体験入学~学園への帰還~弍~
ここから一気に物語が進んでいきます。展開をお楽しみに。
夕方とはいえ日差しは強く烏に言われて木陰に移動していた。とっくに他の生徒達の姿は見えなくなっていた。時々ほどよい風が気持ちよく感じた。
「あのー、俺たち急いで学校に戻りたいのですが……」
柊真が烏に少し焦った様子で話しかけた。烏は少し遠くに見える山間を見つめ
「あぁ、その事なら心配しなくて良いぞ。わしがこの体験入学の責任者じゃからな」
昴達は、
「えっ」
と少し仰け反るような形でびっくりしていた。
「本校には既に連絡しといたから、しばらく時間を貰うぞ」
烏の言うことを信用して良いのか頭を悩ませたが、美穂のグループでも烏がいたそうなので、恐らく学園に飼われているのだと思っていた。
「まぁ、この姿もなんじゃ」
烏は、左右の羽を重ねると一瞬で人間くらいの大きさに変身したのだか、足元は丈の高い下駄を履き、背中に大きく黒い羽根が生えていた。
頭部は人の顔の形に天に向けて伸びる大きな鼻と烏の嘴が印象的で身体全体は、服を着てはいるが赤黒い肌が印象的だった。
「自己紹介が遅れたなわしは烏天狗の服部半蔵じゃ」
昴は烏が変身したのに驚いたが、もちろん他の3人も驚いたがそれよりも名前に驚いた。昴以外の3人は、膝まづいて頭を深々下げた。昴だけは、何が何だか分からず立ち尽くしていた。
「ほらっ、昴あんた何してるのすぐ頭下げなさい」
この学園に入学しようとするものの中で、この名前を聞いて驚かないのは昴くらいだろう。入学しても卒業まで姿を見ないで卒業するものも多数いるくらいの忍びの世界の大重鎮だった。
「あぁよいよい、皆普通にしておれ」
柊真達3人は、目を合わせると言われるがまままに立ち上がった。
「さて幻十郎の孫の昴だったかの、忍の力使いたくはないか」
昴は、立ち尽くしていたが、
「えっ、俺にもあの力使えるのか」
「忍の力は、誰でも使えるものではない特別な力なのだが、忍びの家系であれば遺伝されている」
「おっ俺に使えるなら俺も使いたい」
昴は、唇を噛み締め右手に強い握り拳を作っていた。今までなら忍者の真似事ぐらいしか思っていなかったが、体力測定の中で常任離れした力を目の当たりにしたのだから馬鹿にすることは出来なかった。
「お主達も一緒に協力してもらえるかな。」
と柊真達に協力の要請をした。もちろん3人は、異議なしと頷いた。そもそも忍者とは忍びの事をさし、現代でいうスパイのような仕事が主で忍びとして専属で働けるのは、一部だけで多くの者は、様々な職業の中で生計を立て支援要請があればそれぞれの分野で情報収集などを行うのが主な仕事だったらしい。
スパイに近い仕事だったため、忍び同士でも知らないものは多く。専属の忍びからの要請で動くのがほとんどで、ただ時には協力体制で他の忍びと繋がりを持つこともあったそうだ。
もちろん命懸けの仕事も多く、仕事を遂行させるために得意な武具を発展させ身体能力を極めていった。
忍びとして専属で行動するものは、様々な分野での仲間を広め、またそれらの人々をサポートするのも仕事の一環でもあった。
サポート体制をしやすくために設けられた村が有名だと伊賀と甲賀であった。伊賀と甲賀と聞くとライバルの様な印象を持つものも多いと思うが、実際は組織が違うだけで敵対していた訳ではなく、むしろ忍び同士協力体制を築くこともあった。
「説明は、入学した後の授業で詳しく説明をするが忍の力を使うためには、心・技・体のコントロールが絶対的に必要なのじゃ。本来なら長い修行の中でコントロールを学んでいくものだが、時間が無いからの。手っ取り早く行くぞ」
半蔵は、握手をするように右手をさし出した。昴は、一度唾を飲み込むと恐る恐る右手を差し出す。少し背中に暑さだけではなく他の理由でじわりと汗をかいていた。
「よいか、今から忍の力をお主に送るから実際に、忍の力がどういうものか全身で感じとってみよ」
半蔵は、目を瞑り軽く深呼吸すると精神統一をはじめた。すると半蔵の周りに赤いオーラのようなものがうっすらと見え始めた。
「では、行くぞ。今からお主に送るからな」
昴は不安と期待と緊張で身体が膠着状態でかろうじて頷くのが精一杯だった。
半蔵を包んでいた赤いオーラが右手を通じて昴の身体に移動してきた。昴は最初こそ緊張していたが赤いオーラに少しずつ身体を包まれると何か優しい気持ちを感じどことなくほっとする気持ちを感じていた。
半蔵がゆっくりと右手を離すと赤いオーラは昴を優しく包んでいた。
昴は左右の手のひらを広げて指先までしっかり包んでくれる感覚だった。
「どうじゃ、これが忍の力じゃ。体全体でしっかり感じるんじゃ」
しばらくすると昴を包んでいた忍の力が消えていった。
いかがだったでしょうか。ただ先に断っておくと、実際の忍者の歴史などとは、異なってる部分もあるだろうと思うのでそこはご理解いただけるとありがたいです。