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間話4 雪の味

 扉を開ける。

 

 薄暗い部屋の中のベッドの上で、シエラ様は静かに座っているのが見えた。

 足を組み、うつむき加減で座っている。

 肩が小刻みに震え、まるで隠すようにして手で顔を覆っているけれど、その手の隙間から溢れ出した涙が、静かに頬を伝って落ちていた。


 私はその姿を見ながら、部屋の扉の前でゆっくりと口を開いた。


「シエラ様、その……まず謝らせ――」

「やめて!!」


 突然の怒声に思わず息を呑んでしまった。

 もう一度、話しかけようとしたが。


「違う、フィオネは悪くない。全部、全部……私が悪いから……」


 顔を合わせず、目を伏せながらそう呟くご主人様。

 

「何が……ですか?」


 悪いのは私の方なのに……

 また魔物と同じように見てしまった事を謝りたいのに、それを許してくれないご主人様。


 疑問に思っていると、シエラ様は少しずつ、言葉を溢し始めた。


「知ってたの……フィオネの村に魔物が侵攻していること、その村の人達が何も出来ずに、死んでいくことも……私が行けばその人達はみんな助かってた」


 いつもと違って饒舌。

 

 私は黙って声に耳を傾けることにした。


「私が助けなかったから、フィオネがそうやって、魔物に怯えるようになったのは仕方ない、それが当然……なのに……でも、分かってても傷ついた……!」

「……はい」

「今も世界の終わりも、他の人達がみんな死んでしまうのもどうでもいいって思ってる、自分とフィオネさえ助かれば……こんなことを思ってるからフィオネが酷い目にあって、魔物に怯えるようになったのに……」

「…………」

「………………フィオネに怯えられて、今も心の何処かで悲しんでいる自分。でも、助けに行かなかった私が悪いとそれを諌めて、どうにか納得しようとしている自分……」


 どこから出したのか。

 シエラ様はサッと取り出したナイフに、魔力を込め、自身の胸を突き刺す構えを取った。


「もう……何も考えたくない……こんなに辛いなら、フィオネと出会わなければ――」


 そこから先は見過ごせない。


 刃が肌に触れる直前、私はベッドに上がり、走ってシエラ様に近づき、持ってた物を叩き落とした。


「ぁぁ……」


 ご主人様は遠くに飛ばしたナイフの方を、ぼ〜っと見ている。

 

「いっときの感情に委ねすぎです。私を絶望から救ってくれた人とは到底思えません」


 私は柔らかな頬に手のひらを添え、親指でそっと涙の跡を拭いながら、シエラ様の顔をゆっくりと自分の方向に引き寄せる。

 

「フィオネ……」

「シエラ様、一つ質問をさせてください」

「ん……」


 ご主人様は小さく頷いた。


 今から聞くことは、少し雰囲気に合ってないかもしれない。

 でも時間が無いのだから、ここではっきりさせておきたい。


「私のことは好きですか? 嫌いですか? それを教えてください」


 そう聞くと。

 

「……なんで今……?」


 恥ずかしそうに顔を横に向けようとした。

 でもそれを阻止して、両手で視線の先を固定する。

 

 これでもう私の顔を見つめる以外のことは出来ない。


「とても大事な事ですよ。今、そのお口から聞きたいんです」

「……ぅぅ…………」


 顔を赤くしながら目を瞑ってしまった。

 

 言えないなら仕方ない。


「では、そのまま目を瞑っていてください」


 体が震えているのを見ながら、私はゆっくりと腕を伸ばした。

 戸惑いがないように、そっと背中に手を回し、そのまま静かに抱き寄せる。

 ご主人様がほんの少し、体を預けるようにして力を抜いたように感じた。

 柔らかな髪が頬に触れる。


 私はシエラ様の背中を、ゆっくりとさすりながら言った。

 

「言葉、もしくは体でしっかりと気持ちを伝えるというのは、結構大事な事なんですよ」

「……フィオネの体、震えてる……」

「気づきました? 昨日の今日どころか、さっきの今ですからね。まだ体がちょっと怖がってるんです……」


 そう伝えるとシエラ様は目を開け、黙って私の肩に手を置いた。

 引き剥がすつもりなのだろう。

 

 まぁ、こんな言葉を口走ったら、そうしたくなるかもしれない。


 でも、そうはさせない。


 私は肩に置かれた手を払い落とした。


「シエラ様が言葉に出来ないなら、私が私の気持ちを、体で伝えます――受け取ってください」


 ご主人様の首に顔を近づけると、ほのかな体温と柔らかい香りが漂ってきた。

 

「……何を――ひゃっ!?」

 

 そっと唇を首筋に触れさせる。


「やめ――」

「本当にやめて欲しいなら、私のことを突き飛ばしてください。シエラ様ならそれが出来るはずです」


 そう耳元で低く囁いて、歯を立てた。

 

 柔らかい肌を押しのける感覚と、微かな抵抗。

 それは、温かさを直接取り込むような行為だった。

 

 短く、小さく声を漏らす音が耳元で聞こえる。

 

 そのまま離れず、私は歯を沈み込ませていった。




 ---




 

 歯をゆっくりと引き抜く。

 

 咬んでた時間は2分ほどくらいだろうか。

 ちょっと興が乗ったのもあって、長くやり過ぎてしまったかもしれない。

 

 シエラ様は突き飛ばすどころか、私の背中に手を回して、服をぎゅっと握っている。

 シワが出来てしまいそうだ。


「フィオネ……自分が何をしているか、理解してる?」

「逆にこっちが聞きたいくらいです。なんで素直にこの行為を受け入れたんですか?」


 これを受け入れたということは、上下関係が逆転したと言っても良い。

 この世界だとそれくらい、重要な意味合いがあったはず。


「それは……」

「それは?」


 そう聞き返すと背中から手が離れていく……

 

 と思いきや、更に強く抱きしめられてしまった。


「私も……私も好きだから……愛してるから……!」


 涙ながらに叫ぶシエラ様。

 シエラ様の肩に顔をそっと乗せ、同じくそれを返す。

 

「はい。その言葉を聞きたかったです」


 私は耳元で囁くように言葉を返した。


「だから……一緒に逃げよう? 私達だけなら……」

「そんな事をすれば、もっと自分のことを嫌いになっちゃいますよ。私も。きっとシエラ様自身も」


 それにご主人様は、ゼレシア様から逃げ切れるなんて考えていないはず。

 一回見ただけだけど、なんとなく分かる。

 あれは人の心と形を持った、全く別の生物だ。

 

「……分かりますか?まだ私は怖いんです。こんな事をしておいて言うのも何ですけど……」

「…………」

「だから忘れさせてください。もう私が怯えなくて済むように」

「え?」


 分かっている。

 最低なことだ。

 自分で出来ないからと、他人にそれを任せると言うのは、とても怠惰な話だと思う。

 でも、こうしないともっと悪い流れになってしまう。

 結局はお別れをしないといけない。


 ご主人様の柔らかい髪に指を滑らせながら、ゆっくりと声を落として話しかける。

 

「次にシエラ様を抱きしめた時、私が震えないよう」

「でも……」

「他人は関係ありません。シエラ様が愛している私のために戦ってください」


 こんなの口にするだけで、自分の事が嫌いになってくる。

 無力でどうしようもない自分が。

 でもそうするしかないのだから、仕方ない。

 

「…………」

「離れてる間や戦ってる時、そして他の人と会話している時も、ずっと私の事だけを考え、想い、行動するんです」


 私がそう囁くと、少しだけ何も反応がない時間が続いた。

 もしかたら怒ってしまったかもしれない。


 そう思って言葉を掛けようとすると――

 

「…………ずるい」

 

 シエラ様がそう言うと同時に、尻尾を動かし背中へ、優しくトントンするように触れてきた。


「なら最後に……フィオネのお願いを聞くんだから……私のお願いも……聞いて欲しい……」


 何故か恥じらうように言っている。

 理由が分からない。

 

「別に良いですよ。私に出来ることだったら、なんでも言ってください」

「…………おねがい」


 そう言いながら次は私の太ももに、尻尾を擦り付けてきた。

 具体的な内容を言わずに、小さな声で『お願い』をせがむシエラ様。

 何をして欲しいのかこっちから聞こうかと思ったけど、そうするのは良くないと直感が告げている。


 少ない時間の間に、頭を回して悩んでいると、ほんの少しだけ体を離され、そして顔を私の口元に寄せてきた。

 荒い息遣いが肌に触れる。


 いきなりの積極的行動で、少しだけドキドキしてしまう。

 そして緊張で息を呑んだ次の瞬間、シエラ様の舌が私の唇の端に触れた。

 

 どうやら付着していた血を、舐め取られたようだ。


「…………おね……がい……」


 分かった……ようやく理解した。

 うちのご主人様は口下手で、考えている事が分かりづらくて仕方ない。

 

「そんなに言うのが恥ずかしかったですか?」


 そう聞くとご主人様は静かに頷いた。


 ならそのお望みに応える他ない。

 こういう経験は今までした事がないので、上手く出来るか分からないけど。


 私はシエラ様の肩に両手を置き、自分の体重を押し付けるように、押し倒した。

 上から覆い被さる形である。


「え〜っと、か弱い人間に好き放題されるのが嫌になったら、言ってくださいね」

「言わない……言っても絶対に止めないで」

「ふふ……こんなお願いも中々無いですよ。では、私の体力が尽きるまで、お付き合いください」


 そして私はご主人様の体を徹底的にいじめ、貪り尽くす。

 止めるよう懇願されても当然無視。

 

 お互いの愛を確かめる行為は、次の日の昼まで続いた。

 

 


 ---




 何かに首元を触られる感覚がして、意識がぼんやりと浮上していく。

 重たい瞼をゆっくりと持ち上げると、天井の模様がぼやけた視界に、じわりと浮かんだ。


 いつの間にか寝てしまったみたいで、もうすっかり夕方である。

 

 重たい体を引きずるように、布団の中でゆっくりと横を向くと……


「あれ、起きてたんですか」

「……うん」


 シエラ様が同じ布団の中で、私のことをじっと見つめていた。

 昨日の夜に比べると、見違えて落ち着いているように見える。

 一度寝てすっきりしたのかもしれない。

 

「ごめん……」


 どうして謝ってるのか、寝起きの頭では理解出来なかったので、少し間を置いて視線を下に移し、首の違和感を確かめる。


 そこにはご主人様の尻尾があった。

 どうやら先に起きて暇だったから、私の首を弄ってたみたいだ。


 そしてこの一瞬の間では当然、謝罪の理由なんて思い当たらない。

 

「何についてか分かりませんが、謝ってるのを初めて見た気がします」


 そう言葉を返すと同時に、シエラ様から体を抱き寄せられる。

 肌に触れられた時に一瞬だけ、ぶるっと大きく震えてしまったけど、すぐに収まった。

 

 お互い服を着ていないので、直に温かさが伝わってくる。

 私も寝たおかげで、脳内がリラックスしているのかもしれない。

 昨日あれだけやった後でまだ震え続けたら、流石に落ち込ませてしまうかもしれないから……


「昨日は邪魔者が来て色々と私自身、おかしくなってた」

「まぁ、そうですね」

「あんまり怯えて無いけど、多分、酷いことも言った……と思う」

 

 確かに言ってた。

 でも、それは仕方のないことだと思うし、蒸し返す気にもならない。


「だから、その、ごめ――」


 ――――――ぐぅぅぅぅ〜…………


 静かな部屋の中。

 何かを言い切る前に突然、シエラ様のお腹から低い音が、周りに鳴り響いた。


 胸の中に埋めていた頭を離し、上を向いてシエラ様の顔を確認すると、耳の先から首元まで真っ赤になっていた。


「………………ごめん」

「恥ずかしがらなくて良いですよ。長いこと何も食べてなかったので、当たり前の生理現象です」


 思えば昨日の朝から、シエラ様は何も食べてなかったはず。

 これはもう気が回らなかった、私が悪いと言っても良い。


「リビングに行きましょう。一応、昨日作った物を冷凍してあるので、それと一緒に他にも何か作りますね」

「うん……」




 ---




 そうして私達がリビングに向かうと、何故か……


「遅いぞ、お前達。さっさと飯を作れ」


 ゼレシア様が机に肘を付いて、リラックスした様子で座っていた。


「えっと……」


 理解できない光景を目に、一瞬、思考がストップする。

 そして私はすぐにシエラ様の方に視線を移した。

 もしかしたら暴れ出すのではと、心配だったからだ。

 

 だけど少し表情がムッとなっただけ。

 

 私の心配は余計なお世話に終わったようだ。


「折角の楽しい時間が台無し、今すぐ消えて」


 シエラ様は機嫌が悪そうに呟いた。


 そしてそれを聞いたゼレシア様が、同じく表情をムッとさせると思いきや、

 眼を細め鼻で笑うような、どう見ても小馬鹿にしているようにしか見えない、挑発的な笑顔に変わった。


「シエラ、お前は妾の力を忘れている」

「お前のことなんて、頭の中に残して置くだけ無駄。忘れて当然」

「ふむ、それもそうか。ならこれを見ると良い」


 そう言って取り出したのは一つの丸い水晶。

 そしてその球体に片手で魔力を込め始めると、その瞬間、空間に淡い薄膜のようなスクリーンが浮かび上がり、微かに揺れる。


「何ですか、これ」

「フィオネと言ったか?お前の記憶風に言えば【てれび】と呼ぶ物に近いだろう」


 聞き覚えのある単語。

 なんでその名前が出てきたのか、質問をしたかったけど、何か映像が流れ出しそうだったので、それに注視することにした。


「私はお腹が空いた。邪魔だから消えて」

「そう急かすな、これを見ればその気も失せる」


 そうして、そこに映り出したのは……


「え!?」

「…………」


 昨日の夜に起こった情事。

 しかも私視点である。

 

「あ〜はっはっはっ!!!!シエラ、恥ずかしく無いのか?数百歳も歳下の人間に、良いようにされて!」


 ゼレシア様は映像を指差して、涙を流しながら大爆笑。

 シエラ様は立ったまま静止して動かない。

 

「ちょっと!なんてことしてるんですか!!!」


 私はそれを黙って見てられず、すぐに水晶を奪い取り、床に叩きつけた。

 そして動かないシエラ様に駆け寄り、体に触れると……地面に倒れ込んでしまった。


「おいおい。ショックで気絶するほどか、これ?」


 この人。

 本当に余計な事しかしない。

 時間が無いのでは無かったのだろうか?


「ゼレシア様、何しにきたんですか……本当に……」

「そんなの決まってるだろう。そこに寝っ転がってる馬鹿を迎えに来た」


 そう言われ、一瞬、喉が詰まるような感覚を覚える。

 離ればなれになる寂しさからの、ストレスかもしれない。

 

「もう出発するつもりなんですか?」

「そうだ。シエラが起き次第、すぐ国に帰らせてもらう」

「その、私も……」

「ダメだ。お前を連れて行くと毒にしかならない。個人的には研究対象として、持ち帰りたいところだが……」


 何とか連れて行ってもらえないかと思ったけど、やっぱり無理だった。

 それに個人的にとは……


「研究対象とはどういう意味ですか?」


 そう聞くと一瞬、悩んだような仕草をした後、ゆっくりと口を開き始めた。


「お前に話すだけ無駄な話だが、妾は人間族を自由に操れる。記憶を覗き見る力も、それに含まれた力の一つだ」

「は、はぁ……」


 う〜ん……

 この世界特有の魔術的な話を説明されても、あまりついていけない。

 この家に来てからまだ一年しか経ってないし、そこまで勉強できていない。


「だから無駄だと言ったんだ」

「すみません……」

「お前を連れて行きたいのは、穴の向こう側の知識を持っているのが理由の一つ。そして二つ目は妾の力が及ばない点だ」

「そ、そうですか……」


 そう返すと、昨日見た辛そうな表情を一瞬した……ように見える。


「……まぁいい、時間が惜しいからな。シエラをさっさと叩き起こさせてもらう」




 そしてご主人様が目を覚まし、夕食を3人で食べ、遠出する準備を終わらせた。

 シエラ様は今日出発と聞き、怒りを露わにしていたけど、ゼレシア様がとある話を持ち掛けると、これを喜んで了承した。

 


 

 ---




 玄関の扉を開けると、冷たい風がふわりと足元に吹きつけた。


「……じゃあ行ってくる、フィオネ」

「はい、行ってらっしゃいませ。シエラ様」


 ご主人様達は私をこの家に置いて、薄暗く雪が吹き荒れる中を歩いて行く。

 後ろ姿が少しずつ小さくなっていき、どれだけ目を凝らしても、これ以上は追えないほどに離れてしまった。


 胸の奥が妙に重たい。

 喉元が詰まるような感覚に耐えきれず、小さなため息を吐いた。


「…………寂しいです。シエラ様……」

 

 こんな事を口走っても、何の解決にもならない。

 心にぽっかりと空いた穴を埋めるものが見つからず、私は足元の真っ白な地面に、視線を落とすだけ……


 そう思っていたら、雪を散らす音が前方から聞こえてきた。

 私はすぐに前に視線を向けると――シエラ様が走ってこっちに戻ってきた。


 忘れ物でもしたのだろうか?

 それとも私も……


 シエラ様が目の前で立ち止まった。

 

「どうしましたか?何か忘れ物ですか?」


 そう聞いても何の返事もせず、黙って自分のマフラーを外し始めた。


「あの……?」

「忘れ物」


 顔を上げると、シエラ様が柔らかく、温かい布を私に巻いてくれる。

 抵抗する間もなく、布が首元を包み込み、温かさが広がった。


「これはシエラ様の物ですよ……?」


 出会った時から付けているマフラーである。

 

「うん。それの匂いを嗅いでみて」


 私は言われるがまま嗅いでみた。


 ご主人様の柔らかい体温が残ったような、自然と触れ合う匂い。

 それはシエラ様が放つ獣人らしい、力強さと優しさを併せ持った香りで、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「そのマフラーを見て、触れて、匂いを嗅いで……忘れないで欲しい」


 私はそれを聞いて、ふっと口元が緩んで無意識に笑みがこぼれた。

 

 この言葉。

 昨日言った内容にすごく似ている。

 

「……もしかして私の真似ですか?」

「うん。でも気持ちは真似じゃない。私自身の本心」


 真剣な顔で、そう告げるシエラ様。

 

「はい……ありがとうございます…………」


 思わず涙がこぼれてきた。


「私はシエラ様――貴女に出会えて、とても幸せです」


 雪の粒が顔にぽつぽつと当たって、そのひとつひとつがすぐに溶けて温かい水滴となり、頬を伝い落ちていった。

 その冷たさは一瞬で溶けてしまうけれど、同時に涙と混ざり、どこから来たのか分からないしっとりとした感情が胸を締め付ける。


「私も……」


 ふと、手が伸びてきて、あたたかい指先が頬を包み込んだ。

 その温もりが心地よくて、私は自然と目を閉じる。

 

 息が交じり合う距離。

 冷たい雪と共に舞い降りる空気を感じながら、優しく唇を重ねた。

 

 雪の冷たさが肌に伝わるけれど、それでもシエラ様との距離は、温かくて、どこか溶けていくような気がした。




 


 ---




 


「戻ってくるのがおせぇんだよ。馬鹿な事してる暇があったら結界を解いて転移できるようにしろ」

「マフラー渡したから、すごく……さむい……」

「お前さ、やっぱり馬鹿だろ……」

「うるさい」

 全部読んでもらえたようで感謝です。

 

 ここからは後書きです。

 かなりくだらない事や設定を、作者が書き殴るだけのコーナーです。

 興味のない方はブラウザバックをお願いします。




 設定についてその1

 シエラさんの身長設定を載せておきます。

 およそ170cmほどです。

 転生幼女の方は好きに解釈してください。

 

 その2

 そしてシエラさんがゼレシアに持ちかけられた好条件の話ですね。

 あれは本編中盤か後半に出るかもしれないですね。

 今投稿している本編の中にも、大きなヒントがあります。

 気づく人は気づくでしょう。


 その3

 この世界の獣人族では恋人同士の場合、最初に首に傷を付けた側が勝者となり、その家庭でのリーダー的立場になります。

 もっと簡単に言えば、某有名ラブコメ漫画の『恋愛は好きになった方が負け』なんて言葉に近いかもしれません。

 まぁ付けられた傷は生命力の高さ、魔力総量次第で、すぐに治ってしまうんですけどね。


 その4

 こっちの主人公は一応善性がかなり強いキャラとして作ったんですが、その手のキャラって私がかなり苦手なタイプなので、執筆スピードがありえないくらい落ちました。

 書くのが難しかったです。

 本編の主人公の方は悪性がある程度強いキャラなんですが、日本の教育と今までの出会いで、ギリギリ踏み止まっている状態を作っているとも言って良いでしょう。


 その5

 ゼレシアの内部設定について

 多分小説内でエピソードとしてとりあげない気がするので説明します。

 あの人は世界を守る為云々なんて口走ってますが、別に善人ではありません。色々と忙しすぎて脳が疲れきっている状態からの、あの発言です。平時なら絶対にあの発言はありません。

 それと発言の節々から、男の振る舞い方のように見えるかもしれませんが、私が気の強い女が好きなのであの感じになっただけです。

 参考キャラは某漫画の大魔法使い2人と、裏◯界ピ◯ニックの◯桜さんとその他色々ぶち込んでこうなりました。

 ゼレシアの中身は今まで書いてきた小説のどのキャラ達よりも先に、内部を作ったはずです。


 ちなみに邪神の使徒の方の主人公の性格は、完全に私の性癖によって作られています。

 生意気で照れ屋でツンツン、そして丁寧語で話し痛い目をみる女の子が好みです


 これであとがき終了です。

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