1.柚子の帰還
「修斗くーーん!どこぉ?」
重い鞄を引きずりながら駅舎を出た。この街に帰ってきた!駅周辺のお店は変わらない所もあれば、変わった所もある。お店のチェックをしつつ、迎えに来ているであろう人を探すーーけど、面倒になって叫ぶ事にした。
「うるせぇ!人様の迷惑だろ!」
「おー!修斗くん、柚子のお帰りだぞ~」
叫べばすぐに見慣れた顔がやって来た。やや、偉そうに帰宅を告げるとおかえりの言葉が返される。駅前に駐車してあった車に乗り込んで、お屋敷へと向かう。
「新しい人が来たって、お姉ちゃんからお手紙来たけどどんな人~?」
「あぁ。立花と深雪は知ってんだっけ?」
「うん!去年帰省した時に顔合わせしたよ
ー」
立花さんは、新しい執事長さんで眼鏡をかけた優しそうな人だった。深雪さんは、ヒョロッとしててちょっと不健康でチャラそうな人だった……はず!
「望月光。執事見習いで、年はお前の1つ上だな。……仕事もそこそこ出来るし、いい奴。お前も見習えよ」
「うるさいなっ!」
修斗くんは口が悪いし、大きなお世話だ。望月光くんかーー、お饅頭みたいな名前だなぁ、美味しそう。あ、おやつは何だろう。んー、眠くなってきたなぁ。
「柚子!おい、柚子っ!起きろ!」
「んっ?なになに??」
修斗くんのとても大きな声に驚いて起きると、懐かしさを感じる玄関の前に車は止まっていた。
「おー!着いたね!」
車を降りて扉の前に立つと、少しの緊張感に襲われる。私が育ったお屋敷だけど、今日からはキチンとしたメイドとして務める場所になる。ーー出来るだろうか、このお屋敷でメイド長を務めるお姉ちゃんのように、別のお屋敷でメイドをしていたお母さんのように、立派に。
「そんなに緊張しなくても……誰も最初から結衣ちゃんみたいに動けとは言ってないよ」
落ち着いた声に振り向くと、幼馴染で庭師をしている育が立っていた。
「いーくぅー!ただいま、柚子の帰還!」
「はぁ……。おかえり。また騒がしくなるな」
「おい!柚子、自分の荷物は自分で持て!」
「重いから修斗くん持ってきてねー」
帰宅早々、育のお小言はごめんだ。修斗くんに半ば強制的に荷物を押し付け、逃げるようにお屋敷の中に入る。
いつもと変わらない玄関ホール、花瓶に生けられた赤薔薇、ふわっと香るおやつの甘い匂いーーすべてが一条家に戻ってきたのだと感じるものだった。
「柚子ちゃん、おかえりなさい。思ったより早い到着だったね。あ……僕の事は覚えててくれているかな?」
階段から降りてきた2人組の1人に声をかけられる。優しい物腰の眼鏡をかけたこの人は、この家の執事長ーー立花さんだ。
「立花さん!執事長の立花さんですよね!」
「覚えててくれて良かった。僕って少し影が薄いから……。あ、2人は初めましてだよね?紹介するね、2週間前からここに勤めてる執事見習いの望月光。望月、今朝話していた結衣ちゃんの妹さんで、メイド見習いの白川柚子ちゃんだよ」
立花さんの隣に立つ、茶髪の人懐っこい笑顔が見覚えがあるような、ないような……。
「望月光です。よろしくお願いします」
「白川柚子です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げられて、負けじとばあや仕込みのお辞儀を返す。
「今日は夕食までのんびり過ごしてね」
立花さんはそう言って望月さんを連れて行ってしまった。……窓から差し込む光に照らされる彼の髪色が、みたらし団子に見えてきた。そろそろおやつの時間だ!私の分おやつはあるのかなぁ。




