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冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜  作者: 拝詩ルルー
第五章 聖女昇格試験

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二次試験

 聖属性の大司教フェリクスと癒し属性の大司教ユリシーズは、馬車で聖女昇格試験の会場に向かっていた。


 フェリクスは、銀髪に深い黄金色の瞳をした男性だ。聖鳳教会が神の使者と崇める不死鳥のように優美な雰囲気のおじさまだ。


 ユリシーズは、中性的な風貌の若い男性だ。緑色の長い髪を三つ編みにして前側に流し、淡い黄色の瞳は柔らかく細められていた。


 二人ともいつもの大司教の豪奢な衣装ではなく、野外で歩きづらくないよう簡易な詰襟の神官服姿だった。


 二人の大司教は、伴に専属護衛の聖騎士を一人連れているのみだった。

 彼はグレー色の短髪をした大男で、鋭い三白眼はアメジストのように濃い紫色をしていた。


「ユリシーズと聖女昇格試験を見学するのは、いつぶりだろうねぇ?」

「かれこれ十年ぶりになるかと思います」

「おや? もうそんなに経ったのかい? 時の流れは早いねぇ」

「そうですねぇ」


 大司教二人は、和やかに会話をしていた。

 ゴトゴトと、リズム良く馬車が進んで行く。


「それにしても、野外で二次試験とは珍しいね。いつもは治癒院の方で行っていなかったかい?」

「最近あった臨時の司教会議で、急に決まったそうです。聖女昇格試験も間近に迫っていたため、今回はテスト運営ということで、王都とベラン支部が選ばれたそうですよ」

「ほう、そうだったのかい」


 ユリシーズの説明に、フェリクスが相槌を打った。



 聖女昇格試験の一次試験は、ポーションの制作試験だ。教会内にある薬草園から薬草を採取するところから始まり、実際に完成させるところまでが含まれる。

 薬草の取り扱いや魔力の込め方など、教会指定の水準を満たしているかどうか、細い点をチェックされる厳しめの試験だ。ポーションは、最低三種類は制作する。


 二次試験は、癒し魔術の力量の確認だ。治癒院を訪れた患者に、怪我の具合に合わせて癒し魔術を施す試験となっている。

 普段真面目に治癒院での業務をこなしていれば、特段難しくはない試験となっている。


 三次試験は、面接だ。シンプルに、聖鳳教会の構成員として相応しい人柄かどうかが評価される。

 よほどの性格破綻者か、教会やそのメンバーや信徒に危害を加える危険性がある者などでなければ、たいていは合格できる試験となっている。



「魔物を用意したり、聖騎士も駆り出したりして、あまり効率的でないとは思うけどねぇ」


 フェリクスが、率直な感想を漏らした。


「そうですね。癒し魔術の力量だけでなく、聖女見習いたちの後方支援での腕前も一緒に見ることができる、とのことですが……」


 ユリシーズも同じように思っているのか、苦笑していた。


「まぁ、ものは試しだからねぇ」


 フェニックスもほろ苦く微笑む。



 聖女昇格試験の二次試験会場は、王都ガシュラの郊外にある森だ。

 森の前の広場には、いくつも簡易テントが張られ、すでに教会関係者や受験生の聖女見習いたち、二次試験に同行する聖騎士たちが集まっていた。


 フェリクスたちが馬車から降りると、試験の運営係が慌ただしく動き始めた。

 見学に来ていた司教や他支部の神官たちもすぐに席を立ち、胸元に片手を当て、頭を下げて教会式の礼の姿勢をとった。


 聖騎士たちも武器の点検などの作業の手を止め、その場でスッと背筋を伸ばし、教会式の礼をする。


 聖女見習いたちは試験ということもあったが、いきなりあらわれた大司教たちを見て、さらに焦りや緊張の表情を深めていた。


「試験という割には、ずいぶん気配が多いね」


 集合場所のテントへと向かっている途中、フェリクスがぽつりと呟いた。


「フェリクス様?」


 不意に立ち止まったフェリクスを、ユリシーズが不思議そうに振り返った。


「うん、行こうか」


 フェリクスは特段気にした様子もなく、また歩き始めた。


「うん、みんな楽にしてくれていいよ」


 テントに近づくと、フェリクスが穏やかに声をかけた。


 礼をしていた者たちは、緊張した面持ちで頭を上げた。


「フェリクス大司教、ユリシーズ大司教。どうぞこちらの席に」


 癒し属性の神官が前に歩み出て、二人の案内をし始めた。


「うん、行こうか」


 フェリクスもユリシーズも、素直に彼のあとについて行く。


 二人が案内された席は、森から一番近いテントだった。

 広めにスペースが取られたテント内には、ぽつんと椅子が二脚、並んで用意されていた。


「こちらが、今回の受験生の名簿です。全部で十五名です」

「ありがとう」


 案内した神官は、フェリクスとユリシーズが席に落ち着くと、名簿を手渡した。


「ふぅん。コールマン伯爵令嬢、ウィンザー伯爵令嬢、キャンベル子爵令嬢……今回は結構、貴族家の令嬢が多いね。こんな危険な場所に連れ出して、大丈夫なのかい?」


 フェリクスは受験者のリストにざっと目を通すと、名簿を渡してきた神官に尋ねた。


「いつも以上に聖騎士を多めに配備しておりますので、ご心配はいりません」


 神官はキッパリと言い切った。


「グワアァァアァッ!!!」


──その時、メリメリと森の木々をなぎ倒し、突如、森から巨大なサンドワームが出現した。

 建物さえひと飲みにしてしまいそうなほど大きな口をぱっくり開けて、大司教たち目掛けて突進して来る。


「う、うわぁぁあっ!!!」


 フェリクスたちを案内していた神官は、その場で腰を抜かし、絶叫した。ほっこりと股から湯気が上がる。


「おや? 召喚みたいだね。アルバン?」


 目前に迫ったサンドワームをものともせず、フェリクスが穏やかに口にした。


「はっ」


 専属護衛の聖騎士アルバンは小さく返事をすると、三人の前に躍り出た。

 腰に佩いていた剣をスラリと抜き、サンドワームに向けてひと薙ぎする。


 その瞬間、凄まじい剣圧とともに、サンドワームは真ん中から真っ二つに割れた。

 左右に分かれたサンドワームは、勢い余って片側が聖女見習いがいるテントに突っ込んでいく。


「きゃーーーっ!!!」

「いやぁああっ!!!」


 からりと晴れた秋空の下、聖女見習いたちの悲鳴がこだました。


「いけない!」


 ユリシーズはガタッと音を立てて席を立つと、すぐさまテントの方へ駆け寄った。


「アルバンは術者を追って。救助は僕が行くよ」

「はっ」


 アルバンはフェリクスの命令に一つ頷くと、次の瞬間にはその場から消えていた。



 サンドワームは、テントの周りに張ってあった簡易結界を突き破り、激突していた。ブヨブヨの厚すぎる皮膚は、完全にテントを覆い隠していた。

 時折、微かに「ゔっ……」とうめくような声が漏れ聞こえてくる。


「少し離れて。サンドワームを灰にするから」


 フェリクスはテントの前に出ると、どこからかパッと杖を取り出した。杖の先に取り付けられた青銀色の魔石から、サンドワームの亡き骸に向けて青白い炎を放つ。


 轟轟と天まで届く青白い炎の竜巻が立ち上がり、サンドワームは一瞬にして全てが灰となった──不思議なことに、サンドワーム以外は何一つ燃えてはいなかった。


 その場にいた誰も彼もが呆気に取られ、その場で固まったまま様子を見続けていた。


「うん。これで救助が楽になるはずだよ」


 フェリクスが、まるで何事もなかったかのように穏やかに口にした。


「掘り起こせ!」

「一人でも多く助けるんだ!」

「癒しの神官と聖女は治療を!」


 フェリクスの言葉でスイッチが入ったかのように、その場にいた聖騎士、神官、司教たちはハッと正気に戻った。サンドワームの灰の山に飛び込み、掘り起こし、聖女見習いたちの救助を慌てて始めた。



 幸いなことに死者は出なかったものの、負傷者が続出し、聖女昇格試験は延期することとなった。




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