる。しかし水魔法の場合、まず手元に水を出現させなければならない。これは何処から集めてきているんだろう。魔法によって何もないところから生み出しているんだろうか』

『ああ、それは実験によって解明されています。ごく近い周囲にある水分を、水蒸気に変えて集めているのです』

『そうなのか』

『ええ。密閉した室内で、水に濡らした布を周囲に置いて水魔法を使い続けたところ、その布が少しずつ乾燥していくのが確かめられたのです』

『なるほど』

『一方で少し不可解なのですが、容器に入れた水を置いて同じことを試してみてもその水はほとんど減りませんでした。どうもふつうに溜めた水でなく、何かに含まれたような状態の水や空気中の水蒸気が主に使われるようです』

『溜めた水と何かに含まれた水の違い――水蒸気になりやすいか、といったところなんだろうか』

『そうではないかと思われます』


 容器に入れた水が蒸発しにくいということがあるのかどうかは分からないけど、濡らした布の方が空気に触れる表面積が大きいということは言えそうな気がする。


『これ、濡れた布の水を使うにしても、特定場所の布だけを指定して使う、ということはできないんだろうか』

『それは――確かめたことはありませんね』

『指定した場所だけということができれば、ものの乾燥を速める効果が期待できそうだね』

『そう、ですね。実験の価値がありそうです』


 ぼんやり空間でよく見えないんだけど、どうも科学者は目を輝かせているみたいだ。

 身を乗り出して、さらに尋ねかけてくる。


『やはりハル殿は我々と違った発想ができるようだ。他に、そうした思いつきはありませんか』

『うーん……』ひとしきり、首を捻ってみる。『言ったように、私のいた世界で魔法は空想の中にしかなかったんだが』

『はい』

『その空想物語の中で、よく火魔法で敵を吹っ飛ばすとか、風魔法でものを斬るとかいったものがあったな』

『吹っ飛ばす――斬る――ですか』

『火だけでものを吹っ飛ばすというのが可能なのか、何とも判断しようがない。純粋な火だけなら硬いわけでもなく、重さがあるわけでもないんだから。火と同時に硬いものか爆発物のようなものをぶつけなければ難しい気がしてしまうんだが、何にせよ空想の魔法なんだから考察も難しい』

『そう――ですね』



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