1-4 いじめへの抵抗 命がけで強くなってやる
少年期のいじめがどれほど少年の心を傷つけ、深い傷跡を残すかご存じでしょうか。これは私の実体験です。アラ還になった今でも、悪夢として夢に出てきます。
子供のいじめも大人のいじめ(パワハラ・セクハラ・モラハラ・過重労働・過労・脳に大きなダメージを与えるストレス)決して許してはいけないのです。
【注意事項】
過去に過酷な「いじめ」体験をされた方は少なくないと思います。その中でも、「思い出したくない。」とか「フラッシュバックする」、「暴力場面が多い」という違和感を覚え、私のX(Twitter)にDMを送られる方は、本小説を読まない方がよろしいかと存じます。
俺は心の中でつぶやいた。「やっぱりな。暴力教師のくせに、自分の体が小さいから体の大きな土屋を怖がっている。他の者が授業中に騒いだら怒鳴るくせに、土屋が席を離れたり、友達に嫌がらせをしたりしているのを見ていても注意しない。土屋が暴れると、取り押さえることができないからほったらかしだ。最低な教師だ、この迫田って教師は。」俺はずっと教師に絶望感を覚えていた。暴力を振るわれている俺に手を差し伸べてくれる先生は一人もいなかった。残念でならなかった。もう教師は信じない。今はまだ土屋に勝てない。でも、自分が命がけで努力し強くなったら、必ず復讐してやる。
それからは、俺の靴に牛乳を入れることはなくなった。しかし、私が風邪で高熱を出し、欠席をした次の日、登校して学校用のシューズに履き替えようとしたら、シューズの重さが明らかに違った。重かったのだ。
シューズの中を見ると、針のようなものがたくさん出ていた。シューズの裏を見ると、画鋲がたくさん見つかった。私は、また声を出して泣きたくなった。でも、ぐっと泣くのをこらえて、そのまま職員室に行った。卑怯で暴力教師の迫田先生に見せたかったからだ。しかし、迫田先生はまだ職員室に来ていなかった。教頭先生と数人の先生しかいなかった。教頭先生が上履きをぶら下げている私に話しかけてきた。
「君は、何年何組の誰ですか?」
「4年7組の大和晶人です。」
「大和君の担任は誰ですか?」
「迫田先生です。」
「迫田先生はまだ学校にいらっしゃっていないよ。」
「教頭先生でいいです。僕が登校したら、僕の上履きに画鋲がいっぱい刺さっていました。」
「大和君、職員室に入っていいよ。その上履きを見せてごらん。」
「失礼します。この前は靴に牛乳が入れられていました。今度は、上履きに画鋲がたくさん刺さっていて、上履きの中から針がたくさん出ています。」
「本当だね。こりゃあひどいなあ。迫田先生には、教頭先生から話をしておくから、この画鋲抜きで全部画鋲をとってごらん。教頭先生は右の上履きの画鋲を全部取るから、大和君は左の上履きの画鋲を取ってね。」
教頭先生は若い先生だった。いい人だと思った。でも、迫田先生に言っておくからといった。教頭先生に期待した自分が愚か者だと知った。もうこのことは、卑怯で暴力教師の迫田先生には黙っておこうと思った。自分より体が大きくて喧嘩の強い土屋の味方をする姿が目に浮かんだからだ。迫田先生は一度土屋を叱って、一本背負いをされてから、なにも注意ができなくなっていた。だから、授業中がワイワイガヤガヤで、今でいう学級崩壊だった。
俺は、教頭先生に深々と頭を下げてお礼を言った。そして、底が真っ黒になった靴下を履いたままそのシューズを履いた。そして、教室に入ると私の机の上に土屋が座り、土屋一派の子分たちは、私の椅子や周りの机に腰かけていた。
土屋と土屋一派の子分たちは、私が教室に入ると、ニタニタ笑っていた。
「おい、そこは俺の机だ、どいてくれ。」
「おお、そうだったな。お前の机だったな。」
土屋はそう言うと、私の机から素直にどいたが、私のシューズをじろじろ見て、ニタニタしていた。土屋の子分たちも笑っていた。
「土屋、お前は俺の上履きに画鋲をたくさん刺さなかったか?」
「はあ?知らねえよ?証拠でもあんのかよ?また、俺の胸ぐらを掴んで来いよ。今度は、靴箱のすのこじゃねえぞ。教室の床だ。床の下はコンクリートだぞ。」
「もう、胸ぐらは掴まないよ。死にたくないからな。」
「ハハハ、俺の強さが分かってきたじゃねえか。」
そう言うと、土屋と土屋一派の子分たちは、サッカーボールを持って校庭に出て行った。私は、一人で抱え込むことができなかった。泣きそうになったからだ。教室に肝付さんと石神君が来ていたので、シューズの画鋲のことを話した。
「晶人、大変だったな。辛かっただろう。」
「晶人君、私と石神君も一緒に行くから、3人で迫田先生に言いに行こうよ。」
「美和、やめといたほうがいいよ。晶人と俺と美和が3人で迫田先生に話に行っても無駄だよ。成績優秀の美和でさえ、往復ビンタするような先生だから、晶人が俺と美和に頼み込んで、先生に話に行ったとなれば、また、晶人が暴力教師の迫田先生に恨みを買うことになるんだ。だから、やめておこう。」
「肝付(美和)さん、石神君、ありがとうね。二人に話をしたら、なんだか気持ちが楽になったよ。本当にありがとう。二人が分かってくれれば、それで十分なんだ。」
「晶人君、本当にそれでいいの?」
「うん、もういいんだ。」
「晶人、お父さんとお母さんにいじめられていることを相談したのか?」
「いや、まだ、相談していないんだ。」
「我慢できなくなったら相談するんだぞ。」
「石神君、ありがとうね。そうするよ。」
石神君は、3年生のころに土屋と土屋一派の子分たちから酷いいじめを受けていたから僕の気持をよく分かってくれる。石神君はお父さんとお母さんに相談して、校長先生に解決してもらった経緯がある。でも、私は、父と母から僕自身がいじめられるような存在だと思われたくなかった。だから、必死に一人で耐えていた。
それ以降もいじめは続いた。俺の使っていたとび縄が真ん中から切られていた。いつも机の横についているフックにさげているとび縄が床に落ちていた。拾い上げて見てみるととび縄が真ん中から切られていた。ショックだった。でも我慢して耐えた。
幼いころから父に言われていた言葉がある。「勧善懲悪」という言葉だ。「善いことを勧めて、悪を懲らしめる。」父は、兄と私に分かりやすいように説明した後、「水戸黄門」の時代劇を見なさいと言ってくれた。善いことを勧める水戸黄門が、悪い代官を懲らしめることの意味がよく理解できた。そのためにも「俺は命がけで強くなってやる」という思いをより一層強くもつようになった。