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冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜  作者: 拝詩ルルー
第五章 聖女昇格試験

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暴動2

「あれ!? ウィリアムさんに、クロエさん!?」


 暴動があった次の日の早朝、俺とグラントさんは父上の執務室に呼び出された。

 執務室には、久々に会う顔があって、俺は思わず声をあげた。


「ご無沙汰してます、ノアさん」


 ウィリアムさんは、どこか不機嫌そうな渋い表情で挨拶を返してくれた。


 ウィリアムさんは、教皇専属の聖騎士だ。細身で背が高く、癖の強い短い銀髪をしている。

 また教皇猊下から離れているということは、教会上層部からの命令で、来てるのかな?


「ノアさん、久しぶり。元気そうだね。昨日は大活躍だったって聞いたよ?」


 クロエさんが、ニコッと笑顔で挨拶してくれた。


 クロエさんは本部の教皇直属の上級神官だ。かなり背の低い女性神官で、カールの入った柔らかそうな金髪に、パッチリと大きな青銅色の瞳をしている。少年のような少女のような中性的な雰囲気で、笑顔になると、子供のように愛らしい感じになる。


「ウィリアムはライオネルの専属護衛だろう? あの子を放っぽってこんな所に来るなんて、仕方がない子だねぇ……」


 応接スペースのソファには、フェリクス大司教が座っていた。少し困ったように、微かに微笑んでいる。


 フェリクス大司教が座るソファの後ろには、かなり大柄の専属護衛の聖騎士が、呆れが入ったしぶ面で、ウィリアムさんの方を見ていた。


「わが君の一大事ですから。もちろん、何を手放しても駆け付けますよ!」


 ウィリアムさんは急にキリッとした表情になると、ハキハキと返答した。


()()ちゃんと本部から派遣されて来ましたよ!」


 一方で、クロエさんは、胸を張って堂々と主張していた。


「……まるで私が許可なくここにいるみたいな感じで言わないでください」

「だって事実そうじゃん」


 ウィリアムさんは苦々しく呟いて、じろりとクロエさんを見下ろした。

 それに対し、クロエさんもいけしゃあしゃあと答える。


 執務机には、この部屋の主である父上──クラーク司教が座っていた。

 ほんのりと気まずそうな苦笑いを浮かべて、みんなのやり取りの様子をうかがっていた。


「それで、今回私たちが呼ばれたのは?」


 グラントさんが冷静に、父上に尋ねた。


「その話なんだが、魅了の香の犯人を確保したんだ。本部から助っ人で来ていたテイマーの聖騎士と月光狼が捕まえてくれたそうだ」

「「!?」」


 父上からの説明に、俺とグラントさんは息を飲んだ。


「二人には、魅了の香関係でかなり手伝ってもらったからな。一応報告しておこうと思ったんだ」

「……そうなると、解毒薬と中和の香作りは……?」

「まだ中毒を起こしてる者がいるからな、解毒薬作りは続けてもらいたい。中和の香の方は、今ある材料を使い切ったら、これ以上は必要ない」

「そうですか」


 父上からの説明に、グラントさんはこくりと頷いた。


「それで、犯人は……?」


 俺は思い切って質問した。一体誰がこんなことを仕出かしたんだ?


「主犯はこれから聞き出すところだよ。そのために私が呼ばれたんだ」


 父上の代わりに、クロエさんが答えてくれた。

 主犯がいるってことは、犯人が何人もいるってことだ──でも、これだけ大規模な暴動を起こしたんだから、犯人が一人というわけでもないだろう。


「実行犯は確保したが、まだ全容がつかめていない。今伝えられることはここまでだな」


 父上は申し訳なさそうにしつつも、キッパリと言われた。


「そうですか……」


 俺はこれには頷くしかなかった。


 犯人が誰か教えてもらえなかったのは残念だけど、まだ調査中みたいだし、結構なおおごとだったから、言えないことも多いだろう。

 とにかく、今は犯人が捕まって、これ以上被害が広まらないのが先決だからな。

 事件の全容が分かってくれば、伝えられることは発表されるとは思うし……


「それから昨日は、聖女昇格試験の二次試験の方でも襲撃事件が起こった」

「「エェッ!!?」」


 俺とグラントさんは、驚きすぎてやけに大きな声が出た。


 昨日の二次試験といったら、リリアンとエラが参加したやつだ!

 襲撃事件だなんて……!

 もっと早くに教えてくれれば良かったのに!!


 俺たちも昨日は教会が大変なことになって、ものすごく大忙しだった。二次試験の方にまで全く気が回っていなかったことが、ひどく悔やまれた。


「それで! リリアンとエラは!? 無事だったんですか!?」


 俺は、思わず父上の執務机の方に上半身を乗り上げた。


 グラントさんが、俺の肩を掴んで「まぁ、落ち着け」と揺さぶってきた。


「コールマン伯爵令嬢とキャンベル子爵令嬢は無事だ。だが、討伐した魔物のサンドワームの部位が、聖女見習いが詰めていたテントに激突してな……かなりショックを受けているようだった……」


 父上が、とても言いづらそうに説明してくれた。


「魔物……サンドワーム……」


 サンドワームといえば、Bランクの凶暴な魔物だ。ドラゴニア王国では、砂漠型フィールドのあるダンジョンにしか生息してなくて、王都近郊にはいないはずなのに、どうして……?


 一気に指先が冷え込んで、サーッと血の気が引いていくのが自分でも分かった。それに、急に膝に力が入らなくなって、真っ直ぐ立っているのも少し辛くなった。


「……二人は、今は……?」

「二人だけでなく、昨日二次試験に参加した聖女見習いたちは、帰る家があれば、一旦帰宅を許可している。急な襲撃で、みんなショックを受けていたからな。彼女たちが落ち着くまでは、聖女昇格試験はしばらく延期する予定だ」

「……そう、ですか……」


 父上から説明されたけど、俺はまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。


「その、俺がリリアンたちの見舞いに行っても……?」


 解毒薬は昨日の騒動でもう在庫は空っぽになってしまったし、頭では、今日は解毒薬を作らなきゃダメだって、分かってる。

 でも、リリアンたちの無事を確かめないと、気が休まらないというか、解毒薬作りに集中できないというか……!

 とにかく、居ても立っても居られないんだ!!


「そう言うだろうと思って、コールマン家には本日の見舞いの申し込みをしている。ノアは婚約者だしな、少し顔を出してやって欲しい」

「!? ありがとうございます!!!」


 俺は反射的にお礼を言っていた。

 直接リリアンの無事を確かめたいって思いが強かった。


「グラントも、キャンベル家のご令嬢の元に見舞いに行くといい」

「……ですが、解毒薬作りの方は?」

「見舞いは一日がかりというわけではないだろう。戻って来てくれてからでかまわない」

「分かりました。ありがとうございます」


 父上の指示に、グラントさんは胸元に手を当てて、丁寧な教会式の礼の姿勢をとった。



***



 グラントとノアが執務室を出て行くと、不意にフェリクスが質問をした。


「おや? 主犯の目星はついてるんだろう?」

「それどころか、本部の別働部隊がすでに拘束してます。主犯はウィンザー司教とその一味。ウィンザー司教の三女から情報提供があり、ずっと監視してましたからね」


 クロエが、とぼけた感じでペロリと小さな舌を出した。


「面倒なことに、ウィンザー司教とその一味は、自分たちの配下だけでなく、元レスタリア領主の息がかかった神官と聖女を手駒に使ってくれたみたいでして。彼らは、ドラゴニア王国中の教会に散らばってましたからね。おかげで、今回の魅了の香を使った暴動も、全国規模で起こしてくれましたよ。本部の諜報部隊は人手が足らなすぎて、大忙しですよ」


 ウィリアムが、やれやれと肩をすくめた。


「そうなんですよ! 人手不足の中、いちいち各支部に赴いて事情聴取するの、大変なんですよ! 実行犯たちも、魅了の香を使ってるうちに、中毒を起こしちゃって、自分たちが何をやってるんだか、どんどんわけが分からなくなってきちゃってたみたいですし!」


 クロエが、幼子が拗ねるようにムスッと頬を膨らませた。


「ただ、癒しの精霊女王の協力が得られたことは、大きかったですね」

「そうだねぇ。彼女は聖者のノア君のことをずいぶん気に入ってるようだし、手伝ってくれてかなり助かったよ。彼女が解毒薬と中和の香のレシピを考案してくれたから、思いの外、早くに暴動をおさめることができたしね」


 ウィリアムが口にすると、フェリクスがのほほんと相槌を打った。


「それで、どうされますか?」


 誰からともなくその質問が部屋の中に落とされた瞬間、ガラリとその場の雰囲気が変わった。

 手の内の獲物をどうしてくれようかと舌なめずりしているのに、主人から待てを言い渡されて我慢している飢えた狼のような、爛々と狂気をはらんだ瞳が、フェリクスに集中した。


「…………」


 オリヴァーは一人無言のまま、私は関係ありませんと言いたげに、素知らぬふりを通していた。


「うん? 教会での事情聴取が終われば、王国側に引き渡せばいいんじゃないかな? ドラゴニア王国では、魅了の香は所持が禁止されていただろう? 人間のことは人間に任せるべきだよ」


 フェリクスは穏やかな微笑みのまま、淡々と答えた。


「フェリクス様はそれでよろしいので?」


 ウィリアムが質問した。彼の藍色の瞳には、どこか納得がいっていないような不満が見え隠れしていた。まるで縄張りを荒らされて、イライラしている獣のような気配だった。


「そうだね。主犯格の彼らは、人間としてその枠組みの中で生きてるからね。今回も教会という一つの小さな社会を変えようとしただけだろう? だからね、負けた彼らは、人間的に社会から報いを受けるべきだと思うよ」


 フェリクスは「我々が手を下すようなものでもないよ」とあっさりと答えた。


 フェリクスの決断に、それまで部屋の中にはびこっていた異様な雰囲気は、スッと波が引くように消えていった。


 オリヴァーは微かに身震いしつつも、嵐がすぎ去るのを待つように、ただただなりゆきを眺めるだけだった。




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