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7.初めての見送り


「あーもう!!やっぱりイライラしてきた!なんなの?柚子とお姉ちゃんの仲を切り裂いて楽しいか!あのクソおぼっつ!!」


「柚子ちゃん、その、おぼっつって何?」


「柚子が坊ちゃんを最大限に悪く言う時の悪口」


「はぁー。また柚子ちゃん語録か……」


「望月は仕事の他に覚えることがあって大変だね」


 いつも通りの朝だった。けれど、お姉ちゃんの作った朝食は、いや朝食だけじゃないーーご飯が食べられなくなる。人生でも5本の指に入るであろう危機を迎える朝だ。朝食後の玄関掃除は光くんと育が近くにいたので、とりあえず思いの丈をぶつける。


「大体さ!柚子はまだメイドじゃなくて、メイド見習いな訳!なのに、メイド長のお姉ちゃんいなくなったらどうするんだ!」


「せやなぁ。柚子ちゃんは不安やなぁ」


「結衣ちゃんがちょこちょこ様子見に来るって立花さん言ってたよ」


「常時いるわけじゃないじゃないか!!メイドが柚子だけで業務が回ると思うな!一条家も終わったな!!」


「……はぁ。先が思いやられる」


 そう吐き捨てて育はお庭へと去っていた。


「気持ちの整理がつかんだけやんなぁ……。何もできんけど、話は聞くようにするから」


 光くんだけがこのお屋敷で、私の気持ちを分かってくれるような気がした。



 昼食は大好きなミートソーススパゲティだった。


「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが行っちゃうぅぅ」


「大丈夫よ。ちょこちょこ帰ってくるわ」


「お姉ちゃんは、柚子のこと嫌いになったから、一乃瀬家に帰るんだ!」


「そんなはずはないわ。お姉ちゃんは柚子が1番よ。ただ、一乃瀬家は少し特殊だから……」


 確かに一乃瀬家は特殊だ。少数精鋭の使用人しかいません!なんて言ってるけど、実情は人手不足で大変そうに見える。もし私が一乃瀬家に行ったら、きっとこそこそおやつを食べる時間もないし、廊下の隅でサボる時間もないだろう。



 昼食が終わるとお屋敷が一気に騒がしくなった。お姉ちゃんの旅立ちが近くなってきたから。


「柚子。結衣ちゃんの見送りなのにそんな顔でいいの?」、


「うぅ……」


「そんな泣かんで」


 一乃瀬家から迎えの車がやってきた。みんなが玄関に集まってお見送りだ。一条家でお見送りがある時は全員で玄関でーーそれがこの家の決まりだ。お姉ちゃんから立花さんへの申し送りが淡々と行われる中、私は端っこでメソメソしているとハンカチを持った光くんと、手ぶらの育がやってきた。


「ありがと……。ふんっ!」


 光くんに借りたハンカチで涙を拭いて、鼻を噛むとなんとなくスッキリした気がした!


「あっ、柚子ちゃん。俺のハンカチ……」


「望月って気の毒だよね」


 2人のことは置いておいて、私はお姉ちゃんとお迎えに来た理玖くんに近づいた。


「お姉ちゃんに迷惑かけないで!!おぼっつにもそう伝えて!!」


 私のあまりの迫力に驚いたのか、理玖くんは目を見開いたけどすぐにいつもの笑顔になって、お姉ちゃんの肩を自分に抱き寄せた。


「わかってる!俺に任せろって……坊ちゃんにも言っておく」


「心配しなくても大丈夫よ。向こうには、快星くんもいるし、理玖ちゃんも頼りになるわ」


 ペシっと理玖くんの手を叩いたお姉ちゃんは、私に優しく笑っていた。

 車に乗り込むお姉ちゃんを見つめる。思えば、自分が屋敷に残る側で誰かを見送るのは初めての事だ。出発する時は、これからの生活に少しの期待と不安を持っていた。見送る側にも、大きな不安があると初めて知ったのはこの瞬間だった。


「お姉ちゃん!いってらっしゃい」


 行ってくるわと、出発直前窓を開けてくれたお姉ちゃんに叫んだ。いつも凛とした表情で見送ってくれたお姉ちゃんに、自分に家を任せてくれたお姉ちゃんに、ちょっとでも安心して欲しかったから。



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