14.自己紹介
「紅茶のお代わり、いかがですか?」
私と光くんの沈黙を破ったのは、店員さんの一言だった。
「ただいまサービスで、お代わり1杯無料となっております」
まだここでのんびりしてもいいのだろうか、せっかく街に来たならそろそろ買い物とか、街案内とかした方がいいのかなぁ……。
笑顔の店員さんから、目の前の光くんに視線を移す。
「1杯だけ貰っていこか?」
そんな言葉に頷いて、お願いしますと返す。
お代わりの紅茶が運ばれて来た時に、光くんが口を開いた。
「柚子ちゃんの経歴って聞いてもええ?」
「経歴??」
突然の質問に驚く。
経歴を聞かれるなんて、貴族のお屋敷の面接くらいで私には縁もゆかりもない事だったから。
「あ、ごめん。俺から聞いたんやから、俺から先に話すわ」
そう言って光くんは紅茶を飲むと、私に向かって話し始めた。
「生まれは、四つ角公爵領3番街。執事学校は四つ角領直轄の学校を卒業して、その後は四元男爵家で執事見習いをしてーーあ、俺の実家はちょっとした日用品屋で男爵家に出入りしてたんでその縁でな。その後ちょっと視野を広げたくていろいろ考えてた所で、一条家の執事の話を小耳に挟んで今に至るって感じなんやけど。……なんや、面接みたいやったな」
一気に話し終えた光くんは、そう言って笑った。
「柚子面接なんてした事もないし、見た事もないから何だか感動したよ!」
思わず拍手をしてしまった。メイド学校を卒業する時も、五十嵐家に行く時も、一条家に戻る時も、私は少数派の既定路線で進路が決まっている人間だった。
いつかは、一条家のお屋敷に戻ってメイド長となったお姉ちゃんの補佐をしてーーそんな風に思い描いた未来だった。実際に今そうなって気づいた。私のこの先ってどうなるんだろう。お姉ちゃんは兼任で一乃瀬家のメイドもするし、ゆくゆくはどっちかを私がすることになるのだろうか。
いろいろな想像が頭の中を巡って、パンクしそうになった時に光くんの声が降り注いだ。
「俺はそんな感じ!柚子ちゃんは?」