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冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜  作者: 拝詩ルルー
第五章 聖女昇格試験

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臨時司教会議

 その日、ジョン・ウィンザーの呼びかけで、臨時の司教会議が開かれた。場所は、ウィンザーが司教を務める王国中西部にある教会だ。


 急な集まりということもあり、司教のうちの半数と少ししか、その日は集まらなかった。


 会議室内には甘い香りが立ち込め、冬場ということで、窓は閉め切りにされていた。


 召集時刻を過ぎると、ウィンザーが声を張り上げた。


「これから臨時司教会議を始める。本日は忙しい中、集まっていただき感謝する」


 参加者たちは、司会を務めるウィンザーの方に、のっそりと顔を向けた。

 午後の会議ということもあり、誰も彼もが瞼をとろんとさせて、室内にはどこか寝ぼけたような雰囲気が漂っていた。


 ウィンザーが、朗々と手元の資料を読み上げていく。


「私が今日、みなさんをここへ呼んだのは他でもない──聖女昇格試験、それも実技の二次試験について疑問を持っていたからです」


 ウィンザーは、試験内容が長年同じでマンネリ化していること、最近は聖騎士の結界張りなどの遠征に、聖女や癒し属性の神官が借り出されることが多く、野外での実践的な治療が求められていることなど、問題点をあげていった。


 参加者たちのほとんどは、ぼーっとした雰囲気でウィンザーの方を見ていた。


「それで、私は是非とも二次試験の内容の改善を提案したい。より聖女の実務に即した試験内容に変更すべきであると」


 ウィンザーが熱弁を振るう。


「ほう。それは、どういった内容になるのでしょうか?」


 ウィンザーから少し離れた位置に座る、気難しそうな顔の男が尋ねた。


「サリス司教、そうですな。二次試験会場を、通例の治癒院ではなく、聖騎士とチームを組み、野外で行ってみてはどうかと考えております」


 ウィンザーの回答に、司教たちがにわかにざわついた。


「野外ということは、魔物も出るのだろう? 聖女見習いの中には貴族の子女もいるし、安全面は大丈夫なのか?」


 一人の髪の薄い司教が、軽く挙手して質問した。


「そこは聖騎士とチームを組ませますので、彼らに守らせれば問題はないかと」


 ウィンザーが軽く回答を返す。


「野外に出たからといって、そう都合よく魔物に出くわすわけでも、怪我をするわけでもないだろう? そうなれば、試験自体が難しいのではないか?」


 たっぷりとヒゲを蓄えた司教も、疑問を投げかける。


「召喚などで適当に低級魔物を用意しておけば、十分でしょう。それに試験では、聖女見習いたちの治癒力だけでなく、野外での立ち回りなどの対応力も審査対象に入れる予定です。今まで取りこぼしてきた『治癒力は低めだが、いざという時に対応できる聖女見習い』にも、チャンスを与えることができます」


 ウィンザーの「将来有望な人材を、冒険者ギルドに取られずにすみますよ?」との言葉に、質問をした司教も「ううむ……」と唸った。


「次の聖女昇格試験は、もう一ヶ月切っているぞ。さすがに次の試験予定を今から変更するのは難しいのではないか?」


 サリスが懐疑的に首を傾げる。


「そうですな、聖騎士や魔物の準備もありますから、難しいでしょうな」


 ウィンザーは一旦相槌を打ち、さらに言葉を続けた。


「ですから、次の聖女昇格試験では、数ヶ所に会場を絞って、試験導入してみてはどうかと考えてます。新しい試みゆえ、テスト運営も必要でしょう? 今回のテストで出てきた問題点と改善点を踏まえて、他の試験会場にも採用するかどうか考えればいい」


「なるほど? それで、試験導入する場所はもう決まっておいでですか?」


 サリスがさらに追求する。


「そうですな、まずは提案者である私が司教を務めるこのベラン支部と、大司教が見学なさるという王都のガシュラ支部で実施される聖女昇格試験でテストを行えれば十分でしょう」


 ウィンザーがそう締め括ると、また少しざわざわと司教たちが騒がしくなった。


 ある者は考え込むように眉根をしかめ、軽く首を捻る。またある者は隣に座る者と「会場を限定しての試験導入というのであれば、試してみる価値はあるか」などと軽く話し合う。


──だが、ほとんどの参加者は、心ここに在らずといった様子で、ぼーっとどこかを見ていたり、寝ぼけたような表情で微かに揺れているだけだった。


「今回の案に賛成の者は、挙手を」


 ウィンザーが口を開くと、その場にいた全員が、ゆるゆると手をあげた。


 ウィンザーは一瞬、ニヤリとほくそ笑んだ。


「素晴らしい! この場にいた全員が賛成とは! これでこの案は可決だな! すぐに本部に案をまとめて提出しよう」


 ウィンザーは満面の笑みを浮かべると、会議室の端で書記をしていた者たちに目配せをした。


 司教の権限の範囲内に限定されるが、ドラゴニア王国内の半数以上の司教の賛成が得られれば、その案はドラゴニア王国内の教会でのみ採用することができる、という決まりになっている。


 書記たちは無言で小さく頷くと、書類と議事録をどんどんと整えていった。


「そうだ。最後に、今日この場に参加いただいたみなさんには、お願いがあります」

「…………」


 ウィンザーはやけに得意げな表情で、さらにあることを会議に参加した司教たちに伝えた。


 その場にいた誰も彼もが、ただ静かにそれを聞いていた。



***



 臨時司教会議が終わると、参加者たちは会議室をぞろぞろと出ていった──ただその様子は、ゾンビの行進のような、どこかぼーっとした異様な空気が漂っていた。


 会議室の窓は換気のためか、全て開け放たれていた。


「とんだ狸芝居だったな。それにあの香はかなりキツいな。解毒薬を飲んでいても、かなりくるものがある……」


 サリスがすれ違いざまに、ウィンザーに小声で告げた。


 ウィンザーのでっぷりと出っ張った腹に、丸く垂れた目は、「まさに」としか言いようのない風貌だ──サリス自身も、彼に騙されているのではないかと、訝しげに眉をひそめている。


「面倒なことだが、本部に提出するには、会議で話し合った証拠が必要だからな。それに、司教の中には、この手のものに耐性がある者もいるからな。念には念を入れて、いつもよりも濃いめに焚いておいた。……まぁ、ともかく、これで準備はできたな」


 ウィンザーが満足そうにタプンと顎を撫でて言うと、彼の後ろにいた取り巻きたちもうんうんと相槌を打った──髪の薄い男と、ヒゲの男だ。


「次は王都のクラーク司教(エスケープ・ゴート)に話をつけに行かないとな。奴には諸々かぶってもらわなければならん」


 ウィンザーは、あえてクラークの都合の悪い日に臨時司教会議を開いていた。今日の会議の場で、王都のガシュラ支部を預かるクラークから反対意見を出されて、王都での聖女昇格試験でのテスト運用ができなくなっても困るからだ。

 臨時司教会議の場で正式に承認されてしまえば、クラークでも拒否するにはそれなりの理由が必要になってくるだろう。


 ウィンザーがグフグフと下卑た笑い声をあげると、後ろの取り巻きたちも似たような汚い笑い声をあげた。


 サリスは冷めた表情で、そんな彼らを見つめていた。




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