1-3 いじめで壊れ続ける心
少年期のいじめがどれほど少年の心を傷つけ、深い傷跡を残すかご存じでしょうか。これは私の実体験です。アラ還になった今でも、悪夢として夢に出てきます。
子供のいじめも大人のいじめ(パワハラ・セクハラ・モラハラ・過重労働・過労・脳に大きなダメージを与えるストレス)決して許してはいけないのです。
【注意事項】
過去に過酷な「いじめ」体験をされた方は少なくないと思います。その中でも、「思い出したくない。」とか「フラッシュバックする」、「暴力場面が多い」という違和感を覚え、私のX(Twitter)にDMを送られる方は、本小説を読まない方がよろしいかと存じます。
俺は、土屋一派から、依然として人気のない所で蹴られたり殴られたりしていた。俺はこの頃から、心の中で「転校する前に、こいつらをぶちのめしてやる。」と復讐を誓った。でも、今の自分じゃ勝てない。勝つ自信がない。
俺は、土屋一派からのいじめを避けるために、昼休みは図書館に通った。本を読む場所は決まっていた。図書室の先生の目の前の机で本を読んでいた。
そのことを知っていた土屋一派は昼休みに私を叩いたり、蹴ったり、殴ったりすることができなくなった。私は内心ホッとしていた。やっと心を休める場所が見つかったと思った。昼休みは僅か45分だったが、私にとっては緊張感を癒す救いの時間だった。この時間がずっと続けばいいと願っていた。
ところがある日、昼休みの終わりのチャイムが鳴り、掃除開始の放送が流された。
私は、庭掃除のため、靴箱に行くと、信じられない光景を目にした。
「俺の、俺の、俺の靴に牛乳が入れられている。両方の靴に。」
俺は、思わず声を出して泣きたくなったが、ぐっとこらえた。土屋一派の仕業に違いない。その時、突然、
「おい、外国人、お前の靴に何か入っているなあ?汚ねえ靴だなあ。これじゃ掃除に行けないんじゃねえか、ハハハハ。」
土屋が靴箱の裏の壁から出できた。私の苦しそうにしている顔を見ながら笑っていた。土屋の子分たちも裏の壁から出てきて笑っていた。
「おい、土屋、これが人間のすることか!」
俺は、カッとなって土屋の胸ぐらをつかんだ。土屋は私のその腕を握りしめて、一本背負いをした。俺の体は弧を描いて宙を舞った。
「ダーン!」
俺は、靴箱のすのこの上に叩きつけられた。息ができなかった。体全身に痛みが走った。
「おい、茶髪の外人、俺がやった証拠はどこにあるんだ?証拠も知らねえくせにお前は生意気なんだよ!」
その後、俺の体に乗り、馬乗りになった形で、俺の顔面を殴ってきた。
「ガツン!ガッ!ボコッツ!ドン!ガッ!」
俺は両腕で自分の顔をかばったが、その隙間を狙ってきて殴ってきた。
土屋の殴った一発が私の左の鼻の斜め上に当たり、私は鼻血を出した。すごい量の鼻血だった。それを見た土屋も驚き、殴るのをやめた。
「おい、外人、今度俺の胸をつかんだら、殺すからな、よく覚えておけよ!」
そう言って、私の体から離れていった。その後、土屋と土屋の子分たちの話し声が聞こえてきた。
「土屋君、強えなあ。すごいよ。」
「土屋君は、道場で柔道を習っているんだぞ、黒帯だぞ。」
「まあな。幼稚園の頃からやっているから4年生で黒帯だぜ。俺の得意技は、さっき見ただろう?一本背負いなんだ。この前はよお、一本背負いで中学2年生に勝ったんだぞ。道場の先生も驚いていたぞ。」
「凄いなあ~、土屋君は。無敵だね。」
「あの荒川良平よりも強いんじゃねえの?」
「荒川って、空手の黒帯の荒川か?」
「そうだよ、荒川も体がでかくて筋肉がすごいらしいからな、皆、怖がっているんだぞ。体も柔らかくて、足が高く上がるって噂じゃん。」
「いやあ、それより土屋君のほうが強いよ。荒川が殴ってきたら、その腕をつかまえて一本背負いすれば楽勝じゃん。ねえ、土屋君?」
「まあな、橋口の言うとおりだ。俺があいつのシャツをつかまえたら絶対に俺が勝つに決まっている。」
「だよね、土屋君が近づいて荒川の制服をつかんだら、土屋君の勝ちだもんね。」
俺は、土屋と土屋一派の子分たちの話を聴いていた。俺は、小学2年生の頃、荒川良平君と同じクラスだった。体がとても大きかった。でも、弱い者いじめをしない人だった。だからクラスの皆から人気があった。俺も一緒に遊んでいたし、とても優しい人だった。私は密かにそんな荒川良平君に憧れていた。荒川君が空手を習っていることをその頃から知っていたが、荒川君は、空手のことを皆に自慢したり、威張ったりすることはしなかった。だから、俺は荒川君のことを尊敬し、「あんな男になりたいなあ。」と子供心に尊敬の念を抱いていた。
それから俺は、掃除には行かずに保健室に行った。保健室の先生は私の顔を見てとても驚いていた。
「晶人君、鼻血がすごいじゃないの、目の周りも紫色に腫れているわよ。ちょっと鼻を触らせてね。うん、骨折はしていないわね。でも、右目の周りが腫れ上がっているわよ。先生が指を出すから、左目を隠しなさい。今から先生が指を出すから何本に見えるか答えてね。」
「4本。」
「じゃあ、これは?」
「2本。」
「じゃあ、これは?」
「1本。」
「目は大丈夫みたいね。氷の入った袋とタオルを渡すから、タオルで氷をくるんで、右目の周りを冷やすのよ。」
「はい。」
「あなたのクラスの先生は誰なの?」
「迫田先生です。」
「誰に殴られたの。」
「土屋です。」
「ちゃんと、迫田先生に伝えるのよ、いいわね?」
「はい。」
掃除の時間の終わりを知らせるチャイムがなり、5時間目のチャイムが鳴った。私は、氷で右目を冷やしながら教室に戻った。クラスの皆はとても驚いていた。
「晶人君、どうしたの?」
優しい肝付さんに声をかけられた。
「晶人、土屋に殴られたんだろう?許せないなあ。」
仲の良かった石神君も怒っていた。でも、正義感の強い石神君でも土屋には勝てなかった。
5時間目の授業が始まった。担任の暴力教師の迫田先生が私の怪我に気付いた。
「おい、大和、その怪我どうした?」
「土屋君に殴られました。土屋君が僕の靴に牛乳を入れていました。」
「土屋、本当か?」
「僕は、大和の靴に牛乳を入れていません。証拠もありません。大和が、僕の胸ぐらを掴んできたから、叩きました。」
「大和、暴力は先にしたほうが負けなんだぞ。これからはするな。」
予想はしていたが、改めて暴力教師の迫田先生から土屋を正当化し、俺を悪者扱いにする行為に、俺の心は壊れそうだった。いや、実際、俺の心の半分は壊れ続けていると思っていた。
本章に書かれてある内容に、意義や大切さを感じましたら、お友達やご友人、知人、先輩、後輩の方々にご紹介下されば幸いです。