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2.邂逅 side望月光


「務めをしっかりと果たすように」


 採用試験の結果を見た両親から掛けられた言葉はそれだけだった。


 ーーーここ一条家で働き始めて二週間。

 両親の言う“務め”を果たせそうな気配は、今の所ない。

 それはこの大きな屋敷に、初めての仕事に、人間関係に、慣れることに精一杯でそちらに気が回っていないせいなのか。それともあの家を出て気が抜けたせいなのか…。

 いずれにせよ、もうしばらく動きはないだろう。

 なんせ情報が少なすぎる。


「茶色の髪に茶色の瞳を持つ姉妹を探し出せ。必ず。」


 家を出たあの日。遠方に行く息子の身を案ずることも激励の言葉をかけるでもなく、父は幼い頃から俺に言い聞かせた“務め”をそう繰り返した。


 最初はすぐに見つかると思っていた。

 だって、自国において茶色の髪は非常に珍しいものであったから。

 ただその自信はすぐに崩された。

 この国に到着してすぐに、何人もの茶色の髪を持つ人とすれ違った。道案内をしてくれた老婆に話を聞いてみれば、茶髪はそんなに珍しいものではない、いくらでもそんな姉妹はいるだろうと笑われた。


 そして着いたこの屋敷で、俺を迎え入れてくれたメイド長である結衣さんの髪と目は真っ黒だった。妹がいると聞いたが、そもそも結衣さんが俺の探している人物の特徴に当てはまらない時点で、白川姉妹はハズレだ。

 それなのに、ここにいる意味はあるのだろうか。さっさと別の場所を探しに行った方が良いのではないか。そうは思いながらも、王都に位置し、貴族の頂点に君臨するこの屋敷は情報収集をするにちょうど良い。出来るだけ有益な情報を集めてからここを去る。そう決めて、手掛かりになりそうなものはないか屋敷内の書庫の掃除をしていた。その時だった。


「おい!柚子、自分の荷物は自分で持て!」


 玄関先から聞こえた修斗さんの怒鳴り声。

 続けて何を言ってるかは聞き取れなかったが、この屋敷で初めて結衣さん以外の女の子の声が聞こえた。


「望月、行こう」


 ヒョコッと扉から顔を見せたのは執事長の立花さん。柔らかい笑みを浮かべながらも凛と伸びた背筋に、忙しさを感じさせない早歩き。スマートにこなす上司の背中を慌てて追いかける自分は、側から見ればまるでヒヨコのようなものなのだろう。


 階段を降りると、そこには1人の少女が立っていた。

 立花さんが声をかけるなり、パァッと顔を輝かせて立花さんの名前を呼ぶ彼女。話をしている人の顔をよく見るのは彼女の癖なのだろうか。立花さんの顔をじーっと見つめていたその視線が、立花さんの紹介とともに俺へと移る。


「望月光です」


 思わず目を瞑って笑ったのは、太陽のようなその笑顔が眩しかったからだろうか。


「白川柚子です。よろしくお願いします」


 それとも、あまりに綺麗な茶髪と同じ色の瞳に何故か切なさを覚えたからだろうか。



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