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20.不安③side白川結衣





「……結衣」




快星くんにグッと腕を掴まれて我に返る。




「お父さんとお母さんが……」




私達が行かなければ、先に行ったみんなが様子を見に戻ってきてしまうかもしれない。けれど、両親をこの状況に置いていくのは心配だ。扉の向こうを何度も何度も見つめる。




「結衣」




そんな私に気づいて、快星くんから再度声がかかる。分かってるわーーどんな状況においても、最優先はお屋敷。例え家族でも、お屋敷の為に非情な決断を下さなければいけない時があるのだ。




「行きましょう」




扉をしっかり閉じて、私は自分の行くべき道に視線を定めた。お父さんとお母さんは、きっと大丈夫なはず。騒動が落ち着けばまた会える。そう信じて私は抜け道を進んだ。








暗がりから抜け出すと、既に騎士団がお屋敷を囲んでいた。




「2人とも無事かい?」




当時のご当主様にそう声をかけられた瞬間だったーー凄まじい音が後ろから聞こえた。来た方向を振り返れば、先程自分がいた場所から出火が確認でき、瞬く間にお屋敷が火に包まれる。




「消火だ!水!水!」




「逃げたぞ!追え!!」




騎士団の人の怒鳴り声が響き渡った。




「おとうさん、おかあさん……」




私の小さな呟きは、辺りの騒音にかき消され暗闇に消えていった。








数時間後、一乃瀬家の人間は本家である一条家の客間に避難していた。両親の他にも、怪我をした人がいるようで何名か病院に運ばれていたり、お屋敷の消火活動に当たってる人もいるようで、全員ではなかったけれど。




私と快星くんは、お屋敷を出た最後の人間になったので騎士団からの簡単な聞き取りを終えて合流した。




「お姉ちゃん!お父さんとお母さんは?柚子が寝てる間にどうしたの??」




部屋に入ると心配そうな柚子に話しかけられる。ーー柚子達は避難して早々に一条家へと移ったようで、柚子は何がなんだか分かっていなさそうだった。


柚子の問いかけに、私がどのように答えるかその場にいた全員が固唾を飲んで見守っていた。




「お屋敷が燃えたのよ。放火みたいね、お父さんとお母さんは……お屋敷の後処理とかで向こうにいるわ。大丈夫よ」




「そうなんだ!わかった!」




ーー嘘をついた。柚子にはまだ言わない方がいい。まして、襲撃の末にこんな結果になってしまったなんて。




「柚子ちゃん、こっちでお茶でも飲みましょう」




他のメイドさんが話を逸らしてくれた、この場にいた全員が私の嘘を尊重する事にしてくれたのだ。……両親はもういない、また私は大切な人を失ってしまった。柚子だけは守らなければーー。そして白川家という家も。まだ年齢が伴わないけれど、白川家の当主という目で周囲は私を見るだろう。親を亡くしたばかりとか、そんなことは家を守るには関係ない。私がしっかりしなくちゃ。








「おい。そんな所で突っ立ってどうした?」




振り向くとお風呂上がりらしい快星くんの姿があった。別に……私が何をしていてもいいじゃないと思いながら、まだ手の中にあった受話器を置く。




「柚子と電話をーー」




「何かあっても、何もなくても思った事は全部言えよ」




両肩を掴まれて、顔を覗き込まれる。それはあの日ーー両親を亡くした私に、言った言葉と同じだった。何かあっても、何もなくても俺には全部言えと、彼はずっとその言葉を守って私の小さな言葉にも耳を傾けてくれている。




「一条家のお屋敷にも不審者情報があるらしいわ。あと、怪文書が届いたってーー」




見つめた視線の彼もあの日を思い出したような表情で、私を掴む両手の力が少し強くなった事が重ねた月日の年数を感じさせたのだった。

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