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12.疑惑

 

「うわぁ!どれにしようか悩んじゃうなぁ~」




 とある休日。俺と柚子ちゃんはえらい雰囲気の良いケーキ屋にいた。キラキラと目を輝かせ、ショーケースの前でかれこれ10分程唸っている柚子ちゃんの横顔をボーッと眺めていると、ここにいるはずのない深雪さんの声が頭に響いた。




「なぁに望月、柚子ちゃんとデートなの~?良い店紹介するよ~」




 あれは遡ること2週間前。


 柚子ちゃんの気分転換を兼ねて休みの日に一緒に街へ出かけてくれないか、と立花さんに頼まれた時のことだ。


 分かりました、と俺が返事をするのと同時に突然現れた深雪さんは、最近流行ってるらしいよとこの店の名前を俺に告げた。




「ま、若い2人でごゆっくり~」




 俺の肩を叩き、ニヤニヤと笑う深雪さんを思い出してぶんぶんと頭を振る。


 深雪さんのことだ、いつもの軽口なのだからデートなんて言葉、変に気にしなければいい。それに俺はそんな邪な気持ちで今日この場に来たわけではない。街に来れば難航する人探しの情報収集もできるだろうと考えたし、仕事場ではない場所で落ち着いて話をすれば柚子ちゃんからも何か得られるのではないかと考えていた。




「こっちのもおいしそう!どうしよう!選べないよ~」




 思考を目の前の柚子ちゃんへと戻し、彼女が出来るだけ気分よくこの場で過ごせるよう口を開く。




「好きなん食べてええよ。俺が誘ったんやし。何ならシェアする?」




 俺の言葉にパァッと表情が一段明るくなる柚子ちゃん。




「いいの!?やったー!定番はやっぱりこれだよね、あとはどうしようかな~。光くんは?どれ食べたい?」




「うーん。こんなに種類があると悩むなぁ。」




 店員のお姉さんの生暖かい視線をむず痒く感じながら柚子ちゃんとショーケースを覗き込む。


 生まれ故郷には、こんなにたくさんの種類のケーキはなかった。そもそも甘いお菓子なんて、パーティーくらいでしかお目にかかれなかった。


 だから、どれがいい?なんて聞かれたら悩んでしまうのは当然のことだ。




「そうだよね!悩んじゃうよね!ケーキってこんなにたくさん種類があるんだね~。柚子、全然知らなかった!」




「え…」




 この国では、甘いお菓子は珍しいものではない。むしろこの大陸で1番甘いお菓子の文化が発達しているはずだ。それなのにこの国で生まれ育ってるはずの、まして食への興味が人の倍以上ある彼女が、街のケーキ屋の数十種類に驚いている…?


 ー何か、引っかかる。




「ねえ、光くん。このレアチーズケーキってなぁに?」




 ショーケースの中の一つを指差し、首を傾げる柚子ちゃん。


 他国出身の俺でさえも知っているそれを、何故知らない?




「んーと、焼いてない生のチーズケーキ…って言えばええんかな」




「へえ!チーズって焼かなくてもいいんだ!」




 おいしいですよと微笑む店員さんに、柚子ちゃんはじゃあそれとこれください!と元気よく注文をする。




 チーズを焼かない文化は、この辺では珍しくも何ともない。料理は結衣さん任せだったから知らないのか、いや、そんな訳ない。レアチーズケーキなんて、この辺では日常的に食べられているおやつのうちの一つだ。たまたま今まで食べたことがなかったのか、あるいは考えられる可能性としては…。




 ーなあ、柚子ちゃん。君の出身って本当にこの国なん?

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