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冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜  作者: 拝詩ルルー
第五章 聖女昇格試験

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暴動1

 今日は聖女昇格試験の二次試験の日だ。


 今日も俺はユーフォリア様とグラントさんと一緒に、昨日と同じ倉庫にこもって、解毒薬と中和の香を作っていた。


 この倉庫は教会の敷地内でも端の方にあるし、滅多に他の職員も訪れない──他のことを気にせずに、集中して何か作業するにはぴったりな場所だ。


 今日も午前中は俺が解毒薬作り、グラントさんが中和の香作りを担当していた。


 みんなで作業に集中していると、倉庫内の玉型の精霊たちが急に騒ぎ始めた。緑や青、黄色の光が、忙しなくチカチカと明滅している。


 異様な光景に、俺とグラントさんが作業の手を止めて戸惑っていると、


「えっ!? なんですって!?」


 いきなりユーフォリア様が声をあげた。


 ユーフォリア様の周りには、特に緑色の癒しの精霊たちが取り巻いていて、何かを伝えようと忙しなく宙をぐるぐると飛び回っていた。


「グラント君、ノア君! 急いでありったけの中和の香を持って行くわよ! 今、教会内で暴動が起きてるみたいなの!」

「「ええっ!!?」」


 今度はグラントさんと俺が驚く番だった。



***



 俺たちがいた倉庫に一番近い執務棟の方に近づくと、辺りにはやけに甘ったるい匂いが充満していた。


「ゔっ、なんだ、この匂い……!」


 俺は反射的に自分の鼻と口を手で塞いだ。

 以前ウィンザー司教が放ってた匂いと一緒だけど、それよりも何倍も濃い感じだ。


 吐き気をもよおしそうな程に甘ったるい匂いの中、執務棟の建物からは、たくさんの人の怒号や叫び声が聞こえてきた。


「ノア君! これは魅了の香の香りよ! 今は我慢して中和の香を焚いて!」


 ユーフォリア様は軽く注意すると、真っ先に執務棟の中に突入して行った──癒しの精霊女王様だから、魅了の香は効かないのかもしれない。


 俺は口の中で「はい」と返事をすると、息を止めた。

 持ち運び用の香炉にありったけの中和の香をぶっ込んで、着火の魔道具で火をつける。もくもくと白い煙が、香炉に空いた隙間から立ち上がってきた。


「ノア! 俺は聖堂の方に行く! あっちも同じ状況らしい!」


 グラントさんは、口と鼻をハンカチで隠していた。手には、俺と同じようにもくもくと白い煙を上げる香炉を掲げていた。


 グラントさんの周りには玉型の癒しの精霊が何個か飛んでいて、どうやら向こうの状況を教えてくれたみたいだ。


「分かりました! 俺は執務棟の方を中和します!」

「頼んだぞ!!」


 俺が叫んで返事をすると、グラントさんは聖堂の方へ駆け出して行った。


 俺は神官服のポケットからハンカチを取り出して口と鼻を押さえると、執務棟の裏口から突入した。


 廊下には何人も倒れていて、「う~ん……」とか「ゔぅっ……」とか微かにうめき声をあげていた。


 俺が、彼らを助け起こした方がいいのか一瞬迷っていると、


「ノア君、こっちよ! その人たちは私が解毒したから、放っておいても大丈夫よ!」


 廊下の奥から、ユーフォリア様の声が聞こえてきた。


 俺は「すみません、置いていきます」と心の中で謝りつつ、廊下の奥へと向かった。



 奥の方に進むと、倒れている人の数がどんどん増えていった。


 どうやらユーフォリア様は、暴れ回ったり叫んだりしている人たちの間の中にどんどん入って行って、手当たり次第に触ってるみたいだった──手で一瞬触れるだけで、解毒ができてしまうなんて、さすが癒しの精霊女王様だ!


 奥の大部屋からは、特に濃厚で甘ったるい匂いが漏れ出ていた。扉についている小窓が割られていて、そこから廊下側に漏れているようだった。


 大部屋の扉の前に群がってる人たちは、俺が近づいて中和の香の煙を浴びせると、ぼーっとなって動きもかなり緩やかになった。


「この扉の奥に匂いの元があるわね」


 ユーフォリア様は、周りの人たちを手当たり次第にタッチしながら言った。


「行くわよ?」


 ユーフォリア様に目線で同意を求められ、俺はこくりと頷いた。


「うっ。何よコレ? 全然扉が開かないじゃない! もしかして、中から鍵がかかってるの!?」


 ユーフォリア様が、ドアノブを握って力任せに押したり引いたりしたけど、扉はびくとも動かなかった。


「代わります」


 俺はできるだけ煙を吸わないように、小声で伝えた。

 香炉をユーフォリア様に手渡す。


 バキッ!!

 バタンッ!!!


 俺は力一杯ドアノブを回して、扉を蹴破った。扉は、大部屋の中に勢いよく倒れ込んだ。


 俺はスキル「怪力」の持ち主だから、ちょっと鍵がかかったぐらいの扉なら、無理やりにだけど開けられる。

 扉を壊しちゃったことは……今は非常時だから、許してもらおう!!


「よくやったわ!」


 ユーフォリア様が、俺の肩をポンッと叩いた。

 スッと体から何か嫌なものが抜けていく感覚がした──これが、ユーフォリア様の癒しの力か!?


 俺は中和の香のすぐそばにいたのに、それでも毒素は溜まってたみたいだ。


 大部屋は、執務棟でもメインの事務局で、事務方のデスクがいくつも置いてある。

 そのデスクのいくつかに、大きな香炉が置かれていた。


 さらには、何人も事務方の神官たちが、部屋の中で倒れていた。


「ノア君、私は魅了の香を消すから、どんどん窓を開けて! 香の煙を外に出すのよ!」


 ユーフォリア様は真っ先に、魅了の香を放つ香炉の元に駆け寄って行った。


 俺は窓の方に近づくと、次々と窓を全開にしていった。

 開けた窓からブワッと勢いよく風が入ってきたと思ったら、窓の外には緑や黄色をした玉型の風の精霊たちが、ふよふよ浮かんでいた。どうやら俺たちのことを手伝ってくれるらしい。


 俺が全部の窓を開け放った時には、大部屋の中の空気はすっかり入れ替わっていた。ユーフォリア様も魅了の香を全部消して、倒れてる人たちの治療に当たっていた。


「……彼らは、特に濃い香の香りを嗅いでしまったから、中毒症状を起こしてしまってるみたいなの」


 俺が近くに行くと、ユーフォリア様が説明してくれた。


「治療の方は私に任せて。ノア君は他の建物の方の中和をお願い」

「分かりました」


 俺が頷くと、ユーフォリア様の周りにいた玉型の精霊たちが、俺の周りをくるくると飛び回り始めた。


「案内はその子たちがしてくれるわ。さぁ、行って」

「はい!」


 緑色に瞬く精霊たちは、一斉に大部屋の出口の方に飛んで行った。

 俺も中和の香炉を持って、走り出す。


 その後も俺は、精霊たちに導かれるままに教会中を駆けずり回って、蔓延していた魅了の香を中和していった。

 グラントさんとも協力して教会中の中和が終わる頃には、すでに正午を超えていた。


 中和を終えたら、今度は中毒症状を起こした人たちの看病だ。


 医務室は運び込まれてきた体調不良の職員たちでパンパンで、廊下の方にまで人が溢れていた。

 俺たちは、今度は医務室の方を手伝うことにした。


「解毒薬です。これをしっかり飲んでください」

「ゔぅっ……」


 俺とグラントさんは、昨日大量に作った解毒薬を倉庫から持って来て、具合の悪い人たちにどんどん飲ませていった。

 たまたま暴動に巻き込まれずに無事だった職員たちにも応援をお願いして、解毒薬を配ったり飲ませてもらったりした。


 特に酷い中毒症状を起こしてた人たちには、ユーフォリア様がこっそり治療を施していた。介抱するふりをして彼らの体に触ることで、さりげなく解毒していたみたいだった。



「……これは、一体どういうことだ……?」

「父上!?」


 昼過ぎには、聖女昇格試験の方に出ていた父上が戻って来た。


 医務室どころか、廊下にまで寝転がる体調の悪そうな職員たちを見て、父上は愕然とした表情をしていた。


「……何が起こったのか、説明してくれないか?」


 父上はまだ信じられないといった震えるような声で、尋ねてきた。


「それについては、私から説明するわ。あなたたちは、医務室の方の手伝いをお願い」


 ユーフォリア様に指示され、俺とグラントさんは頷いた。


 ユーフォリア様と父上は場所を変えるみたいで、医務室から出て行った。



 その日は夜遅くまで、俺もグラントさんも医務室の方を手伝った。

 ユーフォリア様と父上の話はかなり長引いたみたいで、俺たちが詳しい説明を受けたのは、次の日のことだった──




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