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誰かの目

作者: 雪河馬

特急電車はゆっくりと薄暮のホームへと滑り込み、やがてゆっくりと停止した。

ホームに降り立つ人ぼとは夕刻のためか出張帰りのスーツ姿が多く、その誰もが少し疲れた顔に見える。

そのひとり、藤原秀介は小型のスーツケースを引きずりながらエスカレータで改札を抜け、西口へと向かう。

昨日急いで旅行サイトから予約したホテルにチェックインすると、スーツをハンガーにかけてベッドに大の字になる。

「面倒くさいな・・・・。」

急な予定に振り回された腹立たしさから思わず愚痴がこぼれた。

大阪での一人暮らしも、もう3年、本当ならこの週末は九州に帰り、恋人の天野夏美と久々に会う予定だったが、午後になって工場の急な設備トラブルの連絡が入り、部署違いではあるがたまたまその日唯一予定のなかった秀介が駆り出されてライン停止する土日の工事に立ち会うことになったのだ。

「別に俺が修理するわけじゃないんだし、課長が立ち会えばいいのに・・・。」

ベッドの脇に無造作に転がしたスーツケースに視線を向ける。

今頃このスーツケースと共に博多駅に到着していたはずで、そのあとホテルのレストランで夏美と食事し、彼女にそのスーツケースの中にある指輪を渡し・・・・。


少し眠ってしまっていたようで、目を覚ますと外はすっかり暗くなっていた。

明日は早朝から工場に入ることになるので設備の仕様書を読み込んでおかないといけない。

とりあえず、駅前の店に入り、軽く夕食を済ますか・・・・

ベッドから身を起こそうとしたその時、そいつと目が合った。

陽炎のように不確かな姿で天井に浮かんでいるそいつは、やがてはっきりしていく。

ヒトかケモノかといえばヒトに近く、髪はサーベルのように鋼の輝きを持っている。

身体は明らかにヒトよりは大きく、3m以上はあるかという部屋の天井を覆い尽くしていた。

肌の色は赤黒く、鋼の牙を持つ大きな口からは幾重にも先が分かれた真っ赤な舌がのぞいている。

そして何より不気味なのは全身にまるで紋様のように浮かんだ無数の目である。

大きさはピンポン玉程度のものからソフトボール程度のものまで色々で形状も様々だが、そのうちの一対の目が秀介を睨んだ。

全身が金縛りにあったように動けず、目を閉じようにも複数の目に縛られたように瞼が閉じられず、遠近感が失われたせいか、それぞれの目がまるでバレーボールのような大きさに感じられる。


「ひっ・・・・・・・」

押しつぶされたような声が聞こえたが、それは秀介自身の声であった。

目はすでに視界の全体を覆い尽くす。

「わしを・・・・みたな・・・・・・・。」

まるで地の底から響くような声が聞こえた。

「みたな・・・・みてしもうたな・・・・・・」

これからどうなるかは全く予想は付かないが、ろくなことにはならないだろう。

恐怖に変わり、諦めが秀介の心の大半を締めたその時、金縛りが解けた。

そいつの手が喉にかかろうかという時に周助はベットから転げ落ちて、そのまま這うように扉へと向かう。

そしてドアノブに手をかけると倒れかかるようにドアを開いて外に飛び出す。

妙に身体が軽く感じた。

立ち上がってエレベーターの方に駆け出す・・・・・つもりなのだが、足が動かない。

声を出そうとしたが出ない、手も動かないし身体全体が自分のものではないみたいだ。

そのとき、自分の意思とは関係なく、身体が後ろを振り返ろうとする。

やめろ、後ろには・・・・・・・、何もいない。

いや、足元に男が倒れている。俺の身代わりにやつに襲われたのか?

その男は仰向けに倒れており、両目は抉られている。


あ・・・・・・・・・・、こいつは俺だ。


これも、書きかけの小説をサルベージしたものです。

原典は栃木県宇都宮市の伝説に登場する百目鬼どうめきから発想をうけたものですがもう少しドロドロとしたものに仕上げようとしてギブアップしていたものです。

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