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プロローグ〜定例会議〜

※主人公が出てくるのは、次話からです。

 ドラゴニア王国の第五の都市ディアロバードには、聖鳳教会本部がある。


 聖鳳教会は聖神アウロンを主神に、聖なる御使いを不死鳥と定めており、その下には癒しの女神サーナーティアと光の神ルクシオがいる。


 清く正しく生き、これらの神を正しく崇め奉ることで、邪が払われ、傷は癒やされ、人々の生活には光がもたらされる、というのが教えだ。



 教会本部では月に一度、教会上層部のみの定例会議が行われる。


 出席者は現教皇のライオネル、聖属性の大司教フェリクス、癒し属性の大司教ユリシーズ、光属性の大司教ルーファスだ。また、彼らの補佐官や護衛の聖騎士達も同じ会議室内に侍っていた。


 毛足の長いロイヤルブルー色の上等なカーペットが敷かれた教会の会議室では、白大理石の大円卓に四人の人物が座っていた。


 上座に座るのは、教皇のライオネルだ。


 彼の見事な黄金色の髪は緩やかにウェーブがかっており、肩口までに切り揃えられている。がっしりとした大柄の体躯に、男らしい精悍な顔つきをしていて、赤い瞳は鋭く、獅子を思わせるような風貌は、教皇らしい威厳をたたえている。


 教会らしい白と青を基調とした、一等豪奢な衣装をまとっている。


「百年ぶりの聖者か……」


 ライオネルが、低く重々しい声で呟いた。


「聖者は久しぶりだね。いろいろと噂は聞いているよ」


 会議室に、柔らかく上品な声が響いた。


 円卓でライオネルの右手側に座るのは、聖属性の大司教フェリクスだ。


 御使いの不死鳥のように線が細く優美なおじさまで、目尻にある柔らかい皺も、微笑んだ後のような薄いほうれい線からも、優しそうな人柄が窺える。

 白銀色の長い前髪は、緩やかに外巻きになっていて、緩くウェーブのかかった髪は、襟足まで伸びている。


「ノア君とは、たまたま王都への旅の途中で出逢いまして、彼に治癒魔術の才能を感じて、ユリシーズに紹介いたしました。治癒魔術が上手だとは思っていましたが、まさか欠損を治せる程とは思いもよりませんでしたよ」


 光属性の大司教のルーファスが、口を開いた。


 ライオネルの正面に座るのは、ルーファスだ。彼はこの中で一番若い。

 淡い輝くような金髪をさらりと流し、淡い黄色の瞳は光属性の魔力の強い特徴が出ている。物語の中の王子様のように整った美貌をしている。


「現在ノア君は、ガシュラ支部のクラーク司教の養子になり、中立派の婚約者も決まりました。ですが、相変わらず聖者を自陣へ取り込もうという動きはありますね。彼自身、聖者という肩書きを抜かせば、中級神官という少し心許ない立場です」


 癒し属性の大司教のユリシーズが、報告をした。


 円卓でライオネルの左手側に座るのは、ユリシーズだ。

 若く中性的な風貌をした男性で、緑色の長い髪は後ろに簡単に束ねられている。

 淡い黄色の瞳は、今は憂うように沈んでいる。


「人間は変わらないね。いつの時代も」


 フェリクスが、ほろ苦く笑った。


「いつまでも中級神官では座りが悪いだろう」


 ライオネルが片眉を上げて言った。その赤い瞳で、ユリシーズの方をチラリと見る。


「ですが、まだ数ヶ月前に神官になったばかりで、神官業務も現在習っている最中です。上級神官に上げるにはまだ早すぎるかと……」


 ユリシーズが溜め息混じりに答える。


「そうだね。早めに上級神官になれるように、いろいろ業務を回って経験してもらった方がいいね。……アルバン?」


 フェリクスが斜め後ろに目線をやった。彼の専属護衛の聖騎士が、「はっ」と片手を胸に当て、小さく頷いた。


「直近ですと、結界張りの遠征がございます」


 がっしりと大柄な聖騎士のアルバンが、ハキハキと発言した。


「うん。そこに行ってもらおうか」


 フェリクスが鷹揚に頷く。


「結界張り……場所はどこでしょうか?」


 ユリシーズが不安そうに顔色を翳らせて、尋ねた。


 結界張りは、辺境の地から要請されることが多く、強い魔物が出没することも多いため、危険度の高い業務だ。

 癒し属性の神官は、後方で治療や解毒などの支援業務を行うが、全く危険性が無いというわけではない。


「グリムフォレストです」


 アルバンが淡々と答えた。


「よりにもよって……」


 ユリシーズは案ずるように目線を下げた。


「レスタリア領の領主からは教会への寄付が多く、放置するわけにもいかず……」


 アルバンが、少し言い辛そうに答える。


「ついでに()()の動向も掴めるから、行かせたらいいよ」


 フェリクスが蜂蜜のようにとろりと深い黄金色の瞳を煌めかせて、口にした。


 一瞬にして、会議室内に緊張が走る。


 フェリクスには先見のスキルがある。

 彼のこのような発言は、一考する価値があるのだ。


「それならば、余計にノア君が行くのは危ないのでは……?」


 ユリシーズが伺うように、懇願するようにフェリクスを見つめた。


「……そうかい? 彼なら大丈夫そうだけどねぇ?」


 フェリクスは視線をどこか遠くを眺めるように変え、ぽつりと言った。

 どうやら先見のスキルを使用しているようだ。


「聖者は教会の大事な人材で、保護対象でもあるな……ウィリアム」


 ライオネルが呼ぶと、彼のすぐそばに聖騎士が現れた。


 癖の強い短い銀髪に、冴えるような藍色の瞳。細身ではあるが、聖騎士らしく背の高い筋肉質な体格だ。聖騎士の制服には、教皇直属を表す白いラインが入っていた。


「ウィリアム、今回は聖者が出るから護衛にまわってくれ」

「ふふん。当代の聖者ね。癒しの精霊の先祖返りだっけ? 大聖女や聖者が教会に出た代は、荒れるからねぇ〜」


 ウィリアムは藍色の目を細めて、大仰に肩をすくめた。


「先代の時は出なかったからな。羨ましい限りだ」


 ライオネルが疲れたような溜め息を吐く。


「逆にお勤め、お勤め、お勤めの変わり映えのないつまらない教皇人生だったよ。ライオネルが羨ましいよ〜」

「それなら、今回の護衛は引き受けてくれるな?」

「へいへい」


 ウィリアムは気軽に頷いた。


「僕のところからも、腕利きの神官を送るよ」


 フェリクスがのほほんと言った。

 彼の後ろに控えているアルバンは、同僚の聖属性の神官が現場に送られると聞き、遠い目をしていた。


「あと、見習いの子達も連れて行ってあげて。いい仕事をしてくれそうだ」


 フェリクスがチラリとアルバンの方を見上げると、彼は無言で頷いた。



 本日の定例会議が終わった後、ユリシーズは、会議室から出ようとするフェリクスとライオネルを呼び止めた。


「フェリクス様、猊下。大事な部下をお貸しいただき、ありがとうございます」


「うん、構わないよ。ノア君は、()の子孫なんだろう? 君が大事にしたい気持ちもよく分かるよ」


 フェリクスが聖職者らしい微笑みを浮かべて答えた。


「百年ぶりの聖者だからな。教会にとっても虎の子だ。当然の対処だ」


 ライオネルも力強く頷いた。


「お気遣い、痛み入ります」


 ユリシーズは片手を胸に当てて教会式の礼の姿勢をとると、会議室から下がっていった。



「……教会も浄化の時期ですか」


 ライオネルがぽつりと呟いた。


「そうだね。そろそろ一度教会内を浄化しておきたいね。大聖女や聖者がいる時は、彼らを利用しようとする者達がよく動くからね。狩りやすいんだよ」


 フェリクスも柔らかい笑みのまま頷いた。


「聖者が一人に大聖女が三人……事を起こすには丁度良いですね」


 ライオネルが、伺うようにフェリクスを見下ろした。


「人間は欲深いが故に、手入れが必要だからね……まずは、ドラゴニアからかな」


 フェリクスは、蜂蜜のように濃い黄金色の瞳を眇めた。

 その瞳の中では、小さな星々がキラリキラリと煌めいていた。




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