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17.一乃瀬家の暮らし side白川結衣

 


「こんな感じでいいんじゃないかしら」


「ありがとう、結衣ちゃん。いやぁー助かったなぁ」


 一乃瀬家は国境任務に行って少しの間留守にしていた事もあり、なかなか掃除と片付けが行き届いていなかった。

 リビングは片付けても片付けても、ウィルくんや耕ちゃんが物を積み上げるーーそれは昔から変わらぬこの家の光景だった。

 少しずつ整え終えて、ついに書庫の整理がひと段落した。一緒に作業していた泉くんは、大体こういう地味な仕事を押し付けられて、満更でもなく引き受けている。あまりにも膨大な書類に太刀打ち出来ず、私を呼んだ事はなんとなく想像がついた。


「やっぱり結衣ちゃんがいると頼りになるよね」


「そうかしら?」


「メイド兼任も大変だと思うけどね。結衣ちゃんと柚子は元々この家の人間なんだからーー早く2人とも帰ってくればいいのに」



 ーー私と柚子の経歴を聞かれたらまず一乃瀬家の事を話さなければいけない。白川家は代々一乃瀬伯爵家に仕え、執事長を輩出してきた家系だ。だから家の為にもせめて一乃瀬家でメイド長にはーーと私はずっと思っていた。

 両親の間には私と柚子の女の子2人しかいないから執事長にはなれなかった。加えて私たち姉妹は両親の死と共に人員調整で一条家へ引き取られ、更に私は一条家でメイド長を務めることになったからその可能性は限りなく低くなっていた。だから今回の一乃瀬家への帰還は奇跡だ。


「今回の兼任だって奇跡よ。……使用人の配置は各家のご当主様が決められる事よ?」


 そう言うと、泉くんはそうだねといつもの憂いを帯びた顔で頷いた。



 夕食の席は一条家よりもっとアットホームなダイニングだ。丸テーブルをみんなで囲んで、鶏肉の唐揚げがメインのプレートを各々の前に置く。


「今日のフライドポテトの芋はオイラが作ったんだぞ!」


 庭師とは名ばかりで食物ばかり育てる耕ちゃんの得意気な声が食卓を更に賑やかにしてくれる。


「ねーねー。最近お屋敷の周り変なヤツうろうろしてない?」


 かなり重大な事案だと言うのに、ウィルくんが話すと軽く聞こえる不思議だ。


「オイラも思った!」


 全員が視線で同意を確認し、坊ちゃんを見つめる。


「みんな警戒しておこう。南の方でも事件があったみたいだし」


 一条家のご当主様とはまた違う、柔らかい言い方だけれどその場が引き締まるような話し方だった。


 私も何となく異変を感じていた。怪しい人影を何度か目撃したし、裏門にやたらと近づいてくる人も見た。伯爵家は公爵家に比べてセキュリティーが甘い、その割に高価な物や機密情報に溢れているから強盗や機密情報を狙う人には格好の餌食だ。まして、ここ一乃瀬伯爵家は、五大公爵家の分家の中で唯一の伯爵家となった。子爵や男爵と言った地位の他の分家より重きが置かれている。怪しい人ーーその目的はこの家か、物かお金かそれともーー。




 夜9時、一乃瀬家では各々が自室で過ごす。仕事もひと段落するこの時間に私はキッチンでお茶を淹れる。ずっと昔からの習慣だ。



「カモミール?」


「えぇ。嫌だったかしら?」


 一条家では主に1人ーーたまに柚子がお供してくれたティータイム。一乃瀬家では、何となく彼と2人が昔からの定番だ。


「いやー。お前何かあるとすぐ魔除けとか言って、カモミールのハーブティー淹れるから」


 淹れちゃいけないのかしら。まったく快星くんはこれだから……。大体、人がせっかくお茶をーー。


「おい!誰も文句は言ってねぇだろ。ーそれより、今日の夕飯の時、話聞いてたか?」


 不審人物の話だろう。快星くんを見るといつになく、真剣な顔で見返された。


「お前も気をつけろよ。不要に門に近づくな、出掛ける時は誰か連れて行け、それから……」


「いちいち言われなくても分かってるわ。まるで、修斗くんね。本当に口煩い」


「はぁ?俺はーー」


 それ以降の発言は右から左。快星くんは、修斗くんほどではないけれど、同じことを何度も伝えてくる傾向がある。……一条のお屋敷は大丈夫かしら、柚子は無事かしら。



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