1-6 いじめへの抵抗 兄から学んだ中国武術 2
少年期のいじめがどれほど少年の心を傷つけ、深い傷跡を残すかご存じでしょうか。これは私の実体験です。アラ還になった今でも、悪夢として夢に出てきます。
子供のいじめも大人のいじめ(パワハラ・セクハラ・モラハラ・過重労働・過労・脳に大きなダメージを与えるストレス)決して許してはいけないのです。
【注意事項】
過去に過酷な「いじめ」体験をされた方は少なくないと思います。その中でも、「思い出したくない。」とか「フラッシュバックする」、「暴力場面が多い」という違和感を覚え、私のX(Twitter)にDMを送られる方は、本小説を読まない方がよろしいかと存じます。
「いいか、晶人。俺が教えるのは喧嘩だ。ジークンドーを使った喧嘩の仕方だ。喧嘩で30分も殴り合う奴がいるか?いないだろう。だから3分で終わらせるんだよ。相手が1人だったら1分で終わらせろ。だから最も力の出る利き腕の右手を前に出す。利き腕を最大限有効に使うのがジークンドーだ。」
「いいか、晶人、拳は決してボクシングのように斜めに構えるな。ジークンドーは全て縦拳だ。フェンシングのように構えて、ステップを踏む。全力で地面を踏み込みステップを踏むんだ。そして、構えた右手は前方に構え、相手がパンチを打ってきたら、素早く右手で払いのける。相手の腕が動いた瞬間に自分の利き腕である右手で弧を描くようにして払いのける。」
「いいか、晶人、相手のパンチが自分の顔面近くまできて払っても、もう遅いんだよ。顔面近くまできたパンチを払いのけるのは無理なんだ。だから、自分の右肩から拳6つ分の場所に拳を置き、右手の縦拳で、相手のパンチを直ぐに払いのけ、全体重を載せてフェンシングのように体重移動をして「壇中」を打ち抜く。右手を前に出して構えるのは攻守一体の構えなんだ。相手のパンチを右手で捌いたら速攻で、そのままステップを踏んで、全体重を載せて右拳の縦拳で叩きのめすんだ。晶人、まず、サンドバッグを相手にやってみろ。サンドバッグにバツ印の赤いビニールテープを貼るから、そこを「檀中」だと思って狙え。」
「はい。」
俺は、右拳にタオルを巻き、その上からテーピングをした。その後、右腕を前に出し、サンドバッグに対して垂直に構えた。そして、自分の右肩から拳6つ分の場所に右拳を置いて、ステップを踏み、利き腕である右拳を縦拳にして思い切って打ってみた。するとサンドバックが少し揺れた。
「晶人、40点だ。ステップの踏み出しが弱い。脚力が弱いんだ。踏み込み方も間違っている。そして、最大の間違いは、『打つんじゃない、打ち抜くんだよ。』」
「晶人、見ておけよ。こうやって打ち抜くんだ。」
「ダンッ。」
「ドンッ。」
サンドバッグが大きく上に跳んだ。ステップがすごく力強くて速く、コンクリートを踏む音が聞こえた。そして、拳が見えなかった。日頃から兄が言っていた。
「ボクシングは、体重移動よりも腰を切ってその力を拳に載せて打つんだ。でも、ジークンドーは違う。相手の両肩を結んだ線に対して垂直に構え、フェンシングのように全体重を載せて、利き腕である右拳の縦拳で打ち抜くんだ。」
「はい。打つのじゃなくて、打ち抜くんですね。でも、兄ちゃん、打ち抜くってどういうことなのかな?」
「打つのは相手をその場に倒すこと。打ち抜くのは、相手の体ごと吹き飛ばすような気持ちで、まっすぐ打ち抜くんだ。」
「いいか、晶人、短時間の喧嘩では、最大の武器である右拳を使え。右拳を前方に出すから相手のパンチを捌きやすいんだ。しかも、捌いた後、相手の乳首と乳首を結んだちょうど真ん中にある『壇中』を打ち抜くんだ。」
「晶人、この練習を1万回やれ。俺が本気を見せるからよく見ておけ。」
兄が力強いステップを踏むと、「ダン!」という音が響いた。そして、硬いサンドバッグはまっすぐに後ろに飛んだ後、弧を描いて宙に浮いた。
「スゲエ、兄ちゃん、スゲエよ!」
「いいか、晶人。相手の肩も顔もボディも打ったら、相手はうずくまるだけだ。でもなあ、相手の乳首と乳首を結んだラインのちょうど真ん中に『壇中』というツボがある。ここを打ち抜かれると、人間は力学上、吹っ飛ぶんだよ。どんな相手だって吹っ飛ぶ。体重が100kg以上ある相手でも必ず後方に4、5m以上吹っ飛ぶんだよ。」
「兄ちゃん、スゲエ技なんだね。でも、相手は後頭部から落ちたら頭がい骨が骨折して死ぬんじゃないの。」
「だからなあ、相手とタイマンするときは、廊下や教室などのコンクリートの上ではするな。中庭の観察池の近くにある芝生の上とか、校庭の中にある長い芝生の所まで連れて行って、タイマンをするんだ。相手から喧嘩を吹っ掛けられたら、『ちょっと待て、こっちでしよう。』と約束して芝生のある所まで連れて行け。」
「はい。分かりました。」
俺は3カ月ほどヒンズースクワットと縦拳の腕立て伏せと懸垂とフェンシングの刺突の練習と最も憎い相手である土屋の身長の高さを想定して、サンドバッグに赤いビニールテープでバツ印を貼り、壇中を打ち抜く練習を繰り返した。
「晶人、正しい打ち方が身についてきたな。後は、サンドバッグに土屋の顔を思い浮かべて打ち抜く練習をしろ。サンドバッグと思うな。土屋の顔をよく思い出して打ち抜くんだ。」
「はい。」
兄の練習を見ていると、手捌きから打撃への反復練習をした後、相手がキックをしてくる前に自分の足の裏で相手の足を止める練習を繰り返していた。
俺は、3か月間毎日この練習を真面目に続けてきた。そこで、兄に自分の正直な気持ちを伝えた。
「兄ちゃん、俺、この練習に自信がついたから、他の技を教えてくれないかな?」
すると、兄は私を睨みながら言った。
「晶人、よく聞いておけ、百の技の練習をするより、1つの技を1万回練習した奴には勝てないんだよ。俺はなあ、お前のしている練習を1万回やり遂げたんだ。だから、その技が身に付いて、どんな時でも考えずに打ちぬくことができるんだ。頭で覚えようとするな、どんな状況でも自然に出てくる技には勝てないんだよ。だから、1万回やり遂げろ!」
「はい。」
「晶人、自転車を乗る練習と同じなんだよ。最初は何度も何度も転ぶだろう?でも、知らず知らずのうちに自転車に乗れるようになる。一度覚えた自転車の運転は、5年たっても、10年経っても忘れない。それと同じなんだ。打撃技を1万回練習したら、相手がどんな姿勢や構えになっても考えずに打ち抜くことができる。晶人、兄ちゃんの言っている言葉の意味が分かるか?」
「はい、分かります。」
「晶人、もう一度言うぞ、百の技を簡単に身に付けた奴は、簡単に忘れるんだ。でもなあ、1万回練習した奴は、相手が誰であろうと、どんな状況であろうと、相手のパンチを右手で捌いて右手の縦拳で打ち抜くことができるんだよ。」
俺は兄の説明を得心した。兄も1万回の練習を通して、今の練習に取り組んでいることを理解した。そして、私は毎日その練習を続けた。練習を始めるときに、兄からノートと鉛筆を持ってくるように言われていた。やがて長かった1万回の打撃の練習が終わると、今度は、兄に相手のパンチを捌いてからの打撃を学んだ。それが身についた頃、私は兄の部屋に呼ばれてこう言われた。
「晶人、喧嘩になっても最初からジークンドーを使ってはいけない。まず相手の暴力を受けろ。それに耐えた後、相手に『おい、こっちに来い』と声を掛けて芝生のある所まで連れて行き、ジークンドーで倒せ。絶対に下がコンクリートや硬い地面、道路でジークンドーを使うな。そういう所で、相手を打ち抜くと相手を殺してしまう。だからいいな、わかったか。正当防衛の理由をちゃんとつくってから打ち抜け!芝生にもいろいろな芝生がある。できるだけ長い芝生が生えているところで戦え。」
「はい、分かりました。」
俺は真剣になっている兄の目を見つめながら、その約束をした。
兄から学んだ武術は、壊された心を取り戻す唯一の希望の光だった。
【注意事項】
『壇中』を狙った打撃は、人を殺めてしまう危険性のある技です。絶対に真似をしないで下さい。この小説には、この技がこれ以降も登場してきますが、絶対に真似をしてはいけません。
本章に書かれてある内容に、意義や大切さを感じましたら、お友達やご友人、知人、先輩、後輩の方々にご紹介下されば幸いです。
【注意事項】
『壇中』を狙った打撃は、人を殺めてしまう危険性のある技です。絶対に真似をしないで下さい。この小説には、この技がこれ以降も登場してきますが、絶対に真似をしてはいけません。