土砂崩れ1
ランサルド支部を訪れた翌日には、また俺たちは次の慰問先へと向かった。
転移魔術のスクロールがあるから、移動は一瞬だ。
ウォーグラフト領の領都であるランサルド支部の教会が一番規模が大きくて、他の支部は規模が小さかった。
ただ規模は違えど、どこも似たような状況だった。
治癒魔術が使える教会職員の人数に比べて、怪我人の方が圧倒的に多かった。
治癒魔術が使える神官や聖女たちは皆、連日、治癒魔術をかけ続けているせいか、疲れが溜まっているようで、俺たちが治療の手伝いを申し出ると、とても喜んでくれた。
物資の不足や復興の人手が足りてないことは、むしろ小さな村や街の方が深刻だった。
そんな時は、俺たちと一緒にやって来た護衛の聖騎士たちが一役買ってくれた。
俺の護衛業務が無い時は、積極的に物資を配る手伝いをしたり、現地の村人たちに混じって瓦礫をどかす作業を手伝ったりして活躍してくれた。
ただでさえ護衛業務もあるのに、その合間にお手伝いもしてるからな。よく体力が持つなぁ〜と、俺はものすごく感心していた。
ランサルド支部を出た後、二つほど支部を周り、最後に俺たちが訪れたのは、エルツ村にある支部だった。
エルツ村は、山の麓にある鉱山の村だ。
聖鳳教会エルツ支部の癒しの神官や聖女は優秀な方が多いみたいで、怪我人の治療はほとんど終わっていた。ただ──
「えっ!? 隣町との道が土砂崩れで通れなくなってるんですか!?」
俺はびっくりして、思わず聞き返してしまった。
エルツ支部の神官と聖女が、深刻そうな表情で頷いた。
司教様もたまたま隣町に用事で行ったきり、戻れていないらしい。
「……グラントさん……」
俺は確認するように、グラントさんの方を見上げた。
グラントさんは、今回の慰問チームのリーダー役も務めている。
そんなグラントさんでも、難しい顔をしていた。
「……そうですね、治療の方はほとんど終わっているようですし、私たちは道の復興の方をお手伝いしましょうか? おそらく人手が足りてないですよね?」
グラントさんは少し考え込んだ後、質問をした。
「そうなんです! 土砂崩れが何ヶ所かあるようで、人手はいくらあっても足りない状態なんです!」
エルツ支部の神官も、激しく頷いた。
「それに、物資の方は大丈夫ですか? 道が塞がれてるということは、いろいろと足りない物も出てきているでしょう?」
「そうですね……」
「追加で物資をお願いできないか、本部に確認してみましょうか?」
「あぁ、ありがとうございます……!」
グラントさんの言葉に、エルツ支部の聖女様が感極まって泣き出してしまった。
エルツ村の状態から、急遽、慰問チームの男性陣は、治療の方ではなくて土砂の撤去作業を手伝うことになった。
リリアンとエラは、持って来た支援物資を配ったり、追加でどんな物資が必要か確認することになった。
村で土砂をどかすための道具を借りて、俺たちは撤去作業に向かう準備を始めた。
「ノアさん、ノアさん」
「? 何でしょう?」
不意に、俺はウィリアムさんに、肩を指先でトントンと叩かれた。振り返って、ウィリアムさんを見上げる。
「もしかしたら、彼が使えるかもしれませんよ」
「彼???」
俺は「彼」の見当がつかなくて、首を捻った。
「すっかり忘れちゃってますね、ガラガルディアのことですよ」
「えっ、ガンちゃん!? ……でも、ガンちゃんで土砂の撤去作業って……できるんでしょうか??」
「ハンマーですし、一応できるとは思いますよ? まぁ、本人に確認しないと分かりませんが」
「う〜ん……」
確かに、ガンちゃんは巨大なロックリザードもバンバンぶっ飛ばしてたしな。土砂だってぶっ飛ばせるかもしれない……
俺は少し不安に思いながらも、土砂の撤去作業を向かう人たちについて行った。
***
「……本当にすごいことになってますね……」
現場に着くと、俺は思わず声を失った。
道を挟んで右手側には山の斜面があり、左手側は崖になっている。そして、道は土砂で完全に埋まってしまっていた。
俺たちが到着するまでに、先に作業をしていた人たちのおかげで土砂の一部は取り除かれているけど、それでもまだ道は開通してなかったし、まだまだ先は長そうだった。
「これじゃあ開通までにしばらくかかりそうだな……」
護衛の聖騎士の一人が、渋い表情で呟いた。
「ノアさん、とりあえずガラガルディアを出して聞いてみては?」
「……そうですね」
ウィリアムさんに急かされて、俺はしぶしぶ空間収納の中に手を突っ込んだ。
空間収納の中身のほとんどはガンちゃんが占めてるから、一発で固く冷たい金属に手が当たる。
俺はガンちゃんの持ち手を持って、勢い良く引っ張り出した。
『いやっほぉーーーーいっ!!! やぁ〜っと俺様の出番かぁ!!?』
おっさん臭いダミ声が、脳内に直接大音量で響き渡る。
あまりの五月蠅さに、全く関係なかったけど、思わず自分の耳を手で塞いでしまっていた。
中身は完全なるおっさんだけど、ガンちゃんは見た目だけはめちゃくちゃカッコいい。
俺も知らない綺麗な白銀色の謎の金属製で、ハンマーの頭部分には、両側面に真っ赤な魔石が嵌め込まれてる。まるでドワーフの職人に彫られたみたいな複雑な紋様も彫り込まれていて、まさに「特別な聖武器」といった見た目だ。
俺がいきなりでっかいハンマーを取り出したから、それまで作業してた村の人たちや、一緒にやって来た護衛の聖騎士たちまでも、ポカーンと口を開けて驚いていた。
『やっと素振りする気になったか?』
「今日は素振りじゃないよ。これ見てよ、コレ!」
俺はガンちゃんに話しかけながら、とりあえずハンマーを土砂崩れで塞がった道の方に向けた。ガンちゃんってどこに目があるか分かんないから、こうするしかなかった。
『あ゛あん?』
ガンちゃんが、たぶん自分で見やすい角度になろうとして、揺れる──本当に、どこに目がついてるんだか……
『おぉっ! これはもしや、俺様の大活躍のチャンスか!?』
「おっと!」
ガンちゃんが嬉しそうに跳ね上がろうとした。
俺はガンちゃんを落とさないように、慌てて持ち手を掴み直した。
「ガンちゃん、この土砂って吹き飛ばせそうかな?」
『おうっ! このぐらい朝飯前よ! あれから全然素振りされてねぇが、しょうがねぇ奴だなぁ〜、大技を教えてやるよ!』
俺が確認すると、ガンちゃんは少し勿体ぶりながらも快諾してくれた。
「やった!」
俺が喜んでると、不意に肩を叩かれた。
振り向くと、ウィリアムさんがやけに穏やかな笑顔を浮かべていた。
「ノアさん。今のあなたは少し不審者ですよ。ガラガルディアの念話は、他の人には聞こえてませんからね」
「あっ!」
ウィリアムさんにやんわりと言われて、俺は一気に頬が熱くなった。
さりげな〜く周囲の人の様子を確認してみると、変なものを見るような目で見られていた。
ゔぅっ、もっと早くに注意してくれれば良かったのに……!
俺はものすごく恥ずかしくて気まずかったけど、周囲の視線は気づかないフリをして、ガンちゃんに大技を教えてもらうことにした。




