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冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜  作者: 拝詩ルルー
第四章 ウォーグラフト領

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ウォーグラフト領へ

 ウォーグラフト領は、王都の東側に隣接する領だ。武器・防具の生産が盛んで、工房街が多い。工房が多いということは、物作り大好きなドワーフ族の住民が多くて、陽気だけど血の気も多い領民性だ。


 今回の慰問に向かうのは、俺と同じチームのグラントさん、リリアン、エラの他にはウィリアムさんと護衛の聖騎士数名。そしてなぜか、光属性の神官のドワーフが数名だ。


 ドワーフ神官たちは、何やら工具類や部品が入った木箱をいくつも運んでいた。

 子供のように低い身長でも、頭や肩の上に荷物入りの大きな木箱を軽々と乗せて、悠々と運んでいる。ドワーフ族は怪力が多いって聞くけど、実際に見るとかなり迫力がある。


「あの方たちって……」


 俺は不思議に思って、隣にいたグラントさんに確認した。


「ああ、彼らは魔道電灯の技師たちだな。ウォーグラフト領には魔道電灯が導入されている街が多いんだが、水害の影響で大規模な修繕が必要になったらしい。現地の光属性の神官だけじゃ手が回らなくて、王都からも応援を出すみたいだ。今回のスクロールの出来が良くて、想定以上に荷物を運べるって分かったから、急遽、一緒に行くことになったんだ」


「ヘぇ~。そうだったんですね」


 魔道電灯は、光の魔石を使って明かりを灯す便利な魔道具だ。

 教会が取り扱っているものは特に大規模で、主に貴族や大商人の邸宅、大きな都市の街頭なんかに導入されている。


 一般の魔道具師が作った家庭用の小型の魔道電灯なんてのも出回ってるけど、教会で製作されたものの方が頭一つ飛び抜けて質が良いらしい。



「準備も整ったようですし、そろそろ出発ですかね?」


 ウィリアムさんが、集合場所に集まったメンバーや支援物資の量を見て、確認してきた。


 そしてなぜか、グラントさんが俺の左手を、ウィリアムさんが俺の右手の握った。


「え? 何ですか、コレ??」


 俺はいきなりのことに戸惑って、尋ねた。交互に見上げると、二人とも何とも微妙な表情をしていた。


「前回はノアの単独行動で、あんなことになっちまったからな。リーダー責任として、スクロールでの移動中はノアを捕まえておくようにって、クラーク司教から言われてるんだ」


 グラントさんがどこか気まずそうな、なんとも言えない表情で教えてくれた。


「私も仕事でなければ、男性と手を繋ぎたいとは思いません」


 ウィリアムさんも、どこか死んだ魚のような遠い目をして淡々と答えてくれた。


 そんなに俺と手を繋ぐのが嫌なら、リリアンの方が……


「ちなみに、リリアンさんとエラさんでは、もしノアさんが飛ばされてピンチなったとしてもカバーしきれないと判断されたため、残念ながら我々がこうすることになりました」


 ウィリアムさんが、まるで先読みしてきたかのようにピシャリと断言した。


……ですよね……

 俺も「そうだろうな」とは薄々勘付いてた。


「準備はいいですか? そろそろ行きますよ?」


 護衛の聖騎士の一人が、転移魔術のスクロールを握って確認してきた。


 俺たちは無言のまま頷いた。


 護衛の聖騎士は、全員の確認が取れると、スクロールを留めている紐を引っ張って、さらりと開いた。支援物資や荷物を含めた俺たち全員の足元に、巨大な魔術陣が現れる。


「おぉ……!」

「すごいな!」


 誰ともなく、驚きの声が漏れる。


 俺も、スクロールでこんなに巨大で複雑な魔術陣を見たのは初めてだった。


 眩しすぎる魔術の光に、俺は目をつむった。



***



 次に目を開けると、俺たちはどこかの教会の聖堂前に転移していた。


 白壁の聖堂の窓には、青を基調としたステンドグラスがはめられ、聖鳳教会を表す白と青の旗が風にはためいていた──ここが、聖鳳教会アンボス支部みたいだ。


 聖堂とは反対側の方を振り向くと、そこにはたくさんの人々が集まっていた。たぶん、ざっと百人以上はいたと思う。

 住民らしき人もいれば、俺たちと同じ神官服や聖女の制服を着ている人たちもいた。


「わーっ!」

「聖者様ぁ~!」

「ようこそ!!」


 突然転移して来た俺たちを、大人から子供まで大きく手を振り、笑顔と歓声で迎えてくれていた。


「聖者様御一行でしょうか?」


 父上と同じ司教服をまとった中年の男性が尋ねてきた。金髪をきっちりと一本に結んでいて、淡い緑色の瞳をしている。穏やかな笑みを浮かべていた。

 集まっている人たちの前に立っているといことは、偉い立場の人だろう。


「アンボス支部のランケ司教だな」


 グラントさんが、こっそり教えてくれた。


 グラントさんとウィリアムさんに揃って背中を押され、俺は前に歩み出た。


 毎週の特別治癒の日のおかげで、人前に出ることには慣れてきていたけど、こういう全く馴染みのない場所でたくさんの人に囲まれたり、偉い人の前に出るのは、やっぱりまだまだ緊張する。ドキドキと、心臓がけたたましく鳴っていた。


 俺は一呼吸整えると、ぐっと口角を上げた。そして、準備していた言葉を口にした。


「私が聖者のノア・クラークです。ウォーグラフト領の皆様のあたたかい歓迎に、心より感謝いたします」


 俺は片手を胸に当て、ゆっくりと頭を下げた──教会式の礼の姿勢だ。グラントさんに、きちんと綺麗な礼ができるように、みっちりしごかれたやつだ。


「聖鳳教会アンボス支部を預かっているエミール・ランケです。お会いできて光栄です、聖者様。そして、同朋の皆様も。王都より応援に来てくださり、心よりお礼申し上げます」


 ランケ司教が挨拶をしてくれた。胸元に片手を当て、ゆったりと頭を下げる。


 俺はランケ司教と一緒に、聖堂前に集まっている人々の方へと向き直った。


「今回の水害で被災された方々には、心よりお悔やみを申し上げます。そして、被災された方々を支え、励ましてくださった同朋にも心より感謝いたします。ささやかですが、教会本部より皆様の役に立ちそうな物をお持ちしました。皆様がまた安心して暮らしていけるよう、また、少しでも早く元の生活に戻れるように、私たちに、聖鳳教会にできることでしたら、何なりとお手伝いさせてください。皆様に聖神アウロンのご加護がありますように」


 俺の挨拶が終わると、聖堂前があたたかい拍手で包まれた。


 アンボス支部の神官や聖女たちは、少し涙ぐんでいた。鼻をすすったり、目元を指先で拭ったり、ハンカチで押さえている人もチラホラ見えた。


 きちんと挨拶を終えられたことと、たくさんの人に好意的に受け取ってもらえたことで、俺の心はほこほこと温かくなっていた。自然と笑みが溢れる。


 神官になってから、実は今までまともに聖鳳教会の神様の名前を口にしたことはなかった。

 スピーチ原稿を渡された時も、「俺が本当にこれ言うの?」と思ったぐらいだ。教会所属の聖者だけど、信仰心はかなり薄い方だと思う。


 でも、「被災した人たちの役に立ちたい」と思ったら、自然と口に出ていた──そんないるかどうかもよく分からない神様にすがってでも、ここにいる人たちに幸せになって欲しいと願ったからかもしれない。



 王都から一緒に来た皆のところに戻ると、なぜかウィリアムさんが号泣していた。


「……ッ……!」


 ウィリアムさんは片手で顔を隠し、ヒクヒクと小さく嗚咽を漏らしていた。


「えっ!? ウィリアムさん、大丈夫ですか!!?」


 俺はびっくりして声をかけた。


「…………いえ、ノアさん、いいスピーチでしたよ。きっと聖神アウロン様も、今の言葉をお聞きになっていれば、手を差し伸べてくださったはずですよ」


 ウィリアムさんが震える声で言った。


「……あ、はい。きっとそうですよね……」


 俺は、ウィリアムさんのあまりの敬虔っぷりに、若干引いていた。


──そうだよな、教皇猊下の専属護衛を務められるぐらいだもんな。そりゃあ、信仰心厚い敬虔な聖鳳教会の信徒でもあるよな。


 本当にごめんなさい、信仰心の薄っすい聖者で……




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