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3.分家の帰還 side望月光

 



「一乃瀬家が帰ってくるのよ」


 この屋敷と仕事にもだいぶ慣れたある日の午後3時。

 柚子ちゃん用の大きなカップに紅茶を注ぎながら、結衣さんは唐突に言った。


「一乃瀬のみんな、どこか行ってたの?」


 そういえば帰って来た時お出迎えがなかったねぇ、とおやつのクッキーを頬張る柚子ちゃん。その顔はどこか嬉しそうだった。


「国境任務だ。迎えに行った時そう説明しただろ」


 じゃんけんに負けて柚子ちゃんにクッキーを全て取られた修斗さんはそれが不満なのか、はたまた話の内容を覚えていない柚子ちゃんに嫌気がさしたのか、眉間に皺を寄せている。


「へ~。国境任務ってキツイんでしょ?お疲れ様だねぇ。俺は勘弁だよ」


 いつも通りの緩い口調で話すのは深雪さん。勘弁も何も、その戦闘には向かないヒョロヒョロの身体で派遣されることは絶対にないだろう。あえてそれを口には出さないけれど。


「前回お会いしたのは国境任務前の忙しい時期だったから、挨拶もままならなかったんだよね。望月のことも紹介したいし、ご挨拶の機会を設けたいところだけど…」


 執事長の立花さんはみんなが思い思いに口を開いている中、仕事モード全開。根が真面目なのだろう、既にカレンダーに目をやり日程の目星を付けているようだった。


「そうか。では茶会でも開こう。国境任務の労いと挨拶も兼ねて。」


 上品な低音でガヤガヤとしたこの場の空気を落ち着かせたのは、一条家の御当主。使用人のどんな小さな言葉も聞き逃さず、実現に向けて行動をする姿は理想の御当主そのものだ。


「わあ!みんなに会えるの久しぶりだねぇ!楽しみ~!お茶菓子は何がいいかな!」


 ウキウキと弾んだ声をあげ、目をキラキラとさせる柚子ちゃん。手元のお皿に山盛りに積んであったはずのクッキーは、すべて彼女のお腹へと入ったらしい。空のお皿を隣の席の風見の方へと寄せてその代わりに紙とペンを取り出すと、彼女はいそいそと何かを書き起こしているようだった。


「…みんな元気かな」


 普段であればそんな柚子ちゃんの行動に苦言を呈すはずの風見も、今回ばかりは一乃瀬家の帰還が楽しみなのか珍しく口角を上げている。


「で?いつ帰ってくるんだよ」


「どうしてそんなに偉そうなのかしら。人に何か尋ねる時には言い方ってものがあるのよ。」


 修斗さんと結衣さんがバチバチと言い争いを始めそうになったところで、御当主から今の段階で茶会の開催日は未定だが、用意を進めていくようにとお達しがあり、おやつの時間が終わった。



 みんなそれぞれ一乃瀬家の話をしながら持ち場へ戻る中、柚子ちゃんが俺に声をかけてくる。


「光くんは一条家で初のお茶会だよね!用意頑張ろうね!」


「あ、あぁ…せやな。そんでな、柚子ちゃん」


 聞きたいことがある、と続けようとした俺に柚子ちゃんが細かい字が書き込まれた紙を手渡してくる。


「これ、お茶菓子候補のリスト!他に何かいいものあれば教えてね!良いお茶会にしようね!楽しみだな~!」


 柚子ちゃんは自分の話したいことを終えて満足したのか、走って玄関掃除へと戻ってしまった。彼女は結構人の話を聞いていない。質問したことに対して斜め上の回答をされるなんて日常茶飯で、肝心なことを聞けたことなんて今の今までほとんどない。


 既に彼女の姿が見えなくなった、誰もいない廊下で俺は1人呟く。


「…一乃瀬家って、何?」



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