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冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜  作者: 拝詩ルルー
第四章 ウォーグラフト領

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慰問

 挨拶が終わると、俺たちは早速ランケ司教に治癒院の方に案内された。


 アンボス支部の治癒院は、二階建ての大きな建物だ。

 一階には治療所や職員の控室があって、二階には病室があるらしい。


 病室の方に入ると、患者さん用のベッドは既にいっぱいいっぱいで、床にまでシーツや毛布を敷いて寝転がったり、治療を受けている患者さんがいた。


 王都の治癒院では見たことのないあまりに痛ましい状況に、俺は声も出せなかった。


「治癒院の方は、特に重症の患者さんを受け入れております。聖堂の方には、軽傷者向けの臨時の治療所を開いています。これでも、まだ落ち着いた方ではありますが……」


 ランケ司教が、悲痛な表情を浮かべて説明してくれた。


 どうやら、アンボスの街の近くを大きな川が流れているため、長雨で浸水した家や畑が多く、被害も大きかったそうだ。


 あまりにも怪我人が多く、アンボス支部の神官や聖女も人数が限られているため、なかなか全員に治療を施せていない状況らしい。


 俺は、患者さんがいる部屋の真ん中あたりまで進んで行った。


 たぶんこの部屋の中までなら、俺のエリアヒールが届く範囲だと思う。


 俺が魔力を練り始めると、グラントさんが気づいたようで、俺に近づかないように周りの人たちを誘導してくれた。


 床の上に、この部屋いっぱいに大きな魔術陣が現れ、緑色の光を放ち始めた。


 治癒院内は、急に現れた魔術陣に少しざわついたけど、それもだんだんと固唾を呑んで見守るように静かになっていった。


「エリアヒール!」


 俺が呪文を唱えると、一際強く緑色の光が魔術陣から放たれて、この部屋の中一面が緑色に包まれた。


「おっと、大丈夫ですか?」


 ふらついて倒れそうになった俺を、ウィリアムさんがすぐに受け止めてくれた。


 やっぱり、エリアヒールはかなり魔力を消費するな。魔力切れで一気に体が怠くなって、こめかみの辺りがズキズキと痛んできた。


「い、痛くない!」

「治った、のか……?」

「骨折したはずの腕が、動くぞ!」


 患者さんたちは皆、目を丸くして、怪我してた部分をさすったり、身体を動かして本当に治っているかどうか確認していた。一瞬で治ってしまったから、びっくりしたのかもしれない。


 付き添いに来てた人たちも、患者さんが治って「良かった!」「助かった!」と感動したり、盛大に喜んでくれたりしていた。


「これ程広い範囲のエリアヒールを……それに、こんなにたくさんの患者さんを一度に癒せるなんて……これが聖者様……」


 ランケ司教も、あんぐりと大きく口を開けて驚いていた。


「ノア! 魔力回復ポーションだ! これ飲んで少し休んどけ!」


 グラントさんが、慌てて魔力回復ポーションを持って来てくれた。ポーションの瓶の蓋を空けて、手渡してくれる。


「ぷは~! ありがとうございます!」


 俺はゴクゴクと一気に飲み干した。

 魔力切れのせいか、ポーションは大しておいしいものでもないけど、ぐいぐい飲めた。


「今日はまだ初日だぞ。あまり無茶はするなよ」

「あはは、すみません……」


 グラントさんにピシャリと言われ、俺は笑って誤魔化した。


 でも、苦しんでる患者さんや、この治癒院で働く神官や聖女たちの疲れきった様子を見ていたら、何とかしなきゃって思えてきて……気付いたら体の方が動いてた。


「あまりにも怪我の具合が重い患者さんは、今のエリアヒールでは治りきらなかった可能性があります。きちんと治っているか、チェックをお願いします」

「「「「「「はい!」」」」」」


 グラントさんが俺の代わりに、アンボス支部の神官や聖女たちに指示を出してくれた。


 彼らは手分けして患者さんに声をかけて、手慣れたように怪我の治り具合を確かめていった。


「聖者様をどこかで休ませたいのですが」


 ウィリアムさんが、ランケ司教に確認してくれた。


「おお! そうですね、失礼しました。あのような大魔術を使われた後では、さぞお疲れでしょう。教会職員の控え室にご案内しましょう」


 ランケ司教は、すぐに俺たちを奥の部屋に案内してくれた。


 奥の控え室は職員用の休憩スポットみたいで、広い木製テーブルと椅子が何脚か置かれていた。壁際には横長のベンチも二台あって、小さめの毛布が放り投げられたように置かれていた。


 全体的に物が少なくて整ってはいるけど、アンボス支部の職員は本当に忙しいみたいで、テーブルの上にはほぼ手付かずの差し入れのサンドイッチがそのままになっていた。


「お見苦しい場所で申し訳ないのですが、他の場所は患者さんか避難されて来た方でいっぱいでして……」

「いえ、こちらで大丈夫です。少し休ませていただいたら、またお手伝いさせてください」


 ランケ司教の非常に申し訳なさそうな様子に、俺は首を横に振った。


 あれだけたくさんの患者さんたちの対応をしていたら、自分たちのことはどうしても疎かになってしまうはずだ。

 労う言葉はかけられても、批難なんてできないよ。


 その時、リリアンが「あの、すみません」とランケ司教に声をかけた。


「まだ聖堂の方にも、患者さんがいらっしゃるんですよね? 私たちにも手伝わせてください」


 リリアンが提案すると、彼女の後ろでエラも大きく頷いていた。


「よ、よろしいのですか?」


 ランケ司教が目を丸くした。


 リリアンたちは俺のサポートだから、てっきりこのまま俺と一緒にこの部屋で待機するのかと思われてたのかな?


「もちろんです。私たちはまだ聖女見習いですが、治癒魔術を使えますし、何かしらお手伝いができるかと」

「それでは是非、お願いします。臨時の治療所の方にご案内します」


 リリアンとエラはランケ司教に連れられて、控え室を出て行った。


 三人が控え室を出て行くと、一気に部屋の中は静かになった。


 王都から一緒にやって来た聖騎士たちは、支援物資を運んだり、配る手伝いの方に駆り出されたらしい。俺の護衛は、今はウィリアムさんだけが付いている。


 光属性のドワーフ神官たちも、俺の挨拶が終わった後は、部品や工具類を持ってさっさと街の方へと行ってしまった。今頃、魔道電灯の修繕の手伝いをしてるのかも……


「少し眠りますか? あれ程のエリアヒールを放てば、結構負担が大きかったでしょう。私が見張りしてますよ」

「うっ、お願いできますか?」

「ええ」


 俺はウィリアムさんの言葉に甘えて、少しだけ目をつむることにした。


 魔力回復ポーションで魔力自体は回復できたけど、魔術って連発したり大きい魔術を使うと、やけに疲れるんだよな。気力とかも消費されてんのかな?


 俺は「少しだけ」と思って目をつむったけど、いつの間にか眠りに落ちていた。




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