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冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜  作者: 拝詩ルルー
第五章 聖女昇格試験

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聖女昇格試験

 俺はノア・クラーク。聖鳳教会の聖者で、中級神官でもある。


 その日、同じチームのリリアンとエラと一緒に、職員用の食堂で昼食をとった。

 昼食後の休憩時間に、珍しく二人がノートを取り出して、熱心に読んでいた。


「何それ? 二人とも勉強してるなんて、珍しいね」

「これはポーションの調薬レシピのノートよ」


 俺が尋ねると、エラが答えてくれた。


 エラは、背が低くて小柄で、リスみたいな小動物系の可愛らしい女の子だ。ココアブラウンのウェーブが入った柔らかそうな髪に、好奇心が強そうなペリドット色の瞳をしている。


「今度、聖女昇格試験があるから、復習しているのよ」

「聖女昇格試験???」


 リリアンに言われて、俺は思わず訊き返した。


 リリアンは俺の婚約者で、凛とした雰囲気のお嬢様だ。長くて淡い金髪は清楚にハーフアップにまとめていて、以前プレゼントした魔石付きのバレッタで留めている。ラベンダー色のツンと目尻の上がった瞳は、今は真剣にノートに向けられていた。


「おっ。もうそんな時期か」


 グラントさんが、食後のコーヒー片手にやって来た。俺の隣の席に腰掛ける。


 グラントさんは、俺たちのチームを監督する上級神官だ。緑色の髪をサッパリと短髪にしていて、笑顔が爽やかな頼れる兄貴分だ。


「グラントさん、聖女昇格試験って何ですか?」


 俺はグラントさんに尋ねた。リリアンとエラは勉強に集中してるから、あまり邪魔しない方が良さそうだしな。


「聖女昇格試験っていうのはな、聖女見習いから、正式な聖女になるために合格しなければならない試験なんだ」


 グラントさんが、丁寧に説明をしてくれた。


 聖女と聖騎士は、聖鳳教会では花形の役職だ。

 信徒や一般の人たちから憧れや尊敬の眼差しを向けられることが多いし、そういった人たちから声をかけられることも多い──いわゆる、「教会の顔」みたいなものらしい。


 聖女と聖騎士は、教会外の人たちから注目されやすい分、教会からそれに見合った実力や品性を要求されている──聖女や聖騎士の実力が足りてなかったり、信徒や一般の人たちを不当に扱ったりしてガッカリさせてしまうようなことがあれば、教会全体の評判に響きやすいからだ。


 そういった評判の失墜を防ぐため、聖女や聖騎士になりたい者には、特に厳しい昇格試験が課されているらしい。


「聖女昇格試験は、三次試験まであるのよ。一次がポーション作りの実技で、二次が治癒や解毒の実技。それから三次には面接まであるんだから!」


 エラが、ノートに突っ伏して嘆いた。

 その隣の席に座っているリリアンが、エラの背中を労うように撫でている。


「そ、それは大変だ……!」


 俺は中途採用だったから、そういった試験は全部すっ飛ばして、いきなり中級神官になった。

 その分、実務で覚えることは多かったけど、冒険者の治癒師をしていたから、それなりの社会経験はあったし、回復魔術も特に問題はなかった。


 聖女昇格試験みたいに、そんなにいろいろ試験を受けていたら、今みたいに中級神官になれていたかは、俺でもよく分からない。


「あ。だから最近、ちょっと教会内がちょっとピリピリしてるのか」


 俺は、ここ最近、若い女の子たちが教会内でちょっとした小競り合いや言い合いをしているのを、何度か見かけていた。

 そういえば、その子たちはほとんどが聖女見習いだったような……


「そうね。試験が近づいてるから、みんな心に余裕がなくなってきてるのよね……」


 リリアンが少し困ったように、あいまいに微笑んだ。


「よしっ! 俺、リリアンとエラを応援するよ! ……って言っても、俺は何をしたらいいか分からないから、何か困ったことや手伝えることがあったら言ってくれ!」


 俺はドンッと自分の胸を拳で叩いた。


 リリアンとエラの仕事っぷりは普段から見てるし、こんなにも頑張ってるんだから、是非とも合格してもらいたい!


「ノア、助かるわ」

「分かったわ。よろしくね!」


 リリアンとエラが笑顔で言ってくれた。



***



 その日の夕方、業務後にたまたま父上──ガシュラ支部の責任者、オリヴァー・クラーク司教と廊下ですれ違った。

 ちょうど、グラントさんと一緒に宿舎に戻ろうとしていた時だった。


「ノア、このあと少しいいか?」

「父上、もちろんです」

「グラント君も一緒にだ」

「分かりました」


 俺たちは、父上の執務室に呼ばれた。


 話があるなんて、一体なんだろう?

 チーム全体で呼ばれたわけじゃないから、何か遠征や出張が絡むような任務ではなさそうだけど……


 俺とグラントさんは、二人して並んで応接スペースのソファに座った。

 向かいには、父上がソファに腰掛けている。


 全員が落ち着いたのを確認すると、父上が口を開いた。


「一ヶ月後に、聖女昇格試験があることは知っているか?」

「今日、ちょうどリリアンとエラと一緒に話しましたよ。それがどうかしたんですか?」

「ああ、そうか。彼女たちも今回の試験を受けるのか……一ヶ月後の試験にな、本部からフェリクス大司教が見学にいらっしゃることになったんだ」


「フェリクス大司教!」

「フェリクス大司教?」


 グラントさんと俺の声が綺麗に重なった。

 でも、グラントさんのは、かなり驚いたような声のトーンだった。


「フェリクス大司教は、聖属性のトップの方だ! 教会上層部から一目置かれている、とても偉い方だぞ!」


 グラントさんが慌てて説明してくれた。

 父上もゆっくり頷いて、同意している。


「せっかくの機会だから、ノア。フェリクス大司教に一度ご挨拶しておこうか。聖者という立場的に、これからも顔を合わせることがあるだろう」

「そうですね……」


 そんなに偉い方が、教会本部からいらっしゃるのか。想像しただけでも、緊張して少しドキドキしてきた。


「それから、フェリクス大司教が来られるということで、ユリシーズ大司教も一緒に聖女昇格試験を見学されることになった。ただ、どの試験に立ち会われるかは、まだ決まっていないらしい」


 父上の説明に、グラントさんも俺も「「おお……」」と小さく唸った。


 大司教が二人も揃うなんて、滅多にないことだ。

 しかも、二人とも聖女昇格試験を見学されるんだよな……俺だったら、そんな偉い方たちに見学されるなんて知ったら、緊張してぶっ倒れそうだけど……



 グラントさんと俺は、「まだこのことは内密にしておいて欲しい」と父上から言われ、執務室を出た。


「グラントさん、大変なことになりましたね……」

「そうだな。リリアンとエラには絶対に言うなよ? 今から変にプレッシャーをかけても仕方ないからな」

「分かりました」


 俺はグラントさんの言いつけに、素直に頷いた。

 二人の試験を応援するって決めた以上、余計なストレスはかけたくなかったしな。




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